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三章 優しくしないで
3‐03 離したくない
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「ほら、顔上げな」
な、ともう一度促され、龍冴は恐る恐る顔を上げた。
「っ……!」
思っていたよりも間近に大和の端正な顔があり、龍冴はじわりと目を見開く。
同時に大和に触れられたところすべてが、そして頬がまるで火が出そうなほど熱くなった。
(あ、あれ……もしかしてこの距離……結構、近い?)
泣いている間はあまり意識していなかったが、この状況はそういう雰囲気にほど近いのではないか。
もちろん、ここが外である事と少し離れた場所では人が行き交っているのは理解していた。
けれどいざ冷静になってみると、高校生の男二人が抱き合っていたのだ。
人目があれば躊躇する距離感で、けれどたとえ友人であっても隙間なく抱き合ったり、また間近で見つめ合う事はほとんどないだろう。
そうこう考えているうちに、大和はふと唇を開いた。
「──雨宮」
ゆっくりと距離が縮まり、あとほんのわずかで唇が触れ合いそうになる。
「ゃ、っ……」
拒否しようと小さく抗議の声を上げ、だというのに身体はちっとも動かない。
このまま口付けられてしまうのか、という少しの恐怖と期待とで、龍冴は反射的に目を閉じる。
どくどくと心臓が高鳴り、聞こえやしないかと心配になる。
それでも突き飛ばすなりして本当の意味で拒否できないのは、少なからず『キスされてもいい』と思っているからだろうか。
けれど一向に何も起きず、龍冴はそっと瞼を押し上げた。
「──よかった」
同時に頬へ大和の手が遠慮がちに触れ、すぐに安堵した声が聞こえた。
「熱、無くて」
「は」
ふわりと淡く微笑まれ、龍冴はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
よもや、顔が赤いから風邪でも引いたかと心配してくれたのか。
この時期であれば熱中症を疑うのではないか、と少なからず思ったが、そこを突っ込むのは何かが違う気がする。
もっとも、口を開こうとしても泣き過ぎて掠れた声しか出ないのだが。
「……けどあんまここ居たら駄目だよな。帰ろうか」
小さく苦笑して大和は立ち上がり、こちらに向けて手を差し出してくる。
その手を取るか迷いつつも、もう少しすれば暑さで倒れるのは時間の問題なため、龍冴は控えめながら大和の手に己のそれを重ねた。
力強い手に引かれるまま立ち上がり、抱き合っていた時とはいかないまでも、あまり身長差がないからかまだ距離が近いと思った。
(俺より力あるんだな……)
当たり前のことだが、運動をしている人間と帰宅部とでは筋肉量が違うのだ。
龍冴とて鍛えていない訳ではないが、それでも体格差があるのは否めない。
「心配だし送るよ」
「……や、そんな、いいです」
不意に紡がれた言葉に、龍冴は掠れ気味な声で抗議する。
大和が顔を見せてからどれほど経ったのか不明だが、この分では椰一とはもう会わないだろうと思う。
それに、子供ではないため送ってもらうほどの事ではない。
そう言おうとしたが、それよりも早く大和は眉を曇らせた。
「ほんとに送らなくていいのか」
その表情が子犬のように見えて、しかし龍冴は途切れ途切れになりながらもゆっくりと口にする。
「はい。電車ですぐ、だし……それに先輩、反対側……でした、よね」
確か、と龍冴は曖昧に微笑む。
明日も変わらず試験期間で、帰ったら勉強をしなければいけない。
二年生の範囲のことは正直分からないが、少しでも勉強時間があればいいのではないか。
そんな思いで言うと、大和はからからと笑った。
「俺のことはいいって。それよりお前の方が心配なんだ」
同じ言葉を口にされるが、龍冴は緩く首を振って固辞する。
「大丈夫です」
ただの後輩になぜそんなに固執するのか、はなはだ理解できない。
「けど、なぁ……」
「本当に大丈夫なんで」
にっこりと微笑んで再度同じ言葉を重ねる。
「あー……どうすっかな」
大和は明後日の方向へ顔を向け、ぶつぶつと何事かを呟いている。
(それよりこっちの方が大丈夫じゃないんだよ……!)
大和がこちらを見ていないのをいいことに、龍冴はちらりと視線を下に向ける。
まだ繋がれたままの手に気付いているのかいないのか、そして無意識なのか分からないが、時折かすかに力が込められるのだ。
繋いでいる手を意識しないのは無理な話で、必然的に『大丈夫』と言うしかなく、どうにかして大和の方から離してもらいたかった。
(でも)
「──離れたくねぇなぁ」
「っ、え……!?」
思っていた言葉が出てしまったのかと思ったが、どうやらそれは大和から放たれたものらしかった。
な、ともう一度促され、龍冴は恐る恐る顔を上げた。
「っ……!」
思っていたよりも間近に大和の端正な顔があり、龍冴はじわりと目を見開く。
同時に大和に触れられたところすべてが、そして頬がまるで火が出そうなほど熱くなった。
(あ、あれ……もしかしてこの距離……結構、近い?)
