【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

文字の大きさ
66 / 91
五章 離れたくない、そう思った

5‐10 待ち合わせ

しおりを挟む
 ◆◆◆




「はっ……はぁっ」

 太陽が燦々さんさんと照り付ける午前十一時、龍冴は目的地へと急いでいた。

 家から駅まで大急ぎで走ったのはもちろん、指定された駅の改札を通っても、どこか落ち着かない気持ちのまま小走りで目的の人を探す。

(まさか誘ってくれるなんて)

 とうに返信など忘れているもので、けれど淡い期待を捨てきれずに待っていたのは否めない。

 よくて『元気だよ』と返ってくるだけでも嬉しいのに、まさか『この日予定ある?』と聞いてくるとは思わなかった。

「あ、っ……」

 すると周囲から頭一つ分ほど飛び抜けた、黒髪の後頭部が見えた。

「……鷹月、先輩」

 ぽそりと口の中でそれだけを呟く。

 白いシャツとデニムパンツを纏ったさまは、シンプルながら大和が着ているとそれだけでモデル級だ。

 やや浅黒いのは日に焼けているからだが、それすらも大和を形成しているのだと思うと少し感慨深くなる。

「ん、おはよ」

 大和もこちらに気付いたのか、携帯に向けていた視線を上げて淡く微笑む。

 柔らかな笑みを見ると無意識に顔が熱くなったが、これは暑さのせいだと思い込む。

(走ったから! あと、遅くなったから!)

 心臓が高鳴っているのも、額から汗が幾筋も流れていくのも、すべては走ってきたせいだ。

 ぎりぎりまで着ていく服に悩み、早く出ないとと思っても身だしなみが上手くいかなくて、それ以外にも色々と手こずったというのもある。

 結局のところ、無難に黒と白のモノトーンに首元にはシルバーのネックレスという、至ってシンプルな装いになった。

 駅構内は外に比べてまだ涼しいが、この暑さではたとえ数分であっても待たせるのは申し訳なくて、龍冴はぺこりと頭を下げた。

「え、えっと。ごめんなさい、遅くなって」

 待ち合わせの時間は十時だったが、家を出た時は三十分を軽く過ぎていた。

 一応メッセージアプリで遅れる旨を伝えたものの、返信を見るのが怖くて携帯を開いてすらいない。

 顔を見ればさぞ怒っているか呆れているかと思ったが、大和は頬に笑みを浮かべたまま唇を開く。

「俺もさっき来たとこだから。むしろ丁度いいと思ってたとこ」

 だから大丈夫、とぽんぽんと背中を叩かれる。

 頭を撫でられなくてよかったが、何か物足りなくて無意識に目線を泳がせた。

「や、でも……」

「あんまり言ってると謝るの禁止にするぞ? 次言ったら口も聞いて──」

「嫌です!」

(話せなくなるのは嫌だ……!)

 どこか歌うように言った大和の言葉に、龍冴は半ば被せるようにして遮る。

 しかしすぐに大声を出してしまったことに気付き、今度は羞恥で顔から火が出そうになっった。

「あ、っちが……」

 まだ駅構内でだったのが幸いだが、数人は何事かとこちらを見ている気がして、やはりいたたまれない気持ちにさせられる。

「冗談だって。……ほら、そんな顔すんな」

「っ」

 不意に、ぽんと大和の大きな手が頭に乗せられた。

 背中を叩かれた時よりもずっと優しく撫でられ、龍冴はぱちぱちと目を瞬かせる。

 自然な仕草で頭を撫でられたのが嬉しいと思う反面、そこでやっとこちらの反応を見て遊ばれていたのだと気付く。

 その証拠に、見上げた大和の表情が普段よりもずっと優しくて、なのにイタズラっ子のように見えるのは気のせいではないだろう。

「ん?」

 緩く傾げられた首筋の筋肉が不思議と扇情的に見えて、龍冴はぱっと目を逸らす。

「や、なんもない……です」

 今はそう言うのが精一杯で、大和のかすかな笑い声が後に続くのはすぐだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

処理中です...