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三章 優しくしないで
3‐04 連絡先
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「ん?」
どした、と大和が緩く首を傾げる。
淡く微笑む唇がなぜか艶を帯びていて、妖しく見えた。
しかしそれがなぜなのか分からず、龍冴は心の中で狼狽した。
まさか大和が自分と同じ気持ち──離したくないし、離れたくないと思っているということに。
(いや、空耳かもしれない。うん、絶対そうだ!)
これは自分の都合のいい幻聴で、加えて先程まで落ち込んでいたため余計にそう思うのだ。
出会ってまだ三日やそこらで、まだまだ大和の人となりを知らないのに好意を抱くなど普通ではない。
何が好きとか何が嫌いとか、何気ないことを話したりどこかへ出掛けたりして、晴れて両想いになるのではないか。
少なくとも、龍冴の中で『恋人』というのはそうした経緯でなるものだと思っている。
互いのことを何も知らないまま付き合えば、いずれ自分だけでなく相手も後悔する──それは中学生の頃、ひそかに片想いしていた人間が言っていた言葉だった。
『龍冴には幸せになって欲しいんだ』
直接好意を伝えた訳でも、また振られた訳でもない。
同級生だったが他の者よりも達観していて、およそ中学生『らしくない』少年だった。
どんな経緯があってそう言ったのかあまり覚えていないが、もしその時の自分の言葉が起因で龍冴が悩んでいるとくれば、どんな顔をするだろう。
やや眉を顰めて呆れるか、曖昧に微笑むかもしれない。
こちらが困っていると手を差し伸べてくれるが、自分のことはほとんど顧みない──龍冴が知る限り夜晃はそういう性格だったのだ。
「あー……あの、ですね」
「っ」
不意に遠慮がちな大和の声が聞こえると同時に、ぱっと繋いでいた手が離れていく。
その温もりを追うように隣りを見ると、大和は軽く目を伏せて口元に手をあてていた。
よくよく見れば耳の縁がほんのりと赤く染まっており、自分ではなく大和の方が体調が悪いのではないか。
そうだとすれば責任は自分にあり、このまま体調を崩してしまっては申し訳が立たない。
「──先輩」
「──なんかアプリ交換しない?」
龍冴と大和が声を上げるのはほぼ同時で、しばらくの間互いに見つめ合う形になる。
その間に丁度電車が通過したのか、走行音が通り過ぎていく。
「……こ、交換?」
数秒経ってやっと何を言われたのか理解したが、それでもなぜか分からなくて小さくオウム返しをする。
(交換ってあれだよな、華月と交換したやつと同じ。いや待て、そしたら先輩とも学校以外で話せるってことで)
大和の言葉を自覚すればするほど身体の熱が上がり、心臓の鼓動が速くなっていく。
自分でも華月の時とはまるきり違う反応をしていると思う。
それはただの『友達』としてではなく、『男』として自覚しているも同然だった。
「本当は送りたいけど、あんま言って嫌われるの嫌だからさ。……やっぱ駄目だった?」
こちらを覗き込むように見つめられ、龍冴は反射的に首を振った。
「や、駄目じゃないです! 全然、ぜんっぜんしたいです!」
なぜか脳裏に昔飼っていた黒い犬と大和が重なり、しかし即座に想像を打ち消す。
(可愛いって思うな、仮にも先輩だろ!)
そもそも人と動物を比べるなど、意味が違ってくるのではないか。
「──よかった」
龍冴が内心で突っ込んだり悶々としていると、笑いを含んだ吐息を零して大和が淡く微笑んだ。
「っ……」
とくん、と心臓が甘く跳ねる。
同時に触れられていたところすべてが先程よりも熱くなり、このままでは本当に倒れてしまいそうな錯覚さえした。
「えっ、と……俺の方からQR、出しますね」
なんとか平静を装いながら携帯を取り出し、メッセージアプリを開く。
しかし携帯を持っている手はもちろん、指先まで震えた。
ただ自分のQRコードを出すだけだというのに、大和がすぐ隣りに居て待っていると思うと緊張で気が狂いそうだった。
けれど気合で持ち堪え、やっとの思いでQRコードを大和の方に向ける。
「……どうぞ」
「なんでそんな仰々しいんだよ。──よし、出来た」
もっともな突っ込みが耳に届くのと同じくして画面が切り替わり、大和のアイコンが表示された。
「ありがとうございます、っ……!」
龍冴は軽く頭を下げて礼を言う。
しかし視界に入ったそれに、図らずも悲鳴じみた声が漏れる。
青い空を背景に、大和らしき手と誰かの手がハートの形を作っていたのだ。
どした、と大和が緩く首を傾げる。
淡く微笑む唇がなぜか艶を帯びていて、妖しく見えた。
しかしそれがなぜなのか分からず、龍冴は心の中で狼狽した。
まさか大和が自分と同じ気持ち──離したくないし、離れたくないと思っているということに。
(いや、空耳かもしれない。うん、絶対そうだ!)
