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五章 離れたくない、そう思った
5‐10 待ち合わせ
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◆◆◆
「はっ……はぁっ」
太陽が燦々と照り付ける午前十一時、龍冴は目的地へと急いでいた。
家から駅まで大急ぎで走ったのはもちろん、指定された駅の改札を通っても、どこか落ち着かない気持ちのまま小走りで目的の人を探す。
(まさか誘ってくれるなんて)
とうに返信など忘れているもので、けれど淡い期待を捨てきれずに待っていたのは否めない。
よくて『元気だよ』と返ってくるだけでも嬉しいのに、まさか『この日予定ある?』と聞いてくるとは思わなかった。
「あ、っ……」
すると周囲から頭一つ分ほど飛び抜けた、黒髪の後頭部が見えた。
「……鷹月、先輩」
ぽそりと口の中でそれだけを呟く。
白いシャツとデニムパンツを纏ったさまは、シンプルながら大和が着ているとそれだけでモデル級だ。
やや浅黒いのは日に焼けているからだが、それすらも大和を形成しているのだと思うと少し感慨深くなる。
「ん、おはよ」
大和もこちらに気付いたのか、携帯に向けていた視線を上げて淡く微笑む。
柔らかな笑みを見ると無意識に顔が熱くなったが、これは暑さのせいだと思い込む。
(走ったから! あと、遅くなったから!)
心臓が高鳴っているのも、額から汗が幾筋も流れていくのも、すべては走ってきたせいだ。
ぎりぎりまで着ていく服に悩み、早く出ないとと思っても身だしなみが上手くいかなくて、それ以外にも色々と手こずったというのもある。
結局のところ、無難に黒と白のモノトーンに首元にはシルバーのネックレスという、至ってシンプルな装いになった。
駅構内は外に比べてまだ涼しいが、この暑さではたとえ数分であっても待たせるのは申し訳なくて、龍冴はぺこりと頭を下げた。
「え、えっと。ごめんなさい、遅くなって」
待ち合わせの時間は十時だったが、家を出た時は三十分を軽く過ぎていた。
一応メッセージアプリで遅れる旨を伝えたものの、返信を見るのが怖くて携帯を開いてすらいない。
顔を見ればさぞ怒っているか呆れているかと思ったが、大和は頬に笑みを浮かべたまま唇を開く。
「俺もさっき来たとこだから。むしろ丁度いいと思ってたとこ」
だから大丈夫、とぽんぽんと背中を叩かれる。
頭を撫でられなくてよかったが、何か物足りなくて無意識に目線を泳がせた。
「や、でも……」
「あんまり言ってると謝るの禁止にするぞ? 次言ったら口も聞いて──」
「嫌です!」
(話せなくなるのは嫌だ……!)
どこか歌うように言った大和の言葉に、龍冴は半ば被せるようにして遮る。
しかしすぐに大声を出してしまったことに気付き、今度は羞恥で顔から火が出そうになっった。
「あ、っちが……」
まだ駅構内でだったのが幸いだが、数人は何事かとこちらを見ている気がして、やはりいたたまれない気持ちにさせられる。
「冗談だって。……ほら、そんな顔すんな」
「っ」
不意に、ぽんと大和の大きな手が頭に乗せられた。
背中を叩かれた時よりもずっと優しく撫でられ、龍冴はぱちぱちと目を瞬かせる。
自然な仕草で頭を撫でられたのが嬉しいと思う反面、そこでやっとこちらの反応を見て遊ばれていたのだと気付く。
その証拠に、見上げた大和の表情が普段よりもずっと優しくて、なのにイタズラっ子のように見えるのは気のせいではないだろう。
「ん?」
緩く傾げられた首筋の筋肉が不思議と扇情的に見えて、龍冴はぱっと目を逸らす。
「や、なんもない……です」
今はそう言うのが精一杯で、大和のかすかな笑い声が後に続くのはすぐだった。
「はっ……はぁっ」
太陽が燦々と照り付ける午前十一時、龍冴は目的地へと急いでいた。
家から駅まで大急ぎで走ったのはもちろん、指定された駅の改札を通っても、どこか落ち着かない気持ちのまま小走りで目的の人を探す。
(まさか誘ってくれるなんて)
とうに返信など忘れているもので、けれど淡い期待を捨てきれずに待っていたのは否めない。
よくて『元気だよ』と返ってくるだけでも嬉しいのに、まさか『この日予定ある?』と聞いてくるとは思わなかった。
「あ、っ……」
すると周囲から頭一つ分ほど飛び抜けた、黒髪の後頭部が見えた。
「……鷹月、先輩」
ぽそりと口の中でそれだけを呟く。
白いシャツとデニムパンツを纏ったさまは、シンプルながら大和が着ているとそれだけでモデル級だ。
やや浅黒いのは日に焼けているからだが、それすらも大和を形成しているのだと思うと少し感慨深くなる。
「ん、おはよ」
大和もこちらに気付いたのか、携帯に向けていた視線を上げて淡く微笑む。
柔らかな笑みを見ると無意識に顔が熱くなったが、これは暑さのせいだと思い込む。
(走ったから! あと、遅くなったから!)
心臓が高鳴っているのも、額から汗が幾筋も流れていくのも、すべては走ってきたせいだ。
ぎりぎりまで着ていく服に悩み、早く出ないとと思っても身だしなみが上手くいかなくて、それ以外にも色々と手こずったというのもある。
結局のところ、無難に黒と白のモノトーンに首元にはシルバーのネックレスという、至ってシンプルな装いになった。
駅構内は外に比べてまだ涼しいが、この暑さではたとえ数分であっても待たせるのは申し訳なくて、龍冴はぺこりと頭を下げた。
「え、えっと。ごめんなさい、遅くなって」
待ち合わせの時間は十時だったが、家を出た時は三十分を軽く過ぎていた。
一応メッセージアプリで遅れる旨を伝えたものの、返信を見るのが怖くて携帯を開いてすらいない。
顔を見ればさぞ怒っているか呆れているかと思ったが、大和は頬に笑みを浮かべたまま唇を開く。
「俺もさっき来たとこだから。むしろ丁度いいと思ってたとこ」
だから大丈夫、とぽんぽんと背中を叩かれる。
頭を撫でられなくてよかったが、何か物足りなくて無意識に目線を泳がせた。
「や、でも……」
「あんまり言ってると謝るの禁止にするぞ? 次言ったら口も聞いて──」
「嫌です!」
(話せなくなるのは嫌だ……!)
どこか歌うように言った大和の言葉に、龍冴は半ば被せるようにして遮る。
しかしすぐに大声を出してしまったことに気付き、今度は羞恥で顔から火が出そうになっった。
「あ、っちが……」
まだ駅構内でだったのが幸いだが、数人は何事かとこちらを見ている気がして、やはりいたたまれない気持ちにさせられる。
「冗談だって。……ほら、そんな顔すんな」
「っ」
不意に、ぽんと大和の大きな手が頭に乗せられた。
背中を叩かれた時よりもずっと優しく撫でられ、龍冴はぱちぱちと目を瞬かせる。
自然な仕草で頭を撫でられたのが嬉しいと思う反面、そこでやっとこちらの反応を見て遊ばれていたのだと気付く。
その証拠に、見上げた大和の表情が普段よりもずっと優しくて、なのにイタズラっ子のように見えるのは気のせいではないだろう。
「ん?」
緩く傾げられた首筋の筋肉が不思議と扇情的に見えて、龍冴はぱっと目を逸らす。
「や、なんもない……です」
今はそう言うのが精一杯で、大和のかすかな笑い声が後に続くのはすぐだった。
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