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六章 本当の終わりと始まり
6‐10 信じさせて
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「──誰も見てないし、なんなら俺はどんなこと言われても気にしない」
だから教えて、と大和が優しい声で続ける。
蒸し暑いというのに、腕に触れてくる手の平はやや冷たかった。
大和も緊張しているのだと思うと少しおかしくて、同時に意地悪したくなってしまう。
龍冴は意を決して唇を開き、けれど視線はすぐに伏せる。
じっと見つめているのはもちろん、優しげな瞳とぶつかれば、言葉が出なくなりそうだったから。
「ほん、とに……俺のこと好きって……証拠は、あるんですか」
まだ信じられないという思いと、嘘だという思いでぐちゃぐちゃだった。
それでも尋ねたいと思うのは、自分も同じ気持ちを返したいと思うのは、紛れもない本音なのだ。
だから、これは大和に対しての最初で最後の意地悪だ。
他の誰でもない自分だけに、大和の口から好意を言ってもらいたかった。
これは龍冴が安心したいだけだが、後になって『やっぱり勘違い』と言われるよりはずっとマシだ。
本当ならすぐにでも『俺も好き』と返したかったが、大和の言葉を待っているうちに段々と視界がぼやけていく感覚があった。
「……なんで泣くんだよ」
「え、っ」
どこか慌てた声が聞こえ、龍冴は隣りに視線を向ける。
見れば大和が痛ましげにこちらを見