【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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三章 優しくしないで

3‐09 気遣いが痛い

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 ◆◆◆




 眩しい日差しに目をすがめながら、龍冴は顔の前に手をかざした。

「……何も待ち合わせしなくてもいいんだけどなぁ」

 はは、と無意識に乾いた笑いを漏らす。

 昨日の昼、家を出ようとしたと同時に大和からメッセージが届いたのだ。

『明日、一緒に学校行こう』

 たった十文字ほどのそれが視界に入った瞬間、脳が軽く思考停止した。

 なぜ、と動揺とともに送ればすぐに既読が付き、やがて『いや?』とだけ返ってきた。

 文章の背後に捨てられた子犬のような残像が見えて、考えるよりも先に『行きます』と返信していた。

 今思えばどうしてあんな事を送り、また了承したのかと思う。

 けれど実際、朝から大和に会えるのを楽しみにしている自分が居るのも事実だった。

「心配、させてんのかな」

 ぽつりと溢した言葉には応えがないため、すぐに空気に溶けて消える。

 大和がここまで気遣ってくれるのは、ひとえに『昨日思い切り泣いていた龍冴が心配』だからで、それ以外の感情はないのだと思う。

 好意があったと思ったのもただの勘違いで、しかし話して日の浅い後輩をここまで気に掛けてくれるだろうか。

 大和はずっと前から龍冴のことを知っていたようで、落とした本を届けてくれた時も終始嬉しそうだった。

 その様子が大型犬のようで可愛らしく、加えて懐っこい笑顔が眩しかった。

 あくまで『優しい先輩』だと思っていていたが昨日は泣いていたのもあって、それが一時的に『男として好き』に変わったに過ぎない。

 一日経ってみれば大和に対する感情は『ただの先輩』に変わる、そう思っていた。

(ど、どうしよ。なんにも頭入ってこねぇ)

 手帳サイズのノートとそれと同じ大きさの赤シートを持ちながら、龍冴は一度その場で立ち止まる。

 行儀が悪くてながら歩きは危険なのは百も承知だが、昨日は普段に比べてあまり勉強していなかった。

 否、できなかったと言った方が正しい。

 それもこれも、大和のメッセージを見てからおかしいのだ。

 試験範囲を開いてもほとんど頭に入らず、息抜きに部屋の掃除をしてみてから臨んでも、さほど記憶力は変わらなかった。

 むしろ悪化の一途を辿りそうで、不本意だが桜雅に勉強方法を教わったのだ。

『俺の場合、好きな音楽聞きながらが一番いいかなぁ。……まぁ煩悩捨てた方がいいか、りょーちゃんの場合』

 最後の方はへらへらと言っていたため、図星に加えて羞恥心も合わさって反射的に桜雅の腹を殴った。

 けれど桜雅の勉強法を試してみても合わず、かろうじて赤シートであれば覚えられたのだが、いつもより徹夜をしてしまった。

 頭が働いているか怪しいが、今日は得意科目がほとんどだったため幸いなのかもしれない。

(……一応教えてくれたし、なんかケーキでも買って帰るか)

 コンビニの期間限定のスイーツがあればそれを、無ければシュークリームを三人分購入しようと思い至る。

 一つは優の分だが、好き嫌いがあるためどちらにしろ桜雅のものになるかもしれない。

「甘いもん食い過ぎて太ればいいのに」

 服の上からでも分かるほどのしなやかな筋肉は、こちらが羨ましいとすら思うほどだ。

 龍冴が知る限り昔から甘味に目がないのだが、一向に身体の線が変わらずむしろ日を追うごとに筋肉が付いてきているように思う。

「……よし、ジム行こう」

 どれほど運動しても細くて薄いままの腹は、鍛えれば多少は筋肉が付くだろうか。

 身体を動かすのは好きだが、何かしらでやる気が起きない限り続かないのが難点だった。

「家から近くのジム、は……あの馬鹿と鉢合わせそうだし。あ、でも学校の近くなら──」

 ぶつぶつと独り言を言いながら、期末試験の範囲を何度も読み込んでいく。

 高校の最寄り駅に着けば改札から出入り口付近に大和が待っていて、そのまま一緒に向かう事になる。

 次第に早くなる心臓は試験が不安だからで、決して朝から大和と顔を合わせるから胸が高鳴っているのではない──そう自分に言い聞かせた。
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