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一章 新たな出会い
1ー01 物思いに耽る
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生ぬるい風が窓から吹きつけ、龍冴は小さく息を吐いた。
周囲の椅子を己の机の方へ持ち寄り、購買で買ってきたパンを口に入れながらクラスメイト──雅玖が言った。
「──んでさ、久世ってばひでぇの。昨日なんか『送ってく』って聞かなくてさ。大丈夫って言ってんのに、それでも引かなくて……終いにゃ乗ろうとした電車の時間も過ぎるわ、散々」
同じ男だってのになぁ、と雅玖がぼやきながら頬杖を突く。
久世というのは雅玖の二つ上の恋人で、龍冴とは昔から面識があった。
久しぶりに再会した時は多少のわだかまりがあったもの、それは一人の友人として『何もできなかった後悔』に近かったように思う。
それは中学二年の頃、『恋人が出来たんだ!』と嬉しそうに報告してきた事から始まった。
◆◆◆
「おめでとう、幸!」
ぎゅう、と龍冴は幸に抱き着いた。
互いの両親らは学生時代から仲が良く、自分たちもそう年齢が変わらないため幼い頃からよく遊んでいた。
家もすぐ近くにあり、時間が出来れば公園や互いの家で遊ぶのが常だった。
今日は龍冴の家で、部屋に入ってきて早々に告げられたのだ。
「へへっ、なんか……照れるな」
抱き着かれた幸は、どこか面映ゆそうに頬を掻く。
目の前にある耳の縁がじんわりと赤く染まっており、そのかすかな違いにおかしくなった。
龍冴が『どうやって出会ったのか』と聞けば、幸はその名前の通り幸せそうに恋人のことを話してくれた。
「一目惚れとか、そういうのだったみたいなんだ。入学してからすぐとか……そんな時から見てくれてたって知って、俺はそういうのなかったから……嬉しかったな」
さも愛しそうに、幸が誰かのことを話す姿は初めて見た。
同時に、幸をここまで笑顔にする人がどんな人間なのか知りたくなる。
「その、さ……よかったらその人に会ってみたいなぁ、って」
どう聞いたものか分からず、もごもごと口の中で呟く。
すると幸は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、それは嫌みたいなんだ。俺は会わせたいんだけど、向こうが嫌がってさ」
ごめんな、と幸がもう一度謝罪の言葉を口にする。
聞いたのはこちらなのに段々といたたまれなくなり、龍冴は慌てて両手を左右に振った。
「や、俺が悪いから! ……でも、どういう人なのかは知りたい、かな。幸が好きになるくらいだし」
龍冴が知る限り、幸はあまり人と付き合った事がないように思う。
だから好きな人が出来て付き合うのが自分のことのように嬉しくて、同時にその人のことを知りたいと思ったのだ。
(ちょっと、いや……かなりおかしいと思うけど)
それもこれも兄のように慕っているからだと自負しているが、内心で苦笑する。
およそ幼馴染みの枠を飛び抜けていると思うが、こうしていきいきとしている幸を見るのは初めてで、龍冴も無意識に浮かれているのかもしれない。
ちらりと真正面に座る幸を見ると、軽く目を見開いていたもののやがて破顔した。
「そうだなぁ。んじゃ、まずは俺達の出会いから話すか。入学式のあと同じクラスだって知ったんだけど──」
それから、幸と『恋人』との出会いから付き合うまでの経緯を二時間ほど聞かされた。
思っていたよりも長いと思いこそすれ、やはり龍冴の知らない幸がそこに居て嬉しかった。
周囲の椅子を己の机の方へ持ち寄り、購買で買ってきたパンを口に入れながらクラスメイト──雅玖が言った。
「──んでさ、久世ってばひでぇの。昨日なんか『送ってく』って聞かなくてさ。大丈夫って言ってんのに、それでも引かなくて……終いにゃ乗ろうとした電車の時間も過ぎるわ、散々」
同じ男だってのになぁ、と雅玖がぼやきながら頬杖を突く。
久世というのは雅玖の二つ上の恋人で、龍冴とは昔から面識があった。
久しぶりに再会した時は多少のわだかまりがあったもの、それは一人の友人として『何もできなかった後悔』に近かったように思う。
それは中学二年の頃、『恋人が出来たんだ!』と嬉しそうに報告してきた事から始まった。
◆◆◆
「おめでとう、幸!」
ぎゅう、と龍冴は幸に抱き着いた。
互いの両親らは学生時代から仲が良く、自分たちもそう年齢が変わらないため幼い頃からよく遊んでいた。
家もすぐ近くにあり、時間が出来れば公園や互いの家で遊ぶのが常だった。
今日は龍冴の家で、部屋に入ってきて早々に告げられたのだ。
「へへっ、なんか……照れるな」
抱き着かれた幸は、どこか面映ゆそうに頬を掻く。
目の前にある耳の縁がじんわりと赤く染まっており、そのかすかな違いにおかしくなった。
龍冴が『どうやって出会ったのか』と聞けば、幸はその名前の通り幸せそうに恋人のことを話してくれた。
「一目惚れとか、そういうのだったみたいなんだ。入学してからすぐとか……そんな時から見てくれてたって知って、俺はそういうのなかったから……嬉しかったな」
さも愛しそうに、幸が誰かのことを話す姿は初めて見た。
同時に、幸をここまで笑顔にする人がどんな人間なのか知りたくなる。
「その、さ……よかったらその人に会ってみたいなぁ、って」
どう聞いたものか分からず、もごもごと口の中で呟く。
すると幸は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、それは嫌みたいなんだ。俺は会わせたいんだけど、向こうが嫌がってさ」
ごめんな、と幸がもう一度謝罪の言葉を口にする。
聞いたのはこちらなのに段々といたたまれなくなり、龍冴は慌てて両手を左右に振った。
「や、俺が悪いから! ……でも、どういう人なのかは知りたい、かな。幸が好きになるくらいだし」
龍冴が知る限り、幸はあまり人と付き合った事がないように思う。
だから好きな人が出来て付き合うのが自分のことのように嬉しくて、同時にその人のことを知りたいと思ったのだ。
(ちょっと、いや……かなりおかしいと思うけど)
それもこれも兄のように慕っているからだと自負しているが、内心で苦笑する。
およそ幼馴染みの枠を飛び抜けていると思うが、こうしていきいきとしている幸を見るのは初めてで、龍冴も無意識に浮かれているのかもしれない。
ちらりと真正面に座る幸を見ると、軽く目を見開いていたもののやがて破顔した。
「そうだなぁ。んじゃ、まずは俺達の出会いから話すか。入学式のあと同じクラスだって知ったんだけど──」
それから、幸と『恋人』との出会いから付き合うまでの経緯を二時間ほど聞かされた。
思っていたよりも長いと思いこそすれ、やはり龍冴の知らない幸がそこに居て嬉しかった。
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