29 / 91
二章 その後の俺は
2‐14 なんでアンタが
しおりを挟む
やがて公衆電話へ入ってどれほど経ったのか正確には分からないが、はっきりと二つの足音が雑踏や踏切の音に紛れて去っていくのが聞こえた。
「っ、く」
小さくしゃっくりをしながら目元を乱雑に拭い、どくどくと逸る心臓と呼吸を落ち着かせるため数十秒待つ。
ややあって背中越しに物陰の方へ目をやると、既に人影はなかった。
「いっ、た……?」
ぽそりと半ば自分に言い聞かせるように呟くと、ほどなくして脚から力が抜けた。
けれどさすがに狭い公衆電話の中で膝を突く訳にはいかず、最後の力を振り絞ってドアを開ける。
泣き過ぎて鼻が詰まってしまったようで、しかしかすかに新鮮な空気が鼻腔に入ると同時に、龍冴はその場にずるずるとくずおれた。
「……あ、やべ」
はは、と乾いた笑いが漏れる。
一度は収まったと思った涙がまた溢れ、これでは落ち着くまで座っているほかなくなる。
幸い駅から裏手のため、めったに人は寄ってこないだろう。
誰かに見られでもしたら、とは思いこそすれそれ以上は何も考える気になれなかった。
正直なところ、最後の最後まで信じたいと『思っていた』節がある。
けれど今は何もかもが信じられず、椰一はもちろん自分の気持ちも本当のところ分からない。
この涙が裏切られたから出たものであれば、もう椰一に対する好意など無いに等しい。
あるのはただ、心にぽっかりと空いた喪失感と、自分の言動に対する後悔だけだ。
あれはただの『妹』に対する仕草ではなく、れっきとした『恋人』としての行動だった。
甘い声で紡がれた数々の言葉は、きっとあの女子にも言っているだろう。
龍冴に触れた手で触り、愛してくれた逞しい身体で何度も身体を重ねているだろう。
はっきりと『好き』と言っているかもしれないし、自分が知らなかっただけでずっと前から付き合っているかもしれない。
しかし、すべては不信感を抱いていても尚、なんの行動にも移さなかった己が悪いのだ。
最初からおかしいと思っていたため、しばらく付き合ってから適当な理由を付けて別れればよかった。
なのに、いつの間にか自分の方が椰一のことを好きになっていたのは、ひとえに世間知らずだったからに等しいと思う。
今の今までろくな恋愛をしておらず、椰一が近付いてきた理由に後ろ暗い感情が込められていたとしても、龍冴が初めて付き合った相手は椰一なのだ。
体のいい遊び相手、もしくは甘い言葉を囁けば次第に従順な姿勢を取ると、椰一は気付いていたのではないか。
その証拠に、付き合ってからほどなくして椰一の事ばかり考えるようになった。
何も特別なことなどされておらず、ほんの少し背中を押されただけで好意を持ったも同然だ。
「なに、してんだろ……」
ふつふつと椰一ともう一人に怒りを感じると同時に、自分に対しても苛立ってくる。
それが巡り巡って涙となり、このまま身体中の水分が抜けてしまうのではないかと思いさえした。
「ほんと、ばかなの、は……おれのほう、で」
今まで椰一と過ごしてきて疑問はいくつもあったが、ほとんど知らないふりをしてきた。
こちらから何か言って断られる度に『仕方ない』と言い聞かせ、目先の事から逃げてきた。
やっと気付いた後の対価がこれでは、あんまりではないか。
次第に落ち着いていた涙腺が、また崩壊する。
ここがひと気のない駅の裏手で良かったと思っていると、不意に目の前に影が差した。
「っ……?」
唐突な影に、龍冴はびくりと肩を竦ませる。
まさか異変を感じた椰一が戻ってきたのでは、と思っていたが違った。
「──大丈夫か?」
そう言って龍冴に目線を合わせるようにしゃがみ込むと、見知った男──大和が心配そうにこちらを見つめていた。
「っ、く」
