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三章 優しくしないで
3‐02 謝罪
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やがて落ち着いた頃、龍冴は未だ大和に抱き着いたまま小さな声で呟いた。
「……迷惑、掛けて……ごめん、なさい」
出会って数日しか経っていない人間が、どんな経緯であれ通常では考えられない場所で一人泣いていたのだ。
迷惑を掛けてしまったのはもちろんだが、こんな自分を見てよほど呆れていることだろう。
「迷惑なんて思ってないよ」
だから大丈夫だ、と頭を撫でてくる手の平はやはり優しい。
「でも」
「もし面倒だったらこのまま置いてくぞ、俺は。──っておい、また泣くな」
大和は半ば被せるように言うと、慌てたふうに目元を拭ってくれる。
先程よりも幾分か楽になったものの、ふと放たれた『面倒』という言葉に知らず涙が滲んだ。
直接そう言われた訳でもなく、ただの仮定を教えてくれただけだと頭では理解している。
「っ、……ぅ」
(もう泣きたくないんだけど)
それでも身体は自分が思っているよりも限界だったのか、龍冴はしばらくの間大和にされるがままになった。
最早大和の言動をこちらが勝手に解釈し、勝手に泣いているのがほとんどになりつつあるのは否めない。
けれど目の前の男の指先が優しくて、二人きりでいられる間は甘えてしまいたかった。
「……泣き虫だな、雨宮は」
ふと大和がくすりと笑うと、ぽんと龍冴の頭に手を置いた。
ぽんぽんとそのまま何度か撫でられたかと思えば、抱き締められていた腕の拘束を解かれ、シャツ越しにじんわりと触れていた温もりが離れていく。
「っ」
無意識に呼び止めそうになる手を握り締め、きゅうと頬の内側を噛む。
他人の温もりが名残惜しいと思うのは、実に椰一以来だった。
しかしその男に裏切られた今、頼れるのは大和しかいないのだ。
そう思うと同時にもっと触りたい、離れたくないと思ってしまう自分が居た。
(……って何考えてるんだ。俺はただの後輩だってのに)
きっと今の自分は正常な判断ができなくて、手を差し伸べてくれた相手に甘えたくなっているのだ。
もう少し落ち着けばこんなことを考えなくなる、と思いたかった。
「──それにな、嬉しいんだ」
不意に大和の静かで穏やかな声が響き、龍冴は俯けていた顔を反射的に上げる。
間近で交わった瞳にはまた泣き出してしまいそうな自分が映っており、それが少し恥ずかしい。
けれど目を背けることはしなかった。
大和がこれ以上なく嬉しそうに、優しい眼差しを向けていたから。
「雨宮も同じ人間なんだなって。……まぁ泣いてるとは思わんかったけど、正直」
はは、と大和は照れたように頬を掻く。
しかしすぐに目を細め、やや低い声で言った。
「でも見つけたのが俺で本当によかった。あのまま誰にも気付かれなかったら、最悪変なのが湧いてくるだろうし」
「へん、なの?」
最後の辺りはぼそぼそと小声で、かすかにしか分からない。
「あ、こっちの話。気にすんな」
「わっ」
反射的に尋ね返すと誤魔化すように頭を撫でられ、なのに今度は雑だったからかほんの不服だった。
「……やっぱりごめんなさい」
龍冴はその場に膝を突いたまま、深々と頭を下げた。
こちらがまったく意図していないところで、大和に嫌な感情を持たれた気がしたのだ。
「いや、頭下げなくていいから! あとやっぱりってなんだよ、俺が悪いみたいだろ!?」
さすがにまた謝罪されるのは想定外だったようで、慌てて龍冴の肩を摑んでくる。
「……迷惑、掛けて……ごめん、なさい」
出会って数日しか経っていない人間が、どんな経緯であれ通常では考えられない場所で一人泣いていたのだ。
迷惑を掛けてしまったのはもちろんだが、こんな自分を見てよほど呆れていることだろう。
「迷惑なんて思ってないよ」
だから大丈夫だ、と頭を撫でてくる手の平はやはり優しい。
「でも」
「もし面倒だったらこのまま置いてくぞ、俺は。──っておい、また泣くな」
大和は半ば被せるように言うと、慌てたふうに目元を拭ってくれる。
先程よりも幾分か楽になったものの、ふと放たれた『面倒』という言葉に知らず涙が滲んだ。
直接そう言われた訳でもなく、ただの仮定を教えてくれただけだと頭では理解している。
「っ、……ぅ」
(もう泣きたくないんだけど)
それでも身体は自分が思っているよりも限界だったのか、龍冴はしばらくの間大和にされるがままになった。
最早大和の言動をこちらが勝手に解釈し、勝手に泣いているのがほとんどになりつつあるのは否めない。
けれど目の前の男の指先が優しくて、二人きりでいられる間は甘えてしまいたかった。
「……泣き虫だな、雨宮は」
ふと大和がくすりと笑うと、ぽんと龍冴の頭に手を置いた。
ぽんぽんとそのまま何度か撫でられたかと思えば、抱き締められていた腕の拘束を解かれ、シャツ越しにじんわりと触れていた温もりが離れていく。
「っ」
無意識に呼び止めそうになる手を握り締め、きゅうと頬の内側を噛む。
他人の温もりが名残惜しいと思うのは、実に椰一以来だった。
しかしその男に裏切られた今、頼れるのは大和しかいないのだ。
そう思うと同時にもっと触りたい、離れたくないと思ってしまう自分が居た。
(……って何考えてるんだ。俺はただの後輩だってのに)
きっと今の自分は正常な判断ができなくて、手を差し伸べてくれた相手に甘えたくなっているのだ。
もう少し落ち着けばこんなことを考えなくなる、と思いたかった。
「──それにな、嬉しいんだ」
不意に大和の静かで穏やかな声が響き、龍冴は俯けていた顔を反射的に上げる。
間近で交わった瞳にはまた泣き出してしまいそうな自分が映っており、それが少し恥ずかしい。
けれど目を背けることはしなかった。
大和がこれ以上なく嬉しそうに、優しい眼差しを向けていたから。
「雨宮も同じ人間なんだなって。……まぁ泣いてるとは思わんかったけど、正直」
はは、と大和は照れたように頬を掻く。
しかしすぐに目を細め、やや低い声で言った。
「でも見つけたのが俺で本当によかった。あのまま誰にも気付かれなかったら、最悪変なのが湧いてくるだろうし」
「へん、なの?」
最後の辺りはぼそぼそと小声で、かすかにしか分からない。
「あ、こっちの話。気にすんな」
「わっ」
反射的に尋ね返すと誤魔化すように頭を撫でられ、なのに今度は雑だったからかほんの不服だった。
「……やっぱりごめんなさい」
龍冴はその場に膝を突いたまま、深々と頭を下げた。
こちらがまったく意図していないところで、大和に嫌な感情を持たれた気がしたのだ。
「いや、頭下げなくていいから! あとやっぱりってなんだよ、俺が悪いみたいだろ!?」
さすがにまた謝罪されるのは想定外だったようで、慌てて龍冴の肩を摑んでくる。
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