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三章 優しくしないで
3‐08 ここまで来ると
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自分には二つ上の恋人が居るがその人は遊び人で、男女問わずそういう噂があったこと。
最初こそ信じなかったが噂は真実で、数日前に加えて今日も浮気している現場を見たこと。
その後、一人で泣いていたら一つ上の先輩がやってきて、落ち着くまで傍に居てくれたこと。
「──好き、って思うのは……俺がおかしいのかな」
大和に対する感情は曖昧で、ともすれば脆く儚いものだろう。
気持ちが沈んでいる時に優しくされれば、人間というものは誰しもその相手を好きになる。
少なくとも、今の今までこうした感情を抱いた事がないため、どこか落ち着かないのは確かだった。
「……なるほど」
ややあって桜雅が短く呟く。
「その恋人とやら、ぶん殴ったらいいんだな」
にっこりと手本のような笑みを浮かべ、膝に置いていた手を鳴らす。
それまで黙って聞いてくれていたが、普段はうるさい人間が静かなのは嫌な予感がしていたのだ。
ひく、と喉が引き攣るのを感じながら、龍冴は慌ててベッドから立ち上がった。
「話聞いてたか!? 確かに腹立ったし嫌だったけど、そういうことしなくていいんだって!」
椰一のことで怒ってくれるのは嬉しいが、今龍冴が聞いているのは大和のことだ。
わずかにズレた答えを返す桜雅に呆れこそすれ、本当なら殴って問い詰めたいのが本音でもあった。
「けど一回でも嫌って思ったんだろ? あんな奴のために泣いて、龍冴の貴重な時間が潰されたって思うと俺は……」
そこで桜雅も立ち上がり、ぎゅうと抱き締められる。
自分とは十センチ以上身長差があるが、見た目以上にがっしりとした体格はそこらの鍛えている男となんら変わらないだろう。
「お、俺は?」
いやに優しい抱擁につい尋ね返すと、ぽんと頭を撫でられた。
それは大和の手つきとはまた違っていて、けれど安心するのは事実だ。
「やっぱり殴ってきていい?」
「……は?」
笑みを浮かべたまま紡がれるにしては物騒過ぎて、桜雅が壊れてしまったのかと思った。
「椰一クン? だっけ。家知ってたら今すぐ車飛ばして、ぶん殴ってくるよ。あ、病院送りにはならない程度にするから安心──」
「それで俺がいいって言うと思うか!?」
「ぐふっ……!」
口早で捲し立てられた言葉の羅列に反応が遅れるも、桜雅の鳩尾に拳を振り上げる。
力はあまり強くはなかったものの、不意打ちだったためか桜雅は二歩三歩と後ろによろけて膝を突く。
「やっぱ桜雅に聞いた俺が馬鹿だった。……先輩に会ったらそういうこと、絶対するなよ」
「せ、先輩?」
痛みに顔を歪めながら桜雅が問い掛ける。
どうやら大和のことは完全に抜け落ちていたようで、二重で溜め息を吐きそうになった。
ぎりりと奥歯を噛み締め、龍冴はベッドサイドに置いていた携帯をポケットに突っ込むと、ドアに脚を向ける。
「え、ちょ、りょうちゃんどこに」
「どこでも良いだろ」
短く吐き捨て、未だ膝を突いている桜雅の顔を見ずに部屋を出る。
苛立ちと虚しさでどうにかなってしまいそうで、家に居るのは嫌だった。
少しでも外の空気を吸って心を落ち着かせ、それから明日の試験勉強をしよう──そう思った。
階段を降り、玄関に向かおうとすると同時に携帯が振動する。
「ん……?」
画面を開くと、龍冴はかすかに目を瞠った。
最初こそ信じなかったが噂は真実で、数日前に加えて今日も浮気している現場を見たこと。
その後、一人で泣いていたら一つ上の先輩がやってきて、落ち着くまで傍に居てくれたこと。
「──好き、って思うのは……俺がおかしいのかな」
大和に対する感情は曖昧で、ともすれば脆く儚いものだろう。
気持ちが沈んでいる時に優しくされれば、人間というものは誰しもその相手を好きになる。
少なくとも、今の今までこうした感情を抱いた事がないため、どこか落ち着かないのは確かだった。
「……なるほど」
ややあって桜雅が短く呟く。
「その恋人とやら、ぶん殴ったらいいんだな」
にっこりと手本のような笑みを浮かべ、膝に置いていた手を鳴らす。
それまで黙って聞いてくれていたが、普段はうるさい人間が静かなのは嫌な予感がしていたのだ。
ひく、と喉が引き攣るのを感じながら、龍冴は慌ててベッドから立ち上がった。
「話聞いてたか!? 確かに腹立ったし嫌だったけど、そういうことしなくていいんだって!」
椰一のことで怒ってくれるのは嬉しいが、今龍冴が聞いているのは大和のことだ。
わずかにズレた答えを返す桜雅に呆れこそすれ、本当なら殴って問い詰めたいのが本音でもあった。
「けど一回でも嫌って思ったんだろ? あんな奴のために泣いて、龍冴の貴重な時間が潰されたって思うと俺は……」
そこで桜雅も立ち上がり、ぎゅうと抱き締められる。
自分とは十センチ以上身長差があるが、見た目以上にがっしりとした体格はそこらの鍛えている男となんら変わらないだろう。
「お、俺は?」
いやに優しい抱擁につい尋ね返すと、ぽんと頭を撫でられた。
それは大和の手つきとはまた違っていて、けれど安心するのは事実だ。
「やっぱり殴ってきていい?」
「……は?」
笑みを浮かべたまま紡がれるにしては物騒過ぎて、桜雅が壊れてしまったのかと思った。
「椰一クン? だっけ。家知ってたら今すぐ車飛ばして、ぶん殴ってくるよ。あ、病院送りにはならない程度にするから安心──」
「それで俺がいいって言うと思うか!?」
「ぐふっ……!」
口早で捲し立てられた言葉の羅列に反応が遅れるも、桜雅の鳩尾に拳を振り上げる。
力はあまり強くはなかったものの、不意打ちだったためか桜雅は二歩三歩と後ろによろけて膝を突く。
「やっぱ桜雅に聞いた俺が馬鹿だった。……先輩に会ったらそういうこと、絶対するなよ」
「せ、先輩?」
痛みに顔を歪めながら桜雅が問い掛ける。
どうやら大和のことは完全に抜け落ちていたようで、二重で溜め息を吐きそうになった。
ぎりりと奥歯を噛み締め、龍冴はベッドサイドに置いていた携帯をポケットに突っ込むと、ドアに脚を向ける。
「え、ちょ、りょうちゃんどこに」
「どこでも良いだろ」
短く吐き捨て、未だ膝を突いている桜雅の顔を見ずに部屋を出る。
苛立ちと虚しさでどうにかなってしまいそうで、家に居るのは嫌だった。
少しでも外の空気を吸って心を落ち着かせ、それから明日の試験勉強をしよう──そう思った。
階段を降り、玄関に向かおうとすると同時に携帯が振動する。
「ん……?」
画面を開くと、龍冴はかすかに目を瞠った。
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