小さくしゃっくりをしながら目元を乱雑に拭い、どくどくと逸る心臓と呼吸を落ち着かせるため数十秒待つ。
ややあって背中越しに物陰の方へ目をやると、既に人影はなかった。
「いっ、た……?」
ぽそりと半ば自分に言い聞かせるように呟くと、ほどなくして脚から力が抜けた。
けれどさすがに狭い公衆電話の中で膝を突く訳にはいかず、最後の力を振り絞ってドアを開ける。
泣き過ぎて鼻が詰まってしまったようで、しかしかすかに新鮮な空気が鼻腔に入ると同時に、龍冴はその場にずるずるとくずおれた。
「……あ、やべ」
はは、と乾いた笑いが漏れる。
一度は収まったと思った涙がまた溢れ、これでは落ち着くまで座っているほかなくなる。
幸い駅から裏手のため、めったに人は寄ってこないだろう。
誰かに見られでもしたら、とは思いこそすれそれ以上は何も考える気になれなかった。
正直なところ、最後の最後まで信じたいと『思っていた』節がある。
けれど今は何もかもが信じられず、椰一はもちろん自分の気持ちも本当のところ分からない。
この涙が裏切られたから出たものであれば、もう椰一に対する好意など無いに等しい。
あるのはただ、心にぽっかりと空いた喪失感と、自分の言動に対する後悔だけだ。
あれはただの『妹』に対する仕草ではなく、れっきとした『恋人』としての行動だった。
甘い声で紡がれた数々の言葉は、きっとあの女子にも言っているだろう。
龍冴に触れた手で触り、愛してくれた逞しい身体で何度も身体を重ねているだろう。
はっきりと『好き』と言っているかもしれないし、自分が知らなかっただけでずっと前から付き合っているかもしれない。
しかし、すべては不信感を抱いていても尚、なんの行動にも移さなかった己が悪いのだ。
最初からおかしいと思っていたため、しばらく付き合ってから適当な理由を付けて別れればよかった。
なのに、いつの間にか自分の方が椰一のことを好きになっていたのは、ひとえに世間知らずだったからに等しいと思う。
今の今までろくな恋愛をしておらず、椰一が近付いてきた理由に後ろ暗い感情が込められていたとしても、龍冴が初めて付き合った相手は椰一なのだ。
体のいい遊び相手、もしくは甘い言葉を囁けば次第に従順な姿勢を取ると、椰一は気付いていたのではないか。
その証拠に、付き合ってからほどなくして椰一の事ばかり考えるようになった。
何も特別なことなどされておらず、ほんの少し背中を押されただけで好意を持ったも同然だ。
「なに、してんだろ……」
ふつふつと椰一ともう一人に怒りを感じると同時に、自分に対しても苛立ってくる。
それが巡り巡って涙となり、このまま身体中の水分が抜けてしまうのではないかと思いさえした。
「ほんと、ばかなの、は……おれのほう、で」
今まで椰一と過ごしてきて疑問はいくつもあったが、ほとんど知らないふりをしてきた。
こちらから何か言って断られる度に『仕方ない』と言い聞かせ、目先の事から逃げてきた。
やっと気付いた後の対価がこれでは、あんまりではないか。
次第に落ち着いていた涙腺が、また崩壊する。
ここがひと気のない駅の裏手で良かったと思っていると、不意に目の前に影が差した。
「っ……?」
唐突な影に、龍冴はびくりと肩を竦ませる。
まさか異変を感じた椰一が戻ってきたのでは、と思っていたが違った。
「──大丈夫か?」
そう言って龍冴に目線を合わせるようにしゃがみ込むと、見知った男──大和が心配そうにこちらを見つめていた。
2
あなたにおすすめの小説
小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
君の紡ぐ言葉が聴きたい
月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる