【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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二章 その後の俺は

2‐12 不審な人影

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「……うん、任せて」

 桜雅はにっこりと唇に笑みを浮かべると、ややあって華月に目線を合わせる。

「龍冴のお友達だよね。家の近くまで送るから、一緒に行こうか」

「え、でも」

 まさかそこまでされるとは思わなかったのか、華月は文字通り慌てる。

「ここは呑んで欲しいな。そうしないとあの子から最低一日、もって二日は口聞いてもらえないから」

「え」

「……知ってる? 龍冴は怒ると可愛いんだけど、その分恥ずかしがりだから拗ねるんだ。俺としてはどっちも可愛くて──」

「早く行ってくれねぇかな?」

 二人で顔を寄せ合ったまま──ほとんど桜雅が一方的に話しているが──まったく駐車場へ向かわないため、桜雅にだけ聞こえる声で囁く。

「ごめんって」

 さすがにおいたが過ぎると思ったのか、こちらも龍冴に聞こえる声で小さく謝罪する。

「え、えっと……やっぱ悪いから、さ……」

 何が何やら分からず、戸惑った表情で桜雅と自分とを見つめる華月の手を、そっと握った。

「龍ちゃん?」

「家、着いたら連絡して欲しいんだ。その、手術のこととか……は、言える範囲でいいけど。でも無事に成功したら俺と……兄さんも、一緒に祝いに行くから」

 ぽそぽそと途切れてばかりで、自分でも何を言っているのか分からなくなったが、華月にはしっかりと伝わったようだ。

「ありがと、龍ちゃん」

 紡がれた声はかすかに震えていたが、龍冴は聞こえないふりをした。




 華月をしっかりと家に送り届ける、という事を改めて伝えて桜雅とは別れた。

 駅までの道を歩いていると、一人というのもあって余計な事を考えてしまう。

 椰一はなぜ行動や言動を制限し、それだけでなく龍冴以外の人間と楽しげに話していたのか。

 隣りに居たのが妹や近しい身内という線もあったが、とてもそういう雰囲気ではなかったように思う。

 その証拠に、椰一の表情が龍冴の知るものとはまるきり違ったのだ。

 もちろん、恋人らしい事をした時に似た顔を見たように思う。

 けれどあれほど甘さを含んだ表情は知らない誰かも同然で、こちらが疑問ばかり持っているからか椰一からの返信はまだ無い。

 一週間以上なんの音沙汰もなく、加えて学年も違えば約束をしない限り必然的に顔を合わせる事は少なくなる。

(三年の棟行こうとしたら誰かから話し掛けられるし、そもそも学校で話し掛けるなって言われてたっけ)

 顔を見て話す事はもちろん、椰一がどういう行動に出るか想像ができないから恐怖もある。

「せめて返信してくれればなぁ」

 ぽつりと溢すといやに惨めに聞こえて、次第に気持ちが塞いでいく。

 椰一のメッセージ欄を開いても、まだ既読は付いていない。

 その代わりに自分が送信した文字ばかりが目に入り、いけないと分かっていても催促混じりの文面を送ってしまう。

 好きという気持ちが完全になくなった訳ではなく、心のどこかではまだ信じたいと思っている。

 もしくは椰一の方から『妹』と言ってくれれば、安心するのかもしれない。

 けれど椰一のことを考えると同時に、大和の顔も浮かんでくるのはなぜだろうか。

 何も入学式辺りから仲良くなった訳ではなく、ほんの数日前に知り合ったばかりなのだ。

 どんな経緯であれ、大和と会話をするのはまだ片手で数えられる程度。

 もちろん連絡先も知らず、けれどもっと仲良くなりたいと思っているのは事実だった。

 上級生に対して、自分がそうした感情を抱くのは珍しいと思う。

 それと同時に自分の中に言葉では表せない何かが芽生えているようで、しかしそれがどういう感情なのか分からなかった。

「ん……?」

 すると交差点を挟んだ駅の出入り口に、いやに目立つ長身の男が目に入った。

 その制服がよく知った──草鹿高校のものだと気付く。

「なんだあれ」

 丁度駅構内から逸れる形でどこかへ向かっていき、けれどそちらは裏手のはずだ。

 しかも長身の人物に隠れる形で小柄な影も見えて、なぜか嫌な予感がした。

 もしや椰一ではないか、というあまり信じたくない事が頭に浮かぶ。

 本当ならこのまま改札に入る方が正しく、なのに脚は自然とその人物達を追うように進んでいく。

(これじゃ不審者じゃねぇか)

 よもや自分がストーカー紛いな事をするようになるとは、と思いながらも脚は止められない。

 いけない事だと理解しているが、それでも一度目に入れば気になってしまうのは、最早人間の本能なのだろうか。

 龍冴は一定の距離をたもち、物陰からこっそりと様子を伺った。
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