【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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二章 その後の俺は

2‐10 迎えに来たよ

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「……この黒猫、俺っぽい?」

 華月が送ってきたものに比べると、きりりとした金色の瞳はデフォルメされていても可愛い。

 けれどどちらかと言うと、黒猫の方が格好良いといった方がしっくりくるだろう。

「んー、思ってるよりしっかりしてるところとか? あ、あと黒猫を見ると幸せになれるって」

「しっかりはしてないんだけどな」

 小さく苦笑すると、先程はなかった新着のメッセージが華月の名前の横に十ほど表示されており、なんだろうと思っているうちにまた一つ二つと増えていく。

「ん……?」

 嫌な予感がしたが、恐る恐るメッセージ欄の先頭までスクロールすると、やはり予感は的中した。

「うわぁ……」

 反射的に低い声が漏れる。

『テストお疲れ様!』

『一日頑張った可愛い弟へ』

『お兄ちゃんからプレゼントだよ』

 それは桜雅からで、そんなメッセージのあとに投げキッスをしたキャラクターのスタンプが連続で送られてきていた。

 こちらが既読を付けたのに気付くと、今度はメッセージを連投される。

『見てくれてる!?』

『テストで分からなかったところ、また教えるね』

『そうそう、お昼はりょうちゃんの好きなお店行こう』

『車で来てるんだけど、まだ来ない?』

「え、怖」

「どしたの」

 無意識に呟いた言葉に、華月がこちらの携帯を覗き込む。

「……大変だね」

 なんと言ったらいいのか言葉に詰まっているのが十二分に伝わり、何もしていないのにこちらが申し訳なくなった。

 同時にこれは桜雅が校門の前に車を停めているも同義で、加えてわざわざ車を出て待っているのは必至だった。

(目立つ事してくれるな……!)

 桜雅が迎えに来てくれたのは高校の入学式を終えた時きり一度だが、その時ですら目立っていたのだ。

 なにぶん、顔の良さに加えてモデルかと見間違うほど無駄のない容姿は、そこらに居た女子生徒や保護者までもとりこにした。

 けれど龍冴を見た瞬間、傍目から見れば耽美たんび的な表情がぱっと笑顔になったのだから、そのギャップで黄色い歓声が上がったのは未だに覚えている。

 よってテストなどの午前中に終わる時は来るな、と前回の中間試験で口が酸っぱくなるほど釘を刺した。

 たった三ヶ月ほど前のことを忘れているとは思いたくないが、それでも一歩でも校門へ出れば良い意味でも悪い意味でも目立つ。

 ただでさえ面倒な事が多いのに、このまま桜雅が待っている車へ乗り込むのはもちろん、家以外で顔を合わせたくなかった。

(電車に乗らないで済むのはありがたい。……ありがたいけど、めちゃめちゃ面倒くせぇ)

 ひくりと頬が引き攣るのを感じ、ストレスとなんとも言い難い怒りが溜まってきているのだと嫌でも理解する。

『いらん、一人で帰れ』

 多少の反抗くらい許して欲しいと思いながら、祈るような気持ちで送信する。

 するとすぐに既読が付いて十秒ほど、別のアプリで桜雅から着信があった。

 メッセージをメインで使っているアプリは声が聞こえにくいため、仮に通話をする時は写真投稿用のアプリから電話を掛けている。

 桜雅もそれを分かっているからだが、無言でコールが止むのを待っているとやがて切れた。

 かと思えばメッセージアプリに通知が来て、キャラクターが泣いているスタンプが見えたあと『なんで出てくれないの!』と傍から見れば恋人かと思う文面が目に入る。

「……ね、行ってあげたら?」

 ここまでの一部始終を黙って見ていた華月が、遠慮がちに声を掛けてくる。

 そうしたいのはやまやまで、しかし龍冴の中にあるプライドが邪魔をするのだ。

「けど目立つから、なぁ」

 ひくひくと頬のひくつきを抑える余裕もないほど、苛立っている自覚はある。

 人が少ない時間であれば喜んで足にさせてもらうが、もう少し後でないと面倒な事になるのだ。

 もしも誰かが自分の後を尾けてきていたら、とふと考えてしまうのは、未だにストーカー紛いの事をされた恐怖が消えないせいだと分かっている。

(気にし過ぎかもしれないけど一応だ、一応)

 そう自分に言い聞かせると、龍冴は細く息を吐き出した。

「……行くか」

 どちらにしろ、試験期間のためあまり長く居てはいけないのだ。

 おおよその生徒がいない事を祈りながら、龍冴は未だ通知がうるさい兄に向けてメッセージを送る。

『もうちょいしたら行くから待って』

 やはりすぐ既読は付いたものの、すぐに電源を消してポケットにしまった。
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