これは自分の都合のいい幻聴で、加えて先程まで落ち込んでいたため余計にそう思うのだ。
出会ってまだ三日やそこらで、まだまだ大和の人となりを知らないのに好意を抱くなど普通ではない。
何が好きとか何が嫌いとか、何気ないことを話したりどこかへ出掛けたりして、晴れて両想いになるのではないか。
少なくとも、龍冴の中で『恋人』というのはそうした経緯でなるものだと思っている。
互いのことを何も知らないまま付き合えば、いずれ自分だけでなく相手も後悔する──それは中学生の頃、ひそかに片想いしていた人間が言っていた言葉だった。
『龍冴には幸せになって欲しいんだ』
直接好意を伝えた訳でも、また振られた訳でもない。
同級生だったが他の者よりも達観していて、およそ中学生『らしくない』少年だった。
どんな経緯があってそう言ったのかあまり覚えていないが、もしその時の自分の言葉が起因で龍冴が悩んでいるとくれば、どんな顔をするだろう。
やや眉を顰めて呆れるか、曖昧に微笑むかもしれない。
こちらが困っていると手を差し伸べてくれるが、自分のことはほとんど顧みない──龍冴が知る限り夜晃はそういう性格だったのだ。
「あー……あの、ですね」
「っ」
不意に遠慮がちな大和の声が聞こえると同時に、ぱっと繋いでいた手が離れていく。
その温もりを追うように隣りを見ると、大和は軽く目を伏せて口元に手をあてていた。
よくよく見れば耳の縁がほんのりと赤く染まっており、自分ではなく大和の方が体調が悪いのではないか。
そうだとすれば責任は自分にあり、このまま体調を崩してしまっては申し訳が立たない。
「──先輩」
「──なんかアプリ交換しない?」
龍冴と大和が声を上げるのはほぼ同時で、しばらくの間互いに見つめ合う形になる。
その間に丁度電車が通過したのか、走行音が通り過ぎていく。
「……こ、交換?」
数秒経ってやっと何を言われたのか理解したが、それでもなぜか分からなくて小さくオウム返しをする。
(交換ってあれだよな、華月と交換したやつと同じ。いや待て、そしたら先輩とも学校以外で話せるってことで)
大和の言葉を自覚すればするほど身体の熱が上がり、心臓の鼓動が速くなっていく。
自分でも華月の時とはまるきり違う反応をしていると思う。
それはただの『友達』としてではなく、『男』として自覚しているも同然だった。
「本当は送りたいけど、あんま言って嫌われるの嫌だからさ。……やっぱ駄目だった?」
こちらを覗き込むように見つめられ、龍冴は反射的に首を振った。
「や、駄目じゃないです! 全然、ぜんっぜんしたいです!」
なぜか脳裏に昔飼っていた黒い犬と大和が重なり、しかし即座に想像を打ち消す。
(可愛いって思うな、仮にも先輩だろ!)
そもそも人と動物を比べるなど、意味が違ってくるのではないか。
「──よかった」
龍冴が内心で突っ込んだり悶々としていると、笑いを含んだ吐息を零して大和が淡く微笑んだ。
「っ……」
とくん、と心臓が甘く跳ねる。
同時に触れられていたところすべてが先程よりも熱くなり、このままでは本当に倒れてしまいそうな錯覚さえした。
「えっ、と……俺の方からQR、出しますね」
なんとか平静を装いながら携帯を取り出し、メッセージアプリを開く。
しかし携帯を持っている手はもちろん、指先まで震えた。
ただ自分のQRコードを出すだけだというのに、大和がすぐ隣りに居て待っていると思うと緊張で気が狂いそうだった。
けれど気合で持ち堪え、やっとの思いでQRコードを大和の方に向ける。
「……どうぞ」
「なんでそんな仰々しいんだよ。──よし、出来た」
もっともな突っ込みが耳に届くのと同じくして画面が切り替わり、大和のアイコンが表示された。
「ありがとうございます、っ……!」
龍冴は軽く頭を下げて礼を言う。
しかし視界に入ったそれに、図らずも悲鳴じみた声が漏れる。
青い空を背景に、大和らしき手と誰かの手がハートの形を作っていたのだ。
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