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四章 夏本番、近付く距離
4‐08 正真正銘、兄弟です
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「ん?」
「あ」
その声に龍冴は立ち止まり、しかし大和は反射的に短く低い声を放った。
「ずっと迎えに来たって送ってんのに、ぜんっっっぜん見ねぇし電話も出ねぇ……そしたら知らねぇ奴と歩いてるってどういう事だ!?」
声のした方を振り向けばよく見知った顔──桜雅がおり、涙目で携帯を握っているのが視界に入った。
「俺のことはどうでもいいのか……!?」
半ば涙声になりながら脇目も振らず、ずんずんとこちらに歩いてくる。
(め、めんどくせぇ……)
公衆の面前というのを抜きにしても、桜雅がここまで怒るのは何もメッセージを無視しただけではないだろう。
確かに桜雅からの通知を消したのは自分に非があるが、何もそこまで怒鳴らなくてもいいのではないか。
そんな思いを込めて口を開こうとするよりもわずかに早く、視界が白いシャツで遮られた。
「……あの、誰か知りませんけどやめてくれます? 付きまとうの、正直言ってダサいですよ」
聞いた事がないほど低い声は先程よりも重圧的で、しかし紛れもなく大和から放たれたものだった。
半ば背中に隠すように龍冴の前に立ち、桜雅を睨む。
「は? なんでお前に関係あんの? 俺はそこの奴に大事な用があるだけなんだけど?」
どうやら不審者──もとい、ストーカーと思っているらしく、警戒しているのが空気感で伝わってくる。
「え、っと……先輩」
さすがに桜雅が可哀想で、しかし言葉の節々で勘違いされても仕方ないためか、同情する余地はさらさら無い。
「……なに」
ちらりと視線だけを寄越され、その鋭さと低い声音に図らずも心臓が高鳴る。
(な、何考えてんだ俺は! こんな時に……!)
大和の笑った表情しか見た事がなかったため新鮮な気持ちと、自分を守ろうとしてくれている仕草が嬉しくて、もはやどう形容したものか分からなくなりそうだった。
「この人、兄です……」
堪らず顔を俯け、囁くように言った。
タイミングこそあれ、さすがについ今しがた好意を自覚してしまったからか、まともに大和の顔を見れそうになかった。
「え」
空気に溶けてしまいそうなほど小さな言葉はしっかりと伝わったようで、みるみるうちに大和の瞳が見開かれる。
そして龍冴とまだ怒り心頭な桜雅とを交互に見ると、乾いた笑いを漏らす。
「なんか、その……似てない、な」
はは、と笑う大和の反応はもっともだと思う。
(似てないのは見た目、ってか性格がだよな)
見た目こそ優男然としているが、ひとたび怒れば誰であっても手が付けられないのは間違いなかった。
仮に龍冴が猫であれば、桜雅は狐や狸だろう。
物腰柔らかな口調で紡がれる低温は老若男女問わず虜にさせ、類稀なる容姿はモデル並みだと言える。
街中を歩けば声を掛けられる事は数知れず、芸能界へスカウトしようとする人間も少なからず居た。
それをことごとく断り、真面目に勉強をして一流企業への内定が決まっている。
暇なのかは知らないが、こうして弟のテスト終わりに迎えに来るほどのブラコンなのだ。
事前に連絡をしているとしても──こちらが無視をしているのが原因だが──、言動が行き過ぎてしまって初対面の者から見れば不審者と感じるのは無理もない。
「似てないってなんだよ、似てないって! お前に何が分かるんだ、龍冴は可愛いけど!」
「そういうとこだよ」
大和の影に隠れ、龍冴はぼそりと反射的に突っ込む。
ここまで弟のことが好きで、行動力のある兄はそういないだろう。
少なくとも、頼んでいないのに迎えに来るのは止めて欲しいのが本音だった。
たとえ車の中で大人しく待っているとしても、桜雅はそれほど目立つのだ。
