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三章 優しくしないで
3‐05 自問自答
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「……死にそう」
龍冴は自室のベッドにうつ伏せになり、枕に向けてぼそりと零す。
くぐもった声は一人きりの静寂の中に大きく響き、部屋の中を支配する。
けれどその言葉に応える者はおろか、常からうるさい兄もまだ帰宅していないようだった。
(ほんと、死にそう。……ってか死にたい)
ぼふ、と寝返りを打つと、心の中で同じ言葉を呟く。
期末試験の初日だっただけでなく、今日だけで色々な事が多過ぎた。
華月に椰一、そして大和のことにと──華月については半ばこちらから首を突っ込んだのだが──考える事が多過ぎるのだ。
帰宅してすぐにメッセージアプリを開くと、一番上に大和のメッセージがあった。
『ちゃんと家着いた?』
『一応熱測っとけよー?』
何もなければ嬉々として『心配しすぎですよ』とでも送れるが、既読を付けただけでまだ返信していない。
無視している気がして申し訳なくなるが、大和のアイコンを見ると勝手に辛くなってしまったのはなぜなのか。
「……どうしよ」
その下にあった華月の『送ってもらったよ!』というメッセージにはすぐ返信したが、この違いはなんなのか。
自問自答しても龍冴の頭を真っ先に埋め尽くすのは、大和のことだった。
椰一と女子との場面は確かに衝撃的で、なのに大和の顔を見た以前の記憶が掠れつつあるのは否めない。
人間というものは落ち込んでいると正常な判断ができず、手を差し伸べてくれた相手を好きになることがあるのだろうか。
元々恋愛経験があまりないためか、この事を友人らに相談しようにも、おいそれと言える話ではない。
内緒で付き合っていた恋人が浮気していた挙げ句、傷心しているところに上級生の──恋人持ちかもしれない男のことを、好きになってしまったなど。
「雅玖は……いや、あいつは関係ないし」
そもそも大和とのことを話せば必然的に椰一のことも話さなければならず、永睦はもちろん噂好きの女子達がどこかで聞き耳を立てていることだろう。
そうなれば回り回って椰一の耳にも入るのは必至で、どこかへ呼び出されでもしたら。
今日の事を問い詰められ、『なんで信じてくれないんだ』と言われてしまったら最後、上手い言葉を言える気がしない。
普段はそうでもないが、相手が苛立っていると特に嘘が吐けなくなるのだ。
加えて自分に起こった事は自分で解決する、という癖が付いているためか、それ以前に巻き込むのは申し訳なくて雅玖にすら頼るのは嫌だった。
「全部、全部……おれが、わるい」
もそりと布団を手繰り寄せ、頭まで被る。
すべての元凶は自分にこそあり、あの時椰一からの告白を断っていれば、ここまで感情を揺さぶられる事はなかっただろう。
しかしそうなってくると大和とも出会っておらず、仲良くもなっていないのだ。
連絡先を交換する事も会話をする事も、それ以前に何かきっかけがなければ大和の顔も知らずに終わり、龍冴の中ではただの上級生として忘れ去られていっただろう。
「……鷹月、先輩」
誰にともなく大和の名を零しても、すぐに元通りの静けさに戻ってしまって耳が痛い。
同時に、自分は壊滅的に恋愛と縁がないのかもしれない。
流れで椰一と付き合ったが、まさか自分の方が好き過ぎて正常な判断ができなくなるとは思わなかった。
その後二度も浮気の場面に出くわしただけでなく、二度も大和に助けられるとは終ぞ思っていなかった。
そして、今度は話して数日かそこらしか経っていない男のことを、好きになった『かもしれない』とは思わなかった。
現に大和に『アイコン、誰との写真ですか?』という、ごく短い文章すら送れない小心者なのだ。
聞けばすぐに分かることなのに、聞くのが怖いという矛盾が生じているのは十分に理解している。
ただの友人や上級生であれば、最初からこんなに悩むことはない。
けれどそれと同じくして、ここまで胸が苦しくなるのは椰一と付き合っていた時ですらなかった。
『──離れたくねぇなぁ』
電車の走行音に紛れてしまいそうな呟きは、確かに大和から放たれたものだった。
その時、確かに龍冴の中に何かが芽生えた──と漠然と自覚したのだが。
(俺が聞き間違えただけかもしれない。結構暑かったし)
大和の言葉は空耳で、こちらにとって都合のいい幻聴だ。
