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四章 夏本番、近付く距離
4‐12 分からない
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そう言い終えると、龍冴はぎゅうと強く瞼を閉じた。
大和からの答えを聞くのが怖くて、叶うならば今すぐに桜雅や友人らの後を追いたかった。
しかしもういないのは確定しているため、願うだけ無駄なのだが。
「──勘違いさせてんのはどっちだよ」
大和はそこで言葉を切ると、かすかに手首を摑む力が強くなる。
「っ……」
それは痛みから漏れた声ではなく、単なる幻聴かと思ったのだ。
「けどお前と話すのが迷惑だったんなら謝る。でも……雨宮の言う『好き』はまだ分かんねぇんだ」
「わかん、ない……?」
どういう意味なのか理解できず、小さく同じ言葉を呟く。
言葉通りに受け取るのならば、大和は自分と同じく相手からの好意がはっきりと分かっていないのだと思う。
それは仕方なく、けれど龍冴の内なる気持ちは本物なのだ。
まだまだ話すようになって短いものの、これほど楽しくて話しているのが楽しいと思う相手は。
「俺はずっとサッカーばっかしてたから。どっかの女子に寄り付かれるのは慣れてるし、あしらい方も知ってる。ただまぁ、こういうの……なんて言うのかな」
はは、と大和は低く笑うと、やがて手首を離された。
その手が遠慮がちに己の手に触れようとし、しかしあと少しのところで下ろされる。
「だからごめん、って言うべきなんだろうな、本当は」
ぴくりと肩が揺れ、大和から目が離せなくなる。
その後に続く言葉がなんとなく予想出来るからか、けれど気持ちに反して胸の奥が重苦しい音を立てた。
龍冴はそろりと両手をきつく握り締める。
聞きたいようで聞きたくない、そんな矛盾した感情がじんわりと脳を支配していく。
「──なんでか、雨宮はほっとけないって思う」
そんな龍冴の心情に反して、大和が落ち着いた声で言った。
「ほっとけなくて、誰にも取られたくないんだ」
あまりに優しく響いたそれは、こちらの言う『好き』とそう大差ない。
けれど大和はその感情が分からないようで、今度は龍冴が目を瞠る番だった。
「……なのに好きが分かんねぇっておかしいよな。ごめんな、はっきりしなくて」
軽く頬を掻きつつ大和が続ける。
眉を寄せた表情は心から申し訳ないというのが全面に出ており、けれどこちらの気持ちは伝わっているようだった。
「……謝ってばっかですね、先輩は」
龍冴はやや伏し目がちに口の中で呟いた。
実際、ここまで真摯になって話してくれる人間もそういない。
そもそも告白のような事をしたのは大和が初めてで、加えて曖昧な返事をされるとは思わなかったというのもある。
はっきりと振ってくれないのは大和らしいが、同じ想いを返してくれるとは少しも思っていなかったため、今のところはこの距離感が丁度いいのかもしれない。
「──大丈夫、です」
風に攫われてしまいそうなほどの声量は、果たして届いたのかは分からない。
しかし今度はまっすぐに大和の顔を見つめ、龍冴はそっと唇を開いた。
「こんなこと言っておいてなんですけど正直、俺も分かんないんで。……あいつのこともあるし、勘違いしてるのかもですね。ごめんなさい」
言いながら、がばりと頭を下げる。
言葉にしたことはすべて本音で、嘘偽りは無い。
なのに胸が痛くなるのはなぜなのか、龍冴は気付かないふりをした。
目の前の男がなんとも言えない表情で、ともすれば泣きそうな顔をしていたから。
「……帰りましょっか」
せめてこの空気を変えたくて、口元に笑みを浮かべる。
上手く笑えたかは分からないが、少しでも大和に笑って欲しかった。
大和からの答えを聞くのが怖くて、叶うならば今すぐに桜雅や友人らの後を追いたかった。
しかしもういないのは確定しているため、願うだけ無駄なのだが。
「──勘違いさせてんのはどっちだよ」
大和はそこで言葉を切ると、かすかに手首を摑む力が強くなる。
「っ……」
それは痛みから漏れた声ではなく、単なる幻聴かと思ったのだ。
「けどお前と話すのが迷惑だったんなら謝る。でも……雨宮の言う『好き』はまだ分かんねぇんだ」
「わかん、ない……?」
どういう意味なのか理解できず、小さく同じ言葉を呟く。
言葉通りに受け取るのならば、大和は自分と同じく相手からの好意がはっきりと分かっていないのだと思う。
それは仕方なく、けれど龍冴の内なる気持ちは本物なのだ。
まだまだ話すようになって短いものの、これほど楽しくて話しているのが楽しいと思う相手は。
「俺はずっとサッカーばっかしてたから。どっかの女子に寄り付かれるのは慣れてるし、あしらい方も知ってる。ただまぁ、こういうの……なんて言うのかな」
はは、と大和は低く笑うと、やがて手首を離された。
その手が遠慮がちに己の手に触れようとし、しかしあと少しのところで下ろされる。
「だからごめん、って言うべきなんだろうな、本当は」
ぴくりと肩が揺れ、大和から目が離せなくなる。
その後に続く言葉がなんとなく予想出来るからか、けれど気持ちに反して胸の奥が重苦しい音を立てた。
龍冴はそろりと両手をきつく握り締める。
聞きたいようで聞きたくない、そんな矛盾した感情がじんわりと脳を支配していく。
「──なんでか、雨宮はほっとけないって思う」
そんな龍冴の心情に反して、大和が落ち着いた声で言った。
「ほっとけなくて、誰にも取られたくないんだ」
あまりに優しく響いたそれは、こちらの言う『好き』とそう大差ない。
けれど大和はその感情が分からないようで、今度は龍冴が目を瞠る番だった。
「……なのに好きが分かんねぇっておかしいよな。ごめんな、はっきりしなくて」
軽く頬を掻きつつ大和が続ける。
眉を寄せた表情は心から申し訳ないというのが全面に出ており、けれどこちらの気持ちは伝わっているようだった。
「……謝ってばっかですね、先輩は」
龍冴はやや伏し目がちに口の中で呟いた。
実際、ここまで真摯になって話してくれる人間もそういない。
そもそも告白のような事をしたのは大和が初めてで、加えて曖昧な返事をされるとは思わなかったというのもある。
はっきりと振ってくれないのは大和らしいが、同じ想いを返してくれるとは少しも思っていなかったため、今のところはこの距離感が丁度いいのかもしれない。
「──大丈夫、です」
風に攫われてしまいそうなほどの声量は、果たして届いたのかは分からない。
しかし今度はまっすぐに大和の顔を見つめ、龍冴はそっと唇を開いた。
「こんなこと言っておいてなんですけど正直、俺も分かんないんで。……あいつのこともあるし、勘違いしてるのかもですね。ごめんなさい」
言いながら、がばりと頭を下げる。
言葉にしたことはすべて本音で、嘘偽りは無い。
なのに胸が痛くなるのはなぜなのか、龍冴は気付かないふりをした。
目の前の男がなんとも言えない表情で、ともすれば泣きそうな顔をしていたから。
「……帰りましょっか」
せめてこの空気を変えたくて、口元に笑みを浮かべる。
上手く笑えたかは分からないが、少しでも大和に笑って欲しかった。
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