黙っていればどう思われるのか、自分がいかに顔が整っているのかを一度くらい考えて欲しいものの、それは無理だと分かっている。
「あ」
その声に龍冴は立ち止まり、しかし大和は反射的に短く低い声を放った。
「ずっと迎えに来たって送ってんのに、ぜんっっっぜん見ねぇし電話も出ねぇ……そしたら知らねぇ奴と歩いてるってどういう事だ!?」
声のした方を振り向けばよく見知った顔──桜雅がおり、涙目で携帯を握っているのが視界に入った。
「俺のことはどうでもいいのか……!?」
半ば涙声になりながら脇目も振らず、ずんずんとこちらに歩いてくる。
(め、めんどくせぇ……)
公衆の面前というのを抜きにしても、桜雅がここまで怒るのは何もメッセージを無視しただけではないだろう。
確かに桜雅からの通知を消したのは自分に非があるが、何もそこまで怒鳴らなくてもいいのではないか。
そんな思いを込めて口を開こうとするよりもわずかに早く、視界が白いシャツで遮られた。
「……あの、誰か知りませんけどやめてくれます? 付きまとうの、正直言ってダサいですよ」
聞いた事がないほど低い声は先程よりも重圧的で、しかし紛れもなく大和から放たれたものだった。
半ば背中に隠すように龍冴の前に立ち、桜雅を睨む。
「は? なんでお前に関係あんの? 俺はそこの奴に大事な用があるだけなんだけど?」
どうやら不審者──もとい、ストーカーと思っているらしく、警戒しているのが空気感で伝わってくる。
「え、っと……先輩」
さすがに桜雅が可哀想で、しかし言葉の節々で勘違いされても仕方ないためか、同情する余地はさらさら無い。
「……なに」
ちらりと視線だけを寄越され、その鋭さと低い声音に図らずも心臓が高鳴る。
(な、何考えてんだ俺は! こんな時に……!)
大和の笑った表情しか見た事がなかったため新鮮な気持ちと、自分を守ろうとしてくれている仕草が嬉しくて、もはやどう形容したものか分からなくなりそうだった。
「この人、兄です……」
堪らず顔を俯け、囁くように言った。
タイミングこそあれ、さすがについ今しがた好意を自覚してしまったからか、まともに大和の顔を見れそうになかった。
「え」
空気に溶けてしまいそうなほど小さな言葉はしっかりと伝わったようで、みるみるうちに大和の瞳が見開かれる。
そして龍冴とまだ怒り心頭な桜雅とを交互に見ると、乾いた笑いを漏らす。
「なんか、その……似てない、な」
はは、と笑う大和の反応はもっともだと思う。
(似てないのは見た目、ってか性格がだよな)
見た目こそ優男然としているが、ひとたび怒れば誰であっても手が付けられないのは間違いなかった。
仮に龍冴が猫であれば、桜雅は狐や狸だろう。
物腰柔らかな口調で紡がれる低温は老若男女問わず虜にさせ、類稀なる容姿はモデル並みだと言える。
街中を歩けば声を掛けられる事は数知れず、芸能界へスカウトしようとする人間も少なからず居た。
それをことごとく断り、真面目に勉強をして一流企業への内定が決まっている。
暇なのかは知らないが、こうして弟のテスト終わりに迎えに来るほどのブラコンなのだ。
事前に連絡をしているとしても──こちらが無視をしているのが原因だが──、言動が行き過ぎてしまって初対面の者から見れば不審者と感じるのは無理もない。
「似てないってなんだよ、似てないって! お前に何が分かるんだ、龍冴は可愛いけど!」
「そういうとこだよ」
大和の影に隠れ、龍冴はぼそりと反射的に突っ込む。
ここまで弟のことが好きで、行動力のある兄はそういないだろう。
少なくとも、頼んでいないのに迎えに来るのは止めて欲しいのが本音だった。
たとえ車の中で大人しく待っているとしても、桜雅はそれほど目立つのだ。
黙っていればどう思われるのか、自分がいかに顔が整っているのかを一度くらい考えて欲しいものの、それは無理だと分かっている。
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