【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
32 / 91
三章 優しくしないで

3‐03 離したくない

しおりを挟む
「ほら、顔上げな」

 な、ともう一度促され、龍冴は恐る恐る顔を上げた。

「っ……!」

 思っていたよりも間近に大和の端正な顔があり、龍冴はじわりと目を見開く。

 同時に大和に触れられたところすべてが、そして頬がまるで火が出そうなほど熱くなった。

(あ、あれ……もしかしてこの距離……結構、近い?)

 泣いている間はあまり意識していなかったが、この状況はそういう雰囲気にほど近いのではないか。

 もちろん、ここが外である事と少し離れた場所では人が行き交っているのは理解していた。

 けれどいざ冷静になってみると、高校生の男二人が抱き合っていたのだ。

 人目があれば躊躇ちゅうちょする距離感で、けれどたとえ友人であっても隙間なく抱き合ったり、また間近で見つめ合う事はほとんどないだろう。

 そうこう考えているうちに、大和はふと唇を開いた。

「──雨宮」

 ゆっくりと距離が縮まり、あとほんのわずかで唇が触れ合いそうになる。

「ゃ、っ……」

 拒否しようと小さく抗議の声を上げ、だというのに身体はちっとも動かない。

 このまま口付けられてしまうのか、という少しの恐怖と期待とで、龍冴は反射的に目を閉じる。

 どくどくと心臓が高鳴り、聞こえやしないかと心配になる。

 それでも突き飛ばすなりして本当の意味で拒否できないのは、少なからず『キスされてもいい』と思っているからだろうか。

 けれど一向に何も起きず、龍冴はそっと瞼を押し上げた。

「──よかった」

 同時に頬へ大和の手が遠慮がちに触れ、すぐに安堵した声が聞こえた。

「熱、無くて」

「は」

 ふわりと淡く微笑まれ、龍冴はぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 よもや、顔が赤いから風邪でも引いたかと心配してくれたのか。

 この時期であれば熱中症を疑うのではないか、と少なからず思ったが、そこを突っ込むのは何かが違う気がする。

 もっとも、口を開こうとしても泣き過ぎて掠れた声しか出ないのだが。

「……けどあんまここ居たら駄目だよな。帰ろうか」

 小さく苦笑して大和は立ち上がり、こちらに向けて手を差し出してくる。

 その手を取るか迷いつつも、もう少しすれば暑さで倒れるのは時間の問題なため、龍冴は控えめながら大和の手に己のそれを重ねた。

 力強い手に引かれるまま立ち上がり、抱き合っていた時とはいかないまでも、あまり身長差がないからかまだ距離が近いと思った。

(俺より力あるんだな……)

 当たり前のことだが、運動をしている人間と帰宅部とでは筋肉量が違うのだ。

 龍冴とて鍛えていない訳ではないが、それでも体格差があるのは否めない。

「心配だし送るよ」

「……や、そんな、いいです」

 不意に紡がれた言葉に、龍冴は掠れ気味な声で抗議する。

 大和が顔を見せてからどれほど経ったのか不明だが、この分では椰一とはもう会わないだろうと思う。

 それに、子供ではないため送ってもらうほどの事ではない。

 そう言おうとしたが、それよりも早く大和は眉を曇らせた。

「ほんとに送らなくていいのか」

 その表情が子犬のように見えて、しかし龍冴は途切れ途切れになりながらもゆっくりと口にする。

「はい。電車ですぐ、だし……それに先輩、反対側……でした、よね」

 確か、と龍冴は曖昧に微笑む。

 明日も変わらず試験期間で、帰ったら勉強をしなければいけない。

 二年生の範囲のことは正直分からないが、少しでも勉強時間があればいいのではないか。

 そんな思いで言うと、大和はからからと笑った。

「俺のことはいいって。それよりお前の方が心配なんだ」

 同じ言葉を口にされるが、龍冴は緩く首を振って固辞する。

「大丈夫です」

 ただの後輩になぜそんなに固執するのか、はなはだ理解できない。

「けど、なぁ……」

「本当に大丈夫なんで」
 にっこりと微笑んで再度同じ言葉を重ねる。

「あー……どうすっかな」

 大和は明後日の方向へ顔を向け、ぶつぶつと何事かを呟いている。

(それよりこっちの方が大丈夫じゃないんだよ……!)

 大和がこちらを見ていないのをいいことに、龍冴はちらりと視線を下に向ける。

 まだ繋がれたままの手に気付いているのかいないのか、そして無意識なのか分からないが、時折かすかに力が込められるのだ。

 繋いでいる手を意識しないのは無理な話で、必然的に『大丈夫』と言うしかなく、どうにかして大和の方から離してもらいたかった。

(でも)

「──離れたくねぇなぁ」

「っ、え……!?」

 思っていた言葉が出てしまったのかと思ったが、どうやらそれは大和から放たれたものらしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小石の恋

キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。 助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。 なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。 果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

処理中です...