そう思わなければ勘違いしてしまい、仮にも恋人が居るかもしれない相手を好きになった罪悪感で、胸が押し潰されそうなのだ。
龍冴は自室のベッドにうつ伏せになり、枕に向けてぼそりと零す。
くぐもった声は一人きりの静寂の中に大きく響き、部屋の中を支配する。
けれどその言葉に応える者はおろか、常からうるさい兄もまだ帰宅していないようだった。
(ほんと、死にそう。……ってか死にたい)
ぼふ、と寝返りを打つと、心の中で同じ言葉を呟く。
期末試験の初日だっただけでなく、今日だけで色々な事が多過ぎた。
華月に椰一、そして大和のことにと──華月については半ばこちらから首を突っ込んだのだが──考える事が多過ぎるのだ。
帰宅してすぐにメッセージアプリを開くと、一番上に大和のメッセージがあった。
『ちゃんと家着いた?』
『一応熱測っとけよー?』
何もなければ嬉々として『心配しすぎですよ』とでも送れるが、既読を付けただけでまだ返信していない。
無視している気がして申し訳なくなるが、大和のアイコンを見ると勝手に辛くなってしまったのはなぜなのか。
「……どうしよ」
その下にあった華月の『送ってもらったよ!』というメッセージにはすぐ返信したが、この違いはなんなのか。
自問自答しても龍冴の頭を真っ先に埋め尽くすのは、大和のことだった。
椰一と女子との場面は確かに衝撃的で、なのに大和の顔を見た以前の記憶が掠れつつあるのは否めない。
人間というものは落ち込んでいると正常な判断ができず、手を差し伸べてくれた相手を好きになることがあるのだろうか。
元々恋愛経験があまりないためか、この事を友人らに相談しようにも、おいそれと言える話ではない。
内緒で付き合っていた恋人が浮気していた挙げ句、傷心しているところに上級生の──恋人持ちかもしれない男のことを、好きになってしまったなど。
「雅玖は……いや、あいつは関係ないし」
そもそも大和とのことを話せば必然的に椰一のことも話さなければならず、永睦はもちろん噂好きの女子達がどこかで聞き耳を立てていることだろう。
そうなれば回り回って椰一の耳にも入るのは必至で、どこかへ呼び出されでもしたら。
今日の事を問い詰められ、『なんで信じてくれないんだ』と言われてしまったら最後、上手い言葉を言える気がしない。
普段はそうでもないが、相手が苛立っていると特に嘘が吐けなくなるのだ。
加えて自分に起こった事は自分で解決する、という癖が付いているためか、それ以前に巻き込むのは申し訳なくて雅玖にすら頼るのは嫌だった。
「全部、全部……おれが、わるい」
もそりと布団を手繰り寄せ、頭まで被る。
すべての元凶は自分にこそあり、あの時椰一からの告白を断っていれば、ここまで感情を揺さぶられる事はなかっただろう。
しかしそうなってくると大和とも出会っておらず、仲良くもなっていないのだ。
連絡先を交換する事も会話をする事も、それ以前に何かきっかけがなければ大和の顔も知らずに終わり、龍冴の中ではただの上級生として忘れ去られていっただろう。
「……鷹月、先輩」
誰にともなく大和の名を零しても、すぐに元通りの静けさに戻ってしまって耳が痛い。
同時に、自分は壊滅的に恋愛と縁がないのかもしれない。
流れで椰一と付き合ったが、まさか自分の方が好き過ぎて正常な判断ができなくなるとは思わなかった。
その後二度も浮気の場面に出くわしただけでなく、二度も大和に助けられるとは終ぞ思っていなかった。
そして、今度は話して数日かそこらしか経っていない男のことを、好きになった『かもしれない』とは思わなかった。
現に大和に『アイコン、誰との写真ですか?』という、ごく短い文章すら送れない小心者なのだ。
聞けばすぐに分かることなのに、聞くのが怖いという矛盾が生じているのは十分に理解している。
ただの友人や上級生であれば、最初からこんなに悩むことはない。
けれどそれと同じくして、ここまで胸が苦しくなるのは椰一と付き合っていた時ですらなかった。
『──離れたくねぇなぁ』
電車の走行音に紛れてしまいそうな呟きは、確かに大和から放たれたものだった。
その時、確かに龍冴の中に何かが芽生えた──と漠然と自覚したのだが。
(俺が聞き間違えただけかもしれない。結構暑かったし)
大和の言葉は空耳で、こちらにとって都合のいい幻聴だ。
そう思わなければ勘違いしてしまい、仮にも恋人が居るかもしれない相手を好きになった罪悪感で、胸が押し潰されそうなのだ。
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