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二章 その後の俺は
2‐06 話したいこと
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◆◆◆
「なぁなぁ、どうだった?」
「……何が」
教室から出ようとすると、永睦がとびきりの笑顔で龍冴の元まで小走りでやってきた。
ホームルーム中も薄気味悪い永睦の視線をを真横から感じていたため、無視して帰ろうとしたのだが失敗したようだ。
「またまたぁ。アタシ昨日見てたのよぉ? あ・い・の・こ・く・は・く」
んま、と唇を窄めて綺麗なリップ音を鳴らす。
「その口調やめんか」
ぞわりと寒気が走り、さっさと歩き出そうとする龍冴に永睦は諦めず後を着いていく。
「だってさ、気になるじゃん? 珍しく一人で帰りたいって言ったし、そしたら噂の鷹月大和と帰ってるし」
「噂ぁ?」
またか、と思いこそすれ、大和の名前が出てくるのは予想外で龍冴は図らずも立ち止まる。
(あ、しまった)
そう思ってももう遅い。
がっちりと永睦に肩を組まれ、思っていたよりも強い力に龍冴は脱力した。
こうなった時の永睦は面倒臭いこと極まりなく、それでも最後まで話を聞いてみたいと思ったのは初めての事だった。
「次期日本代表が特定の誰か以外と話すの、結構珍しいみたいなんだよな。いつもすぐ帰るから、話し掛けたくても無理って言ってた」
お前もだけど罪な男だねぇ、と永睦は楽しげな声音を隠さずに顎を撫でる。
けれど龍冴が気になったのは大和の肩書きだった。
「日本代表ってあれかな、サッカーの世界大会とかそういう」
「いや初歩の聞き方よ。……らしいってだけだな、まだ。日本代表になる試験があるとかなんとか」
そこのところは確定はしていないようで、それでも近い将来大和が世界へ飛び立ってプレーする姿は容易に想像出来る。
(……日本代表、か)
言葉にするのは簡単だが、そこまで辿り着くには並大抵の努力で成せるものではない。
いくら好きであっても嫌になったり、辞めたいと思った時があるはずだ。
昨日の大和はそんな素振りを一切見せていなかったが、もしも本当ならば凄い選手なのではないか。
(今から走ったら間に合うかな。一緒に帰ろうとか、そういう約束はしてないし、そもそも入れ違いかもしれないけど)
駅に着くと大和が乗る電車が丁度来ていたようで、挨拶もほどほどに改札を通っていったのが最後だった。
後ろ姿が見えなくなるまで見送ったが、連絡先を交換しておけば良かったことに思い至ったのはすぐ。
まだ話して二日かそこらだというのに、もっと話したい、大和のことを知りたいと思っている自分に笑ったものだ。
「──あれ、龍ちゃんじゃん」
すると前方からこちらに手を振ってくる生徒が居た。
「華月」
「今日も人気者だね。……ども」
龍冴に微笑むと、華月は永睦にぺこりと会釈する。
「よし、俺はお邪魔みたいだし先行くわ」
じゃあな、と永睦はにこりと笑うと生徒の中に紛れ、やがて見えなくなった。
どうやら永睦なりに気遣ってくれたようで嬉しい反面、華月の性格にはやや呆れてしまう。
(みんな、悪い奴じゃないんだけどな)
華月とは高校に入ってしばらく、中庭で一人で弁当を食べていたのを見つけたのが始まりだった。
その間は雅玖を始めとした友人らが必ず一人は隣りに居たが、最初に龍冴が話し掛けてきたというのもあってか、華月は現在進行形で龍冴以外とあまり話さない。
病気がちだからか学校に来るにしてもバラバラで、会えたとしても体調が悪そうなため、顔を合わせるのは実に久しぶりだった。
「最近学校に来るとね、よく君の名前を聞くよ」
「え」
ふと華月が声高に言った。
そんな声が出せるとは思わず瞬きを繰り返していると、華月はふふっと照れたように頭を掻く。
「実はさ、龍ちゃんに言っておきたいことがあるんだ」
「俺に……?」
「うん。あ、ここじゃなんだし静かなところ行こ?」
