38 / 91
三章 優しくしないで
3‐09 気遣いが痛い
しおりを挟む
◆◆◆
眩しい日差しに目を眇めながら、龍冴は顔の前に手をかざした。
「……何も待ち合わせしなくてもいいんだけどなぁ」
はは、と無意識に乾いた笑いを漏らす。
昨日の昼、家を出ようとしたと同時に大和からメッセージが届いたのだ。
『明日、一緒に学校行こう』
たった十文字ほどのそれが視界に入った瞬間、脳が軽く思考停止した。
なぜ、と動揺とともに送ればすぐに既読が付き、やがて『いや?』とだけ返ってきた。
文章の背後に捨てられた子犬のような残像が見えて、考えるよりも先に『行きます』と返信していた。
今思えばどうしてあんな事を送り、また了承したのかと思う。
けれど実際、朝から大和に会えるのを楽しみにしている自分が居るのも事実だった。
「心配、させてんのかな」
ぽつりと溢した言葉には応えがないため、すぐに空気に溶けて消える。
大和がここまで気遣ってくれるのは、ひとえに『昨日思い切り泣いていた龍冴が心配』だからで、それ以外の感情はないのだと思う。
好意があったと思ったのもただの勘違いで、しかし話して日の浅い後輩をここまで気に掛けてくれるだろうか。
大和はずっと前から龍冴のことを知っていたようで、落とした本を届けてくれた時も終始嬉しそうだった。
その様子が大型犬のようで可愛らしく、加えて懐っこい笑顔が眩しかった。
あくまで『優しい先輩』だと思っていていたが昨日は泣いていたのもあって、それが一時的に『男として好き』に変わったに過ぎない。
一日経ってみれば大和に対する感情は『ただの先輩』に変わる、そう思っていた。
(ど、どうしよ。なんにも頭入ってこねぇ)
手帳サイズのノートとそれと同じ大きさの赤シートを持ちながら、龍冴は一度その場で立ち止まる。
行儀が悪くてながら歩きは危険なのは百も承知だが、昨日は普段に比べてあまり勉強していなかった。
否、できなかったと言った方が正しい。
それもこれも、大和のメッセージを見てからおかしいのだ。
試験範囲を開いてもほとんど頭に入らず、息抜きに部屋の掃除をしてみてから臨んでも、さほど記憶力は変わらなかった。
むしろ悪化の一途を辿りそうで、不本意だが桜雅に勉強方法を教わったのだ。
『俺の場合、好きな音楽聞きながらが一番いいかなぁ。……まぁ煩悩捨てた方がいいか、りょーちゃんの場合』
最後の方はへらへらと言っていたため、図星に加えて羞恥心も合わさって反射的に桜雅の腹を殴った。
けれど桜雅の勉強法を試してみても合わず、かろうじて赤シートであれば覚えられたのだが、いつもより徹夜をしてしまった。
頭が働いているか怪しいが、今日は得意科目がほとんどだったため幸いなのかもしれない。
(……一応教えてくれたし、なんかケーキでも買って帰るか)
コンビニの期間限定のスイーツがあればそれを、無ければシュークリームを三人分購入しようと思い至る。
一つは優の分だが、好き嫌いがあるためどちらにしろ桜雅のものになるかもしれない。
「甘いもん食い過ぎて太ればいいのに」
服の上からでも分かるほどの靱やかな筋肉は、こちらが羨ましいとすら思うほどだ。
龍冴が知る限り昔から甘味に目がないのだが、一向に身体の線が変わらずむしろ日を追うごとに筋肉が付いてきているように思う。
「……よし、ジム行こう」
どれほど運動しても細くて薄いままの腹は、鍛えれば多少は筋肉が付くだろうか。
身体を動かすのは好きだが、何かしらでやる気が起きない限り続かないのが難点だった。
「家から近くのジム、は……あの馬鹿と鉢合わせそうだし。あ、でも学校の近くなら──」
ぶつぶつと独り言を言いながら、期末試験の範囲を何度も読み込んでいく。
高校の最寄り駅に着けば改札から出入り口付近に大和が待っていて、そのまま一緒に向かう事になる。
次第に早くなる心臓は試験が不安だからで、決して朝から大和と顔を合わせるから胸が高鳴っているのではない──そう自分に言い聞かせた。
眩しい日差しに目を眇めながら、龍冴は顔の前に手をかざした。
「……何も待ち合わせしなくてもいいんだけどなぁ」
