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五章 離れたくない、そう思った
5‐06 夏休み
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◆◆◆
夏特有の空気が好きだ。
それは普段の何気ない日常が瞬く間に非日常に変わるからか、もしくは単に夏休みが楽しいからかもしれない。
「あー、恋してぇ」
それは誰が言ったのか、龍冴の部屋の中にやけに大きく響いた。
「……また唐突な」
はぁ、と呆れともつかない溜め息を吐くと、声の主──仁を見つめる。
「や、だってさ。雅玖の惚気聞くこっちの身にもなれよぉ」
酷いんだよ、と仁が続ける。
この場には例に漏れず仁と永睦がおり、雅玖は遅れてやってくる。
なんでも昨日は幸と泊まりで出掛けていたらしいが、先に首を突っ込んだのは仁だという。
「楽しそうだなぁって思いながら聞いてたんだ、最初は。そしたら段々イチャついて……聞くんじゃなかった」
最初はメッセージアプリで、少ししてまどろっこしいと電話越しに互いに今日あった事や帰ってからどこに集まるか、を話していたらしい。
するの雅玖の声に混じって他の男の声が聞こえ、それでも仁は会話を続けた。
ほんの出来心で通話をしたというのは否めないが、結果的に損をしたのはほかでもない仁だったようだ。
「ま、なんであれ取り込み中だったんだろ」
永睦が龍冴のベッドで漫画を読みながら、気怠そうに言った。
今日は桜雅が用事があると事前に言っていたため、来る事になったのだが、運悪く玄関前で鉢合わせたのだ。
『あっ、あば、うぇ、っ……こんにちは!』
ここまで取り乱した永睦を見るのは久しぶりで、小さく吹き出してしまったが、気付かれていないのは幸いだと撫で下ろしたものだ。
可哀想なほど慌てる永睦を見た桜雅は、出掛けようとした脚を引き返してキッチンへ向かうとこう言った。
『挨拶出来て偉いうさぎちゃんにプレゼント。他にも色々買ってあるから、皆好きなだけ飲んで食べてね』
柔らかく笑って言いながら、桜雅がそっと永睦の手に載せてきたものが何かは誰も確認していない。
それは手の平に収まるほどで、お菓子の類なのか可愛らしいピンクのリボンで個包装がされている。
けれど中身は暗黙の了解とでもいうのか、あの仁ですら『見てみよう』と言い出さなかった。
龍冴は龍冴で呆れているからだが、口を開けば面倒なため黙っているだけだ。
その後、桜雅がどこかへ行くのを三人で見届けると、龍冴と仁を盾にして震えていた永睦の様子ときたら、それこそ呆れてものも言えない。
「んで、羨ましくなって自分も恋人作りたい、的な? ……いやぁ、あの仁がねぇ」
色気付いたもんだ、と永睦がちらりと仁を見つめる。
(どこのおっさんだ、お前は)
黙って聞いている分には普段と何ら変わらないが、永睦の口調は時としておよそ普通の高校生らしくなくなる。
けれどこれが永睦の素であって、誰も突っ込まないのはお約束になりつつあった。
桜雅がいなければふんぞり返る時もあるため、これはこれで面白いから放っておいているのだが。
「と思うじゃん? そういう訳じゃないんだよな、これが」
「その心は?」
言いながら興味深そうに永睦が起き上がり、仁の側へにじり寄る。
心做しか瞳がきらきらと輝いており、今にも押し倒しそうな勢いだ。
(二人ともお似合いだよ)
はは、と龍冴は内心で苦笑する。
性格というのもあるが、互いに超が付くほど自由なのだ。
なのに面倒事があると率先して誰かに押し付ける、という互いに人として最低な事をするが、それを除けば良き理解者だと言えた。
夏特有の空気が好きだ。
それは普段の何気ない日常が瞬く間に非日常に変わるからか、もしくは単に夏休みが楽しいからかもしれない。
「あー、恋してぇ」
それは誰が言ったのか、龍冴の部屋の中にやけに大きく響いた。
「……また唐突な」
はぁ、と呆れともつかない溜め息を吐くと、声の主──仁を見つめる。
「や、だってさ。雅玖の惚気聞くこっちの身にもなれよぉ」
酷いんだよ、と仁が続ける。
この場には例に漏れず仁と永睦がおり、雅玖は遅れてやってくる。
なんでも昨日は幸と泊まりで出掛けていたらしいが、先に首を突っ込んだのは仁だという。
「楽しそうだなぁって思いながら聞いてたんだ、最初は。そしたら段々イチャついて……聞くんじゃなかった」
最初はメッセージアプリで、少ししてまどろっこしいと電話越しに互いに今日あった事や帰ってからどこに集まるか、を話していたらしい。
するの雅玖の声に混じって他の男の声が聞こえ、それでも仁は会話を続けた。
ほんの出来心で通話をしたというのは否めないが、結果的に損をしたのはほかでもない仁だったようだ。
「ま、なんであれ取り込み中だったんだろ」
永睦が龍冴のベッドで漫画を読みながら、気怠そうに言った。
今日は桜雅が用事があると事前に言っていたため、来る事になったのだが、運悪く玄関前で鉢合わせたのだ。
『あっ、あば、うぇ、っ……こんにちは!』
ここまで取り乱した永睦を見るのは久しぶりで、小さく吹き出してしまったが、気付かれていないのは幸いだと撫で下ろしたものだ。
可哀想なほど慌てる永睦を見た桜雅は、出掛けようとした脚を引き返してキッチンへ向かうとこう言った。
『挨拶出来て偉いうさぎちゃんにプレゼント。他にも色々買ってあるから、皆好きなだけ飲んで食べてね』
柔らかく笑って言いながら、桜雅がそっと永睦の手に載せてきたものが何かは誰も確認していない。
それは手の平に収まるほどで、お菓子の類なのか可愛らしいピンクのリボンで個包装がされている。
けれど中身は暗黙の了解とでもいうのか、あの仁ですら『見てみよう』と言い出さなかった。
龍冴は龍冴で呆れているからだが、口を開けば面倒なため黙っているだけだ。
その後、桜雅がどこかへ行くのを三人で見届けると、龍冴と仁を盾にして震えていた永睦の様子ときたら、それこそ呆れてものも言えない。
「んで、羨ましくなって自分も恋人作りたい、的な? ……いやぁ、あの仁がねぇ」
色気付いたもんだ、と永睦がちらりと仁を見つめる。
(どこのおっさんだ、お前は)
黙って聞いている分には普段と何ら変わらないが、永睦の口調は時としておよそ普通の高校生らしくなくなる。
けれどこれが永睦の素であって、誰も突っ込まないのはお約束になりつつあった。
桜雅がいなければふんぞり返る時もあるため、これはこれで面白いから放っておいているのだが。
「と思うじゃん? そういう訳じゃないんだよな、これが」
「その心は?」
言いながら興味深そうに永睦が起き上がり、仁の側へにじり寄る。
心做しか瞳がきらきらと輝いており、今にも押し倒しそうな勢いだ。
(二人ともお似合いだよ)
はは、と龍冴は内心で苦笑する。
性格というのもあるが、互いに超が付くほど自由なのだ。
なのに面倒事があると率先して誰かに押し付ける、という互いに人として最低な事をするが、それを除けば良き理解者だと言えた。
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