泣いている間はあまり意識していなかったが、この状況はそういう雰囲気にほど近いのではないか。
もちろん、ここが外である事と少し離れた場所では人が行き交っているのは理解していた。
けれどいざ冷静になってみると、高校生の男二人が抱き合っていたのだ。
人目があれば躊躇する距離感で、けれどたとえ友人であっても隙間なく抱き合ったり、また間近で見つめ合う事はほとんどないだろう。
そうこう考えているうちに、大和はふと唇を開いた。
「──雨宮」
ゆっくりと距離が縮まり、あとほんのわずかで唇が触れ合いそうになる。
「ゃ、っ……」
拒否しようと小さく抗議の声を上げ、だというのに身体はちっとも動かない。
このまま口付けられてしまうのか、という少しの恐怖と期待とで、龍冴は反射的に目を閉じる。
どくどくと心臓が高鳴り、聞こえやしないかと心配になる。
それでも突き飛ばすなりして本当の意味で拒否できないのは、少なからず『キスされてもいい』と思っているからだろうか。
けれど一向に何も起きず、龍冴はそっと瞼を押し上げた。
「──よかった」
同時に頬へ大和の手が遠慮がちに触れ、すぐに安堵した声が聞こえた。
「熱、無くて」
「は」
ふわりと淡く微笑まれ、龍冴はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
よもや、顔が赤いから風邪でも引いたかと心配してくれたのか。
この時期であれば熱中症を疑うのではないか、と少なからず思ったが、そこを突っ込むのは何かが違う気がする。
もっとも、口を開こうとしても泣き過ぎて掠れた声しか出ないのだが。
「……けどあんまここ居たら駄目だよな。帰ろうか」
小さく苦笑して大和は立ち上がり、こちらに向けて手を差し出してくる。
その手を取るか迷いつつも、もう少しすれば暑さで倒れるのは時間の問題なため、龍冴は控えめながら大和の手に己のそれを重ねた。
力強い手に引かれるまま立ち上がり、抱き合っていた時とはいかないまでも、あまり身長差がないからかまだ距離が近いと思った。
(俺より力あるんだな……)
当たり前のことだが、運動をしている人間と帰宅部とでは筋肉量が違うのだ。
龍冴とて鍛えていない訳ではないが、それでも体格差があるのは否めない。
「心配だし送るよ」
「……や、そんな、いいです」
不意に紡がれた言葉に、龍冴は掠れ気味な声で抗議する。
大和が顔を見せてからどれほど経ったのか不明だが、この分では椰一とはもう会わないだろうと思う。
それに、子供ではないため送ってもらうほどの事ではない。
そう言おうとしたが、それよりも早く大和は眉を曇らせた。
「ほんとに送らなくていいのか」
その表情が子犬のように見えて、しかし龍冴は途切れ途切れになりながらもゆっくりと口にする。
「はい。電車ですぐ、だし……それに先輩、反対側……でした、よね」
確か、と龍冴は曖昧に微笑む。
明日も変わらず試験期間で、帰ったら勉強をしなければいけない。
二年生の範囲のことは正直分からないが、少しでも勉強時間があればいいのではないか。
そんな思いで言うと、大和はからからと笑った。
「俺のことはいいって。それよりお前の方が心配なんだ」
同じ言葉を口にされるが、龍冴は緩く首を振って固辞する。
「大丈夫です」
ただの後輩になぜそんなに固執するのか、はなはだ理解できない。
「けど、なぁ……」
「本当に大丈夫なんで」
にっこりと微笑んで再度同じ言葉を重ねる。
「あー……どうすっかな」
大和は明後日の方向へ顔を向け、ぶつぶつと何事かを呟いている。
(それよりこっちの方が大丈夫じゃないんだよ……!)
大和がこちらを見ていないのをいいことに、龍冴はちらりと視線を下に向ける。
まだ繋がれたままの手に気付いているのかいないのか、そして無意識なのか分からないが、時折かすかに力が込められるのだ。
繋いでいる手を意識しないのは無理な話で、必然的に『大丈夫』と言うしかなく、どうにかして大和の方から離してもらいたかった。
(でも)
「──離れたくねぇなぁ」
「っ、え……!?」
思っていた言葉が出てしまったのかと思ったが、どうやらそれは大和から放たれたものらしかった。
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