はは、と無意識に乾いた笑いを漏らす。
昨日の昼、家を出ようとしたと同時に大和からメッセージが届いたのだ。
『明日、一緒に学校行こう』
たった十文字ほどのそれが視界に入った瞬間、脳が軽く思考停止した。
なぜ、と動揺とともに送ればすぐに既読が付き、やがて『いや?』とだけ返ってきた。
文章の背後に捨てられた子犬のような残像が見えて、考えるよりも先に『行きます』と返信していた。
今思えばどうしてあんな事を送り、また了承したのかと思う。
けれど実際、朝から大和に会えるのを楽しみにしている自分が居るのも事実だった。
「心配、させてんのかな」
ぽつりと溢した言葉には応えがないため、すぐに空気に溶けて消える。
大和がここまで気遣ってくれるのは、ひとえに『昨日思い切り泣いていた龍冴が心配』だからで、それ以外の感情はないのだと思う。
好意があったと思ったのもただの勘違いで、しかし話して日の浅い後輩をここまで気に掛けてくれるだろうか。
大和はずっと前から龍冴のことを知っていたようで、落とした本を届けてくれた時も終始嬉しそうだった。
その様子が大型犬のようで可愛らしく、加えて懐っこい笑顔が眩しかった。
あくまで『優しい先輩』だと思っていていたが昨日は泣いていたのもあって、それが一時的に『男として好き』に変わったに過ぎない。
一日経ってみれば大和に対する感情は『ただの先輩』に変わる、そう思っていた。
(ど、どうしよ。なんにも頭入ってこねぇ)
手帳サイズのノートとそれと同じ大きさの赤シートを持ちながら、龍冴は一度その場で立ち止まる。
行儀が悪くてながら歩きは危険なのは百も承知だが、昨日は普段に比べてあまり勉強していなかった。
否、できなかったと言った方が正しい。
それもこれも、大和のメッセージを見てからおかしいのだ。
試験範囲を開いてもほとんど頭に入らず、息抜きに部屋の掃除をしてみてから臨んでも、さほど記憶力は変わらなかった。
むしろ悪化の一途を辿りそうで、不本意だが桜雅に勉強方法を教わったのだ。
『俺の場合、好きな音楽聞きながらが一番いいかなぁ。……まぁ煩悩捨てた方がいいか、りょーちゃんの場合』
最後の方はへらへらと言っていたため、図星に加えて羞恥心も合わさって反射的に桜雅の腹を殴った。
けれど桜雅の勉強法を試してみても合わず、かろうじて赤シートであれば覚えられたのだが、いつもより徹夜をしてしまった。
頭が働いているか怪しいが、今日は得意科目がほとんどだったため幸いなのかもしれない。
(……一応教えてくれたし、なんかケーキでも買って帰るか)
コンビニの期間限定のスイーツがあればそれを、無ければシュークリームを三人分購入しようと思い至る。
一つは優の分だが、好き嫌いがあるためどちらにしろ桜雅のものになるかもしれない。
「甘いもん食い過ぎて太ればいいのに」
服の上からでも分かるほどの靱やかな筋肉は、こちらが羨ましいとすら思うほどだ。
龍冴が知る限り昔から甘味に目がないのだが、一向に身体の線が変わらずむしろ日を追うごとに筋肉が付いてきているように思う。
「……よし、ジム行こう」
どれほど運動しても細くて薄いままの腹は、鍛えれば多少は筋肉が付くだろうか。
身体を動かすのは好きだが、何かしらでやる気が起きない限り続かないのが難点だった。
「家から近くのジム、は……あの馬鹿と鉢合わせそうだし。あ、でも学校の近くなら──」
ぶつぶつと独り言を言いながら、期末試験の範囲を何度も読み込んでいく。
高校の最寄り駅に着けば改札から出入り口付近に大和が待っていて、そのまま一緒に向かう事になる。
次第に早くなる心臓は試験が不安だからで、決して朝から大和と顔を合わせるから胸が高鳴っているのではない──そう自分に言い聞かせた。
1
あなたにおすすめの小説
小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
君の紡ぐ言葉が聴きたい
月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる