【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
36 / 91
三章 優しくしないで

3‐07 相談

しおりを挟む
 自室に入ってから携帯はベッドサイドに置くのが常だが、通知が来ればある程度は気付く。

 けれど今の今まで何をするにも億劫で、しかし通知が来た気配はないと思うのだ。

「華月くんと写真撮ったんだよ」

「は?」

 龍冴の言葉を華麗に無視すると、桜雅はベッドの縁に座って携帯の画面を見せてくる。

 そこにはぎこちなく笑ってピースをする華月と、満面の笑みを浮かべた桜雅が写っていた。

 強引に肩を組まれたのか、密着した身体で桜雅との体格差がはっきりと分かる。

(カツアゲしてるみたい、って言ったらキレられそうだな)

 そこらの同性に比べると桜雅は細い部類だが、それよりも華奢な華月と並ぶとどうしてかそんな感想が浮かぶ。

 家での態度、特に怒った時の兄の姿をよく知っているからか、しかし口に出す前になんとか耐えた。

 多少気持ちが落ち着いてきたというのに、不用意なことを言ってまた面倒な事が増えてしまうのは避けたい。

「……うわ」

 自分の写真フォルダから見せてくれたのか、下の画像欄を見ると角度や表情を変えつつ何枚も撮っているようだった。

「一番いいの送ったんだけどなぁ。俺達こんなに仲良くなりましたー、って」

「……よかったな」

 にこにこと嬉しそうな兄を見ていると、最早普段の毒舌を吐く気力すらなく、ようやっとそれだけを絞り出す。

 よもやそれだけのために部屋に入って来られたとなると、いない方がマシだとさえ思った。

(こっちは色々考えてるってのに……!)

 明日の試験勉強はもちろん、椰一や大和のことで既に脳内はいっぱいだった。

 叶うことならば一人にして欲しくて、しかし願ってもない『話を聞いてくれる相手』が桜雅だというのは不安もあった。

「元気ないねぇ」

「っ、いやそんなこと」

 ふと放たれた桜雅の言葉に動揺し、けれど何事もなかったようにこちらに袋を差し出してくる。

「何これ」

 好奇心の方が打ち勝ち、布団から出るとそんな弟に桜雅は笑みを深めた。

 手渡されたものは大型百貨店の紙袋で、中には高級そうな箱が入っている。

「華月くんがね、お土産くれたんだ。いやぁ、いい子だよねあの子。さすが、りょーちゃんの友達っていうか」

 ねぇ、と緩く首を傾げてこちらを見てくるさまに、転じて龍冴の頬が軽く引き攣った。

(あ、これ駄目だな)

 一度でも相手のことを気に入れば、自分の気が済むまで絡むのが常だ。

 多少のスキンシップはもちろん、桜雅がいいと思えば『そういう事』も視野に入る──らしい。

 こちらとしては兄の事情や趣味にとやかく言いたくはないが、さすがに華月は駄目だ。

「……あいつだけは止めた方がいいと思う」

「え、なぁに?」

 ぽつりと囁いた言葉は聞こえなかったのか、はたまた知らないふりをしているのか判然としない。

 けれど華月だけはいけない、なぜかそう思った。

「いや、なんでもない。……それよりさ、兄さん」

「不意打ちで兄さんって呼ぶのやめて」

「やっぱ聞こえてたんじゃねぇか」

 先程よりもごく小さな声で言ったが、どうやらあえて聞こえないふりをしていたようだ。

 そんな兄に呆れつつも、龍冴は意を決して唇を開く。

「ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど大丈夫、かな」

 すると、それまでののほほんとしていた表情とは一変して、桜雅の瞳がかすかに鋭くなった。

「なんでも言ってみな」

 低く短く言うと、桜雅はベッドの端からフローリングのマットレスへと座り直す。

 龍冴はベッドの上に改めて座り、向かい合わせの形になる。

 真正面からじっと兄の瞳を受けながら、今日あった出来事を掻い摘んで話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

処理中です...