5 / 91
一章 新たな出会い
1ー01 物思いに耽る
しおりを挟む
生ぬるい風が窓から吹きつけ、龍冴は小さく息を吐いた。
周囲の椅子を己の机の方へ持ち寄り、購買で買ってきたパンを口に入れながらクラスメイト──雅玖が言った。
「──んでさ、久世ってばひでぇの。昨日なんか『送ってく』って聞かなくてさ。大丈夫って言ってんのに、それでも引かなくて……終いにゃ乗ろうとした電車の時間も過ぎるわ、散々」
同じ男だってのになぁ、と雅玖がぼやきながら頬杖を突く。
久世というのは雅玖の二つ上の恋人で、龍冴とは昔から面識があった。
久しぶりに再会した時は多少のわだかまりがあったもの、それは一人の友人として『何もできなかった後悔』に近かったように思う。
それは中学二年の頃、『恋人が出来たんだ!』と嬉しそうに報告してきた事から始まった。
◆◆◆
「おめでとう、幸!」
ぎゅう、と龍冴は幸に抱き着いた。
互いの両親らは学生時代から仲が良く、自分たちもそう年齢が変わらないため幼い頃からよく遊んでいた。
家もすぐ近くにあり、時間が出来れば公園や互いの家で遊ぶのが常だった。
今日は龍冴の家で、部屋に入ってきて早々に告げられたのだ。
「へへっ、なんか……照れるな」
抱き着かれた幸は、どこか面映ゆそうに頬を掻く。
目の前にある耳の縁がじんわりと赤く染まっており、そのかすかな違いにおかしくなった。
龍冴が『どうやって出会ったのか』と聞けば、幸はその名前の通り幸せそうに恋人のことを話してくれた。
「一目惚れとか、そういうのだったみたいなんだ。入学してからすぐとか……そんな時から見てくれてたって知って、俺はそういうのなかったから……嬉しかったな」
さも愛しそうに、幸が誰かのことを話す姿は初めて見た。
同時に、幸をここまで笑顔にする人がどんな人間なのか知りたくなる。
「その、さ……よかったらその人に会ってみたいなぁ、って」
どう聞いたものか分からず、もごもごと口の中で呟く。
すると幸は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、それは嫌みたいなんだ。俺は会わせたいんだけど、向こうが嫌がってさ」
ごめんな、と幸がもう一度謝罪の言葉を口にする。
聞いたのはこちらなのに段々といたたまれなくなり、龍冴は慌てて両手を左右に振った。
「や、俺が悪いから! ……でも、どういう人なのかは知りたい、かな。幸が好きになるくらいだし」
龍冴が知る限り、幸はあまり人と付き合った事がないように思う。
だから好きな人が出来て付き合うのが自分のことのように嬉しくて、同時にその人のことを知りたいと思ったのだ。
(ちょっと、いや……かなりおかしいと思うけど)
それもこれも兄のように慕っているからだと自負しているが、内心で苦笑する。
およそ幼馴染みの枠を飛び抜けていると思うが、こうしていきいきとしている幸を見るのは初めてで、龍冴も無意識に浮かれているのかもしれない。
ちらりと真正面に座る幸を見ると、軽く目を見開いていたもののやがて破顔した。
「そうだなぁ。んじゃ、まずは俺達の出会いから話すか。入学式のあと同じクラスだって知ったんだけど──」
それから、幸と『恋人』との出会いから付き合うまでの経緯を二時間ほど聞かされた。
思っていたよりも長いと思いこそすれ、やはり龍冴の知らない幸がそこに居て嬉しかった。
周囲の椅子を己の机の方へ持ち寄り、購買で買ってきたパンを口に入れながらクラスメイト──雅玖が言った。
「──んでさ、久世ってばひでぇの。昨日なんか『送ってく』って聞かなくてさ。大丈夫って言ってんのに、それでも引かなくて……終いにゃ乗ろうとした電車の時間も過ぎるわ、散々」
同じ男だってのになぁ、と雅玖がぼやきながら頬杖を突く。
久世というのは雅玖の二つ上の恋人で、龍冴とは昔から面識があった。
久しぶりに再会した時は多少のわだかまりがあったもの、それは一人の友人として『何もできなかった後悔』に近かったように思う。
それは中学二年の頃、『恋人が出来たんだ!』と嬉しそうに報告してきた事から始まった。
◆◆◆
「おめでとう、幸!」
ぎゅう、と龍冴は幸に抱き着いた。
互いの両親らは学生時代から仲が良く、自分たちもそう年齢が変わらないため幼い頃からよく遊んでいた。
家もすぐ近くにあり、時間が出来れば公園や互いの家で遊ぶのが常だった。
今日は龍冴の家で、部屋に入ってきて早々に告げられたのだ。
「へへっ、なんか……照れるな」
抱き着かれた幸は、どこか面映ゆそうに頬を掻く。
目の前にある耳の縁がじんわりと赤く染まっており、そのかすかな違いにおかしくなった。
龍冴が『どうやって出会ったのか』と聞けば、幸はその名前の通り幸せそうに恋人のことを話してくれた。
「一目惚れとか、そういうのだったみたいなんだ。入学してからすぐとか……そんな時から見てくれてたって知って、俺はそういうのなかったから……嬉しかったな」
さも愛しそうに、幸が誰かのことを話す姿は初めて見た。
同時に、幸をここまで笑顔にする人がどんな人間なのか知りたくなる。
「その、さ……よかったらその人に会ってみたいなぁ、って」
どう聞いたものか分からず、もごもごと口の中で呟く。
すると幸は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、それは嫌みたいなんだ。俺は会わせたいんだけど、向こうが嫌がってさ」
ごめんな、と幸がもう一度謝罪の言葉を口にする。
聞いたのはこちらなのに段々といたたまれなくなり、龍冴は慌てて両手を左右に振った。
「や、俺が悪いから! ……でも、どういう人なのかは知りたい、かな。幸が好きになるくらいだし」
龍冴が知る限り、幸はあまり人と付き合った事がないように思う。
だから好きな人が出来て付き合うのが自分のことのように嬉しくて、同時にその人のことを知りたいと思ったのだ。
(ちょっと、いや……かなりおかしいと思うけど)
それもこれも兄のように慕っているからだと自負しているが、内心で苦笑する。
およそ幼馴染みの枠を飛び抜けていると思うが、こうしていきいきとしている幸を見るのは初めてで、龍冴も無意識に浮かれているのかもしれない。
ちらりと真正面に座る幸を見ると、軽く目を見開いていたもののやがて破顔した。
「そうだなぁ。んじゃ、まずは俺達の出会いから話すか。入学式のあと同じクラスだって知ったんだけど──」
それから、幸と『恋人』との出会いから付き合うまでの経緯を二時間ほど聞かされた。
思っていたよりも長いと思いこそすれ、やはり龍冴の知らない幸がそこに居て嬉しかった。
8
あなたにおすすめの小説
小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
君の紡ぐ言葉が聴きたい
月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる