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一章 新たな出会い
1‐03 正直なところ、気乗りしない
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やがて全員が永睦の傍に集まると、円陣を組んで先程よりもこそこそと小さな声で言った。
「実はな、三年の先輩がやべぇ人誑しらしい」
「それ龍冴だろ」
「うん、龍ちゃんめちゃくちゃ人誑しだし」
「お前ら酷くね?」
雅玖が合点がいったというふうに、仁は仁で雅玖に同調する。
人誑しというのは聞こえが悪いが、あながち間違っていないため、強く否定できない自分の性格が恨めしい。
「ま、りょーがが誰にでもいい顔するのは間違いない。……話を戻すとな、その先輩は初対面でも性別とか関係なく声掛けまくってるらしい。んで、もっとタチ悪いのが『付き合ってるのは内緒』って言うんだと」
おかしいよな、と永睦は眉間に軽く皺を寄せて言った。
永睦とは高校に入学してすぐ仲良くなったが、その実噂好きだ。
時々女子に交じって何やら喋り込んでいる時があり、周囲から情報収集をしているらしい。
人の口に戸は立てられない、とはよく言うものの永睦が言うとすべてが嘘のように聞こえるため、今回もそうだと思った。
──龍冴以外は。
(内緒、って……幸と付き合った人も同じじゃ)
そして己の恋人である椰一も、永睦の言う先輩とあまりに似ているのだ。
まさか、と皆に気付かれない程度に瞼を伏せ、内心で否定する。
多少の束縛はあれど、椰一は龍冴を大事にしてくれているのだ。
授業が終わり、放課後になれば椰一は部活へ顔を見せる。
既に引退しているため、おかしいと思ったが理由を聞くのは野暮だと思った。
最初こそ龍冴は終わるまで待とうとして、しかし『悪いからいいよ』と言われたため、以後は友人らと帰っている。
椰一になんの疑問も持たないのは、付き合ってすぐに『お前に言うのは全部本音だから』と言われたからだった。
実際、椰一が嘘を言っているようには見えない。
本当なら遊びに行きたいが、休みの日は『受験勉強があるから』と申し訳なさそうに言われたのだ。
こちらの我儘で困らせたくも、また煩わせたくもないから黙っている。
恋人には多少の我儘を言うべきだと、頭のどこかで理解している。
けれど椰一は龍冴と話す時は嬉しそうで、そして優しいのだ。
だから何も問題はない、と何度も何度も同じ言葉を心の中で唱える。
「いや、そしたら名前も分かるだろ。なんで名前すら分かんねぇんだよ」
そんな龍冴の疑問に答えるように、雅玖が問うた。
確かにそれはおかしい。
学年や性別が分かっていて、苗字すら分からないど普通ではないはずだ。
その人が学年問わず誰にでも声を掛けているのならば、付き合っていた側が友人に相談していたのならば、回り回ってどこかで必ずボロが出る。
今回は今回で噂でしかないが、永睦の情報収集力『だけ』は飛び抜けているのだ。
「……なんかおかしくね」
ふと仁が閃いたように言った。
「今日は雅玖もバイト無い……んだよな確か。そしたらその先輩が誰か探さん?」
皆のためにもさ、ときらきらとした瞳で続ける。
(……そういやこいつ、首突っ込みたがりだった)
この場で集まった誰もがそう思っただろう。
事実、こればかりは真偽がほとんど分からないため、永睦もこれ以上何も言えないのだという。
「ま、そういうこと。……けど」
やがて永睦が肩に回していた手を解いたことで、全員がその場でしばらく黙る。
叶うことならば、こんなに面倒そうな事案をこそこそ嗅ぎ回るべきではない。
そう思いたいのだが──。
「やるか、人探し!」
にっこりとここ最近で一番の笑みを見せた永睦も仁に負けず劣らず、詮索するのが好きだったのだ。
「実はな、三年の先輩がやべぇ人誑しらしい」
「それ龍冴だろ」
「うん、龍ちゃんめちゃくちゃ人誑しだし」
「お前ら酷くね?」
雅玖が合点がいったというふうに、仁は仁で雅玖に同調する。
人誑しというのは聞こえが悪いが、あながち間違っていないため、強く否定できない自分の性格が恨めしい。
「ま、りょーがが誰にでもいい顔するのは間違いない。……話を戻すとな、その先輩は初対面でも性別とか関係なく声掛けまくってるらしい。んで、もっとタチ悪いのが『付き合ってるのは内緒』って言うんだと」
おかしいよな、と永睦は眉間に軽く皺を寄せて言った。
永睦とは高校に入学してすぐ仲良くなったが、その実噂好きだ。
時々女子に交じって何やら喋り込んでいる時があり、周囲から情報収集をしているらしい。
人の口に戸は立てられない、とはよく言うものの永睦が言うとすべてが嘘のように聞こえるため、今回もそうだと思った。
──龍冴以外は。
(内緒、って……幸と付き合った人も同じじゃ)
そして己の恋人である椰一も、永睦の言う先輩とあまりに似ているのだ。
まさか、と皆に気付かれない程度に瞼を伏せ、内心で否定する。
多少の束縛はあれど、椰一は龍冴を大事にしてくれているのだ。
授業が終わり、放課後になれば椰一は部活へ顔を見せる。
既に引退しているため、おかしいと思ったが理由を聞くのは野暮だと思った。
最初こそ龍冴は終わるまで待とうとして、しかし『悪いからいいよ』と言われたため、以後は友人らと帰っている。
椰一になんの疑問も持たないのは、付き合ってすぐに『お前に言うのは全部本音だから』と言われたからだった。
実際、椰一が嘘を言っているようには見えない。
本当なら遊びに行きたいが、休みの日は『受験勉強があるから』と申し訳なさそうに言われたのだ。
こちらの我儘で困らせたくも、また煩わせたくもないから黙っている。
恋人には多少の我儘を言うべきだと、頭のどこかで理解している。
けれど椰一は龍冴と話す時は嬉しそうで、そして優しいのだ。
だから何も問題はない、と何度も何度も同じ言葉を心の中で唱える。
「いや、そしたら名前も分かるだろ。なんで名前すら分かんねぇんだよ」
そんな龍冴の疑問に答えるように、雅玖が問うた。
確かにそれはおかしい。
学年や性別が分かっていて、苗字すら分からないど普通ではないはずだ。
その人が学年問わず誰にでも声を掛けているのならば、付き合っていた側が友人に相談していたのならば、回り回ってどこかで必ずボロが出る。
今回は今回で噂でしかないが、永睦の情報収集力『だけ』は飛び抜けているのだ。
「……なんかおかしくね」
ふと仁が閃いたように言った。
「今日は雅玖もバイト無い……んだよな確か。そしたらその先輩が誰か探さん?」
皆のためにもさ、ときらきらとした瞳で続ける。
(……そういやこいつ、首突っ込みたがりだった)
この場で集まった誰もがそう思っただろう。
事実、こればかりは真偽がほとんど分からないため、永睦もこれ以上何も言えないのだという。
「ま、そういうこと。……けど」
やがて永睦が肩に回していた手を解いたことで、全員がその場でしばらく黙る。
叶うことならば、こんなに面倒そうな事案をこそこそ嗅ぎ回るべきではない。
そう思いたいのだが──。
「やるか、人探し!」
にっこりとここ最近で一番の笑みを見せた永睦も仁に負けず劣らず、詮索するのが好きだったのだ。
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