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六章 本当の終わりと始まり
6‐05 近付くな
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(……それ、って)
大和の声が一つ一つ耳に入り、そして絶句した。
椰一のよくない噂や部活内でも好き勝手していた話を聞いてはいたが、生々しい出来事を聞いたのはこれが初めてだ。
大和がちらりとこちらを見て、視線だけで『ごめんな』と言っているのを感じ取った。
何も大和が龍冴の代わりに怒る必要など無いというのに、仮にも付き合っていた恋人の前で言うには気が引けたのかもしれない。
その優しさが今ばかりは申し訳なくて、なのに『もっと言ってやって欲しい』『もっと怒りを引き出して欲しい』と思うのは、心から椰一を嫌っていて、幻滅しているからだ。
椰一にとって、龍冴が泣くか怒るかすれば『自分は必要とされている、嫌われていない』と思えるのだろう。
むろん、どんな心理で言っているのかは知りたくもないが、この男が憐れだと再確認した。
(やっぱりアンタは可哀想な奴だよ)
好意を抱いてもらう過程がどうあれ、最終的に見限って捨てるのであれば、何もかもが堂々巡りになる。
その事を分かっているのかいないのか、もしくは大和の言葉は真実なのか、椰一は何も反論しなかった。
やがて大和は椰一に視線を戻すと、龍冴に向けていたものとは比べ物にならない鋭利な瞳を向ける。
「男も女も取っ替え引っ替えしてる奴が、雨宮の前であることないこと貶して、また傷付けるようなこと言って……馬鹿じゃねぇの」
腹の底から吐き捨てるような投げやりな口調は、紛れもない本音なのだろう。
傍に居るからか、大和の内なる怒りを否が応でも感じてしまう。
「雨宮がそんな都合よく許すと思ったら、楽なもんはないよな。まぁ、俺が許さねぇけど」
そこで大和は言葉を切ると、ゆっくりとした声で言った。
「後輩としてじゃない、一人の人間としてアンタに言う。もう雨宮を……龍冴を傷付けるな」
「っ……!」
周囲の機械音や話し声が聞こえなくなるほど、はっきりとした声だった。
無意識に傍に立っている大和の顔を見上げれば、どこまでも真剣な横顔が視界に入る。
龍冴の名を呼んだことに気付いていないのか、大和はそろりと目を伏せて続けた。
「連絡先……は、消してるんだっけ。じゃあ話し掛けるのも、顔見せるのも、金輪際止めろ。もしもう一回、俺が居る前で出てきたら」
「先輩」
尚も言葉を重ねようとする大和を遮る形で、龍冴はそっとシャツの裾を摑む。
「もういいです。……もう」
そう言うだけで精一杯なのは、大和の言葉の意図を理解したのはもちろん、これ以上椰一を追い詰めないで欲しいと思ったからだ。
擁護するつもりは毛頭無いが、あと一言二言重ねれば取り返しがつかない事態になる、そう思った。
大和はこちらの意図を汲んでくれたのか、しかし何を思ったか、一度唇を引き結ぶとぐいと手首を引き寄せられる。
「っ、先輩……!?」
力強い手に、踏み出そうとする脚に、龍冴は半ば引き摺られる形で大和の後を着いていった。
大和の声が一つ一つ耳に入り、そして絶句した。
椰一のよくない噂や部活内でも好き勝手していた話を聞いてはいたが、生々しい出来事を聞いたのはこれが初めてだ。
大和がちらりとこちらを見て、視線だけで『ごめんな』と言っているのを感じ取った。
何も大和が龍冴の代わりに怒る必要など無いというのに、仮にも付き合っていた恋人の前で言うには気が引けたのかもしれない。
その優しさが今ばかりは申し訳なくて、なのに『もっと言ってやって欲しい』『もっと怒りを引き出して欲しい』と思うのは、心から椰一を嫌っていて、幻滅しているからだ。
椰一にとって、龍冴が泣くか怒るかすれば『自分は必要とされている、嫌われていない』と思えるのだろう。
むろん、どんな心理で言っているのかは知りたくもないが、この男が憐れだと再確認した。
(やっぱりアンタは可哀想な奴だよ)
好意を抱いてもらう過程がどうあれ、最終的に見限って捨てるのであれば、何もかもが堂々巡りになる。
その事を分かっているのかいないのか、もしくは大和の言葉は真実なのか、椰一は何も反論しなかった。
やがて大和は椰一に視線を戻すと、龍冴に向けていたものとは比べ物にならない鋭利な瞳を向ける。
「男も女も取っ替え引っ替えしてる奴が、雨宮の前であることないこと貶して、また傷付けるようなこと言って……馬鹿じゃねぇの」
腹の底から吐き捨てるような投げやりな口調は、紛れもない本音なのだろう。
傍に居るからか、大和の内なる怒りを否が応でも感じてしまう。
「雨宮がそんな都合よく許すと思ったら、楽なもんはないよな。まぁ、俺が許さねぇけど」
そこで大和は言葉を切ると、ゆっくりとした声で言った。
「後輩としてじゃない、一人の人間としてアンタに言う。もう雨宮を……龍冴を傷付けるな」
「っ……!」
周囲の機械音や話し声が聞こえなくなるほど、はっきりとした声だった。
無意識に傍に立っている大和の顔を見上げれば、どこまでも真剣な横顔が視界に入る。
龍冴の名を呼んだことに気付いていないのか、大和はそろりと目を伏せて続けた。
「連絡先……は、消してるんだっけ。じゃあ話し掛けるのも、顔見せるのも、金輪際止めろ。もしもう一回、俺が居る前で出てきたら」
「先輩」
尚も言葉を重ねようとする大和を遮る形で、龍冴はそっとシャツの裾を摑む。
「もういいです。……もう」
そう言うだけで精一杯なのは、大和の言葉の意図を理解したのはもちろん、これ以上椰一を追い詰めないで欲しいと思ったからだ。
擁護するつもりは毛頭無いが、あと一言二言重ねれば取り返しがつかない事態になる、そう思った。
大和はこちらの意図を汲んでくれたのか、しかし何を思ったか、一度唇を引き結ぶとぐいと手首を引き寄せられる。
「っ、先輩……!?」
力強い手に、踏み出そうとする脚に、龍冴は半ば引き摺られる形で大和の後を着いていった。
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