54 / 91
四章 夏本番、近付く距離
4‐13 大きな疑問
しおりを挟む
◆◆◆
「お疲れー」
「やっと終わった……!」
「ねぇねぇ、この後どこ行く?」
「そういえば駅前の近くに──」
ざわざわとした騒がしさは、普段と何ら変わらない。
むしろ緊張感がなく、担任が来るまでの短い間を繋ぐように仲間内でお喋りに興じる者や、机に顔を伏せる者とその過ごし方は様々だ。
それもこれも五日間の期末試験が終わり、あと二週間ほどすれば夏休みが始まるからだろうか。
既に長期休みの過ごし方を話し合う声がそこかしこで聞こえてきて、行動が早いなと何とはなしに思う。
(そろそろ夏休み、か)
あれほど楽しみにしていた休みがすぐそこまで来ていると実感すると、少しの高揚感に包まれた。
なのに龍冴の心は、この数日ずっと晴れないままだ。
ふぅ、と龍冴は人知れず息を吐くと、窓の外へ視線を向ける。
あれから大和とは顔を合わせておらず、メッセージアプリでやり取りもしていない。
こちらから気まずくさせてしまった手前、返信の催促をするのも少し違う気がしたのだ。
もちろん椰一からも未だに返ってきていないため、既に自然消滅したものだと思っている。
(あいつから返信、は……来ないだろうな)
二人のどちらかであれば、椰一から何か反応があるかもしれない。
なんと返ってくるのか興味はなくなっているが、意味もなく椰一のメッセージ欄を開いた。
『話したい』という自分が送った文面で会話は終わっており、以降は龍冴から送ってばかりだった。
椰一が最後に送ったメッセージまでスクロールすると、しっかりと二週間以上が経っている。
(ダメ元だ、これは)
心の中でそう言い訳すると、龍冴はキーボードに指を滑らせた。
『月曜のテスト終わり、誰かといた?』
ごく短いそれは、たとえ返信がなくても既読くらいは付くだろう。
ただ、未読であれ数日待っても返信がないとブロックされたと分かるため、そうであれば仕方ないと思う。
しかし少しでもいいから、校内で密やかに出回っている噂の真意を知りたいというのもあった。
出どころはどこからという事実よりも、なぜ誰彼構わず声を掛けまくっているのか。
男女問わず、気になった相手に適当な理由を付けて好意を伝えているのであれば、それは遊んでいるのと変わらない。
加えて椰一が告白した相手が、件の噂を知っている可能性も否定できないのだ。
拒否されるのはもちろんのこと、最終的に怪しまれて『佐野椰一から告白された』と周囲へ言いふらすかもしれない、と考えた事はないのかと思う。
何も椰一が心配な訳ではないが、あまりに危機感がないのではないか。
これではいつかボロが出て、次に傷付くのは自分だと察するのも時間の問題かもしれないというのに。
「お疲れー」
「やっと終わった……!」
「ねぇねぇ、この後どこ行く?」
「そういえば駅前の近くに──」
ざわざわとした騒がしさは、普段と何ら変わらない。
むしろ緊張感がなく、担任が来るまでの短い間を繋ぐように仲間内でお喋りに興じる者や、机に顔を伏せる者とその過ごし方は様々だ。
それもこれも五日間の期末試験が終わり、あと二週間ほどすれば夏休みが始まるからだろうか。
既に長期休みの過ごし方を話し合う声がそこかしこで聞こえてきて、行動が早いなと何とはなしに思う。
(そろそろ夏休み、か)
あれほど楽しみにしていた休みがすぐそこまで来ていると実感すると、少しの高揚感に包まれた。
なのに龍冴の心は、この数日ずっと晴れないままだ。
ふぅ、と龍冴は人知れず息を吐くと、窓の外へ視線を向ける。
あれから大和とは顔を合わせておらず、メッセージアプリでやり取りもしていない。
こちらから気まずくさせてしまった手前、返信の催促をするのも少し違う気がしたのだ。
もちろん椰一からも未だに返ってきていないため、既に自然消滅したものだと思っている。
(あいつから返信、は……来ないだろうな)
二人のどちらかであれば、椰一から何か反応があるかもしれない。
なんと返ってくるのか興味はなくなっているが、意味もなく椰一のメッセージ欄を開いた。
『話したい』という自分が送った文面で会話は終わっており、以降は龍冴から送ってばかりだった。
椰一が最後に送ったメッセージまでスクロールすると、しっかりと二週間以上が経っている。
(ダメ元だ、これは)
心の中でそう言い訳すると、龍冴はキーボードに指を滑らせた。
『月曜のテスト終わり、誰かといた?』
ごく短いそれは、たとえ返信がなくても既読くらいは付くだろう。
ただ、未読であれ数日待っても返信がないとブロックされたと分かるため、そうであれば仕方ないと思う。
しかし少しでもいいから、校内で密やかに出回っている噂の真意を知りたいというのもあった。
出どころはどこからという事実よりも、なぜ誰彼構わず声を掛けまくっているのか。
男女問わず、気になった相手に適当な理由を付けて好意を伝えているのであれば、それは遊んでいるのと変わらない。
加えて椰一が告白した相手が、件の噂を知っている可能性も否定できないのだ。
拒否されるのはもちろんのこと、最終的に怪しまれて『佐野椰一から告白された』と周囲へ言いふらすかもしれない、と考えた事はないのかと思う。
何も椰一が心配な訳ではないが、あまりに危機感がないのではないか。
これではいつかボロが出て、次に傷付くのは自分だと察するのも時間の問題かもしれないというのに。
1
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
幼馴染が「お願い」って言うから
尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。
「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」
里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。
★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2)
☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。
☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる