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一章 新たな出会い
1‐08 玄関先での経緯
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「……ねぇ、やっぱり俺も着いていこうか?」
桜雅が心配そうに眉を寄せ、きゅんきゅんと子犬のように瞳を潤ませている。
「マーカーとかノート買いに行くだけだし、そもそも過保護過ぎるんだが」
呆れて声も出ないとはこのことで、龍冴は心の底から低く言った。
「でもそろそろ暗くなるしさぁ? 知らないみたいだから言うけど、夜になると変な男達が居るんだよ? だから」
「さっきからすぐ帰るっつってるだろ!?」
尚も言い募ろうとする桜雅の言葉に被せ気味に吠える。
扉一枚隔てた先には、雅玖と仁が待ってくれている。
二人とも各々の家まで自転車で行ける距離だが、二人とも丁度文房具屋が併設されている駅前のビルに用があるらしく、それならと龍冴も行く事になったのだ。
早くテスト勉強がしたい訳でも、また本当にマーカーペンやノートが無くなった訳でもない。
ここ最近は特に過保護に拍車が掛かっている、目の前の兄から逃れたいだけだ。
こうしている間にも時間がなくなっていると思うと、玄関先で押し問答をする時間がもったいない。
(いくら暇でもやる事はあるんだろうに)
優が部屋に引き籠もっているというのもあるが、両親は共働きで帰宅が遅いため寂しいのだと思う。
けれど龍冴がそう思っているだけで、体のいい遊び相手が欲しいだけなのかもしれないが。
(何考えてるか分かんないんだよな、言わないけど)
にこにこといつも笑みを浮かべているのはいいとしても、弟の友達にまでダル絡みするのはあまり頂けないと思う。
これで頭がいいだけでなく顔もいいのだから、こちらとしては複雑だった。
「あ、じゃあ買い物終わったらメールして。すぐ迎えに行くから──」
「行ってきます」
さすがに一緒に行くことは諦めたものの、駅まで迎えに行こうとする兄の言葉を振り切るように、龍冴はにっこりと笑った。
「え、ちょ」
慌てた桜雅の声を背中で受けながら、さっさとドアを開ける。
「悪い、遅くなった」
雅玖と仁は携帯で何かを見ていたようで、龍冴に気付くと二人同時に顔を上げた。
「いんや、気にすんな。……それより置いていっていいのか、あの人」
面倒そうだな、という本音を隠そうともしない雅玖はこちらから見てもいっそ清々しい。
桜雅が家に居る時は毎回帰り際に似たようなやり取りをするからか、これが日常だと知っている。
それでも今回は少し長かったため、申し訳なさも相俟って苦笑いで返す。
「……本当に心配なら後ろから尾けてくるから。ま、無視するけど」
「りょがちゃんりょがちゃん、ちょっとこれ見てみ?」
「ん?」
はは、とどこか遠い目をしながら言うと、仁が雅玖との間に半ば割り込んできた。
差し出された携帯の画面には、ビビットな色で『新発売!』とある。
「……アイス?」
一見至って普通のアイス──チョコミントのアイスに、トッピングとしてポッキーやマシュマロなど、甘そうなお菓子が盛り付けられている──だが、問題はその下にある文字だった。
「そ! これ、駅から反対側なんよ。そしたらさ、翔哉が店に居るみたいだから顔出してくるわぁ」
『十%増量してます!』という謳い文句は、値段の分には手頃だということも手伝って、客の購買意欲を唆るものだろう。
そもそも駅の反対側のビルは飲食店が立ち並んでいるため、この時間を過ぎれば会社帰りのサラリーマン達で溢れ返る。
仁と翔哉は幼稚園からの腐れ縁らしく、けれど翔哉は同い年ながら働いているようだ。
今日は仕事が早く終わったため、先程最寄り駅に着いたところらしい。
「んでさ、良かったら二人もおいでってさ。来る?」
桜雅が心配そうに眉を寄せ、きゅんきゅんと子犬のように瞳を潤ませている。
「マーカーとかノート買いに行くだけだし、そもそも過保護過ぎるんだが」
呆れて声も出ないとはこのことで、龍冴は心の底から低く言った。
「でもそろそろ暗くなるしさぁ? 知らないみたいだから言うけど、夜になると変な男達が居るんだよ? だから」
「さっきからすぐ帰るっつってるだろ!?」
尚も言い募ろうとする桜雅の言葉に被せ気味に吠える。
扉一枚隔てた先には、雅玖と仁が待ってくれている。
二人とも各々の家まで自転車で行ける距離だが、二人とも丁度文房具屋が併設されている駅前のビルに用があるらしく、それならと龍冴も行く事になったのだ。
早くテスト勉強がしたい訳でも、また本当にマーカーペンやノートが無くなった訳でもない。
ここ最近は特に過保護に拍車が掛かっている、目の前の兄から逃れたいだけだ。
こうしている間にも時間がなくなっていると思うと、玄関先で押し問答をする時間がもったいない。
(いくら暇でもやる事はあるんだろうに)
優が部屋に引き籠もっているというのもあるが、両親は共働きで帰宅が遅いため寂しいのだと思う。
けれど龍冴がそう思っているだけで、体のいい遊び相手が欲しいだけなのかもしれないが。
(何考えてるか分かんないんだよな、言わないけど)
にこにこといつも笑みを浮かべているのはいいとしても、弟の友達にまでダル絡みするのはあまり頂けないと思う。
これで頭がいいだけでなく顔もいいのだから、こちらとしては複雑だった。
「あ、じゃあ買い物終わったらメールして。すぐ迎えに行くから──」
「行ってきます」
さすがに一緒に行くことは諦めたものの、駅まで迎えに行こうとする兄の言葉を振り切るように、龍冴はにっこりと笑った。
「え、ちょ」
慌てた桜雅の声を背中で受けながら、さっさとドアを開ける。
「悪い、遅くなった」
雅玖と仁は携帯で何かを見ていたようで、龍冴に気付くと二人同時に顔を上げた。
「いんや、気にすんな。……それより置いていっていいのか、あの人」
面倒そうだな、という本音を隠そうともしない雅玖はこちらから見てもいっそ清々しい。
桜雅が家に居る時は毎回帰り際に似たようなやり取りをするからか、これが日常だと知っている。
それでも今回は少し長かったため、申し訳なさも相俟って苦笑いで返す。
「……本当に心配なら後ろから尾けてくるから。ま、無視するけど」
「りょがちゃんりょがちゃん、ちょっとこれ見てみ?」
「ん?」
はは、とどこか遠い目をしながら言うと、仁が雅玖との間に半ば割り込んできた。
差し出された携帯の画面には、ビビットな色で『新発売!』とある。
「……アイス?」
一見至って普通のアイス──チョコミントのアイスに、トッピングとしてポッキーやマシュマロなど、甘そうなお菓子が盛り付けられている──だが、問題はその下にある文字だった。
「そ! これ、駅から反対側なんよ。そしたらさ、翔哉が店に居るみたいだから顔出してくるわぁ」
『十%増量してます!』という謳い文句は、値段の分には手頃だということも手伝って、客の購買意欲を唆るものだろう。
そもそも駅の反対側のビルは飲食店が立ち並んでいるため、この時間を過ぎれば会社帰りのサラリーマン達で溢れ返る。
仁と翔哉は幼稚園からの腐れ縁らしく、けれど翔哉は同い年ながら働いているようだ。
今日は仕事が早く終わったため、先程最寄り駅に着いたところらしい。
「んでさ、良かったら二人もおいでってさ。来る?」
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