そう言われて連れて行かれた先は、初めて話した中庭だった。
「なぁなぁ、どうだった?」
「……何が」
教室から出ようとすると、永睦がとびきりの笑顔で龍冴の元まで小走りでやってきた。
ホームルーム中も薄気味悪い永睦の視線をを真横から感じていたため、無視して帰ろうとしたのだが失敗したようだ。
「またまたぁ。アタシ昨日見てたのよぉ? あ・い・の・こ・く・は・く」
んま、と唇を窄めて綺麗なリップ音を鳴らす。
「その口調やめんか」
ぞわりと寒気が走り、さっさと歩き出そうとする龍冴に永睦は諦めず後を着いていく。
「だってさ、気になるじゃん? 珍しく一人で帰りたいって言ったし、そしたら噂の鷹月大和と帰ってるし」
「噂ぁ?」
またか、と思いこそすれ、大和の名前が出てくるのは予想外で龍冴は図らずも立ち止まる。
(あ、しまった)
そう思ってももう遅い。
がっちりと永睦に肩を組まれ、思っていたよりも強い力に龍冴は脱力した。
こうなった時の永睦は面倒臭いこと極まりなく、それでも最後まで話を聞いてみたいと思ったのは初めての事だった。
「次期日本代表が特定の誰か以外と話すの、結構珍しいみたいなんだよな。いつもすぐ帰るから、話し掛けたくても無理って言ってた」
お前もだけど罪な男だねぇ、と永睦は楽しげな声音を隠さずに顎を撫でる。
けれど龍冴が気になったのは大和の肩書きだった。
「日本代表ってあれかな、サッカーの世界大会とかそういう」
「いや初歩の聞き方よ。……らしいってだけだな、まだ。日本代表になる試験があるとかなんとか」
そこのところは確定はしていないようで、それでも近い将来大和が世界へ飛び立ってプレーする姿は容易に想像出来る。
(……日本代表、か)
言葉にするのは簡単だが、そこまで辿り着くには並大抵の努力で成せるものではない。
いくら好きであっても嫌になったり、辞めたいと思った時があるはずだ。
昨日の大和はそんな素振りを一切見せていなかったが、もしも本当ならば凄い選手なのではないか。
(今から走ったら間に合うかな。一緒に帰ろうとか、そういう約束はしてないし、そもそも入れ違いかもしれないけど)
駅に着くと大和が乗る電車が丁度来ていたようで、挨拶もほどほどに改札を通っていったのが最後だった。
後ろ姿が見えなくなるまで見送ったが、連絡先を交換しておけば良かったことに思い至ったのはすぐ。
まだ話して二日かそこらだというのに、もっと話したい、大和のことを知りたいと思っている自分に笑ったものだ。
「──あれ、龍ちゃんじゃん」
すると前方からこちらに手を振ってくる生徒が居た。
「華月」
「今日も人気者だね。……ども」
龍冴に微笑むと、華月は永睦にぺこりと会釈する。
「よし、俺はお邪魔みたいだし先行くわ」
じゃあな、と永睦はにこりと笑うと生徒の中に紛れ、やがて見えなくなった。
どうやら永睦なりに気遣ってくれたようで嬉しい反面、華月の性格にはやや呆れてしまう。
(みんな、悪い奴じゃないんだけどな)
華月とは高校に入ってしばらく、中庭で一人で弁当を食べていたのを見つけたのが始まりだった。
その間は雅玖を始めとした友人らが必ず一人は隣りに居たが、最初に龍冴が話し掛けてきたというのもあってか、華月は現在進行形で龍冴以外とあまり話さない。
病気がちだからか学校に来るにしてもバラバラで、会えたとしても体調が悪そうなため、顔を合わせるのは実に久しぶりだった。
「最近学校に来るとね、よく君の名前を聞くよ」
「え」
ふと華月が声高に言った。
そんな声が出せるとは思わず瞬きを繰り返していると、華月はふふっと照れたように頭を掻く。
「実はさ、龍ちゃんに言っておきたいことがあるんだ」
「俺に……?」
「うん。あ、ここじゃなんだし静かなところ行こ?」
そう言われて連れて行かれた先は、初めて話した中庭だった。
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