【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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四章 夏本番、近付く距離

4‐14 言葉の棘

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「うおっ」

 送信してから数秒、メッセージ欄を閉じようとしたところで既読が付いた。

『人違いだろ』

 それは実に二週間ぶりの返信で、けれどいつになく投げやりな文面だった。

『でも見たんだ、たまたま』

『人違いじゃない』

 心臓がうるさく音を立てているのを聞きながら、震えそうになる指先でなんとかそれだけを打ち込んだ。

『どこにそんな証拠あんの』

 これもすぐに既読が付き、二週間もの間音沙汰がなかったのはどこへやら、椰一からのメッセージは続く。

『たまたまってのも嘘だろ。いつも一人で帰ってるのに、けてきてんのか』

「えっ、と」

 なんと返したものか、ぐるぐると考える。

 確かに椰一の言う通り証拠はなく、これといって納得させられるような言葉も持ち合わせていない。

 まさかすぐに返信があるとは思わなかったからか、こればかりは紛れもなく自分の落ち度だ。

 加えて怒ったような文面は、何も顔が見えないからではない。

 たとえ通話をしても、直接会って事の顛末てんまつを説明してもまったく伝わらない気がして、別な恐怖が背筋を駆け上がっていった。

『今まで何もなかったのにいきなり疑って』

『俺が浮気してるって言いてぇの』

「っ」

 ふと視界に入った文字の羅列に、反射的に喉が鳴る。

 椰一の方からそういうことを言ってくるとは思わなくて、額に汗が一筋伝った。

 いや、実際こちらから言おうとしていたため、先を越されたという方が正しいのだが。

『違う、そういうわけじゃ』

 ない、と打とうとしてすべて消す。

 これ以上椰一と付き合うのは時間の無駄でしかなく、龍冴とて二度目の現場を見た時点でそう結論付けたのだ。

 何度も何度も考え、けれど時々大和の顔がちらついて、試験範囲にはあまり集中できなかったのだが。

 きゅうと唇を噛み締め、未だうるさい心臓に耳を傾けながらそっと指を動かす。

 ──別れてください。

 この言葉を送信すれば最後、椰一との関係も完全に終わるのだ。

 だというのに、その後が怖くて勇気が出なかった。

 既読は付いているため、メッセージ画面を開いて返信を待っているのかもしれない。

 そうでなくても、帰りのホームルームが終わってすぐに一年生の棟へ向かい、近くで待っている可能性も十二分にあった。

(どっちも嫌だ)

 鬱々とした気持ちのまま椰一にメッセージを送ったのが悪かったのか、タイミングが良かったのか最早何が間違っていたのか分からない。

 ただ、こうしている間にも、そろそろ担任が教室に入ってくるだろう。

「……あとで送ろう」

 さすがに試験が終わってから、ただ一人で気を張っているのは辛い。

 龍冴は簡潔に『ごめん、またあとで』と送った。

 見ているかどうかを確認するのも嫌で、送信するとすぐに椰一との会話履歴を閉じる。

 しかしそれだけではあまりに心許なくて、一時間後に通知が表示されるようにアプリの設定を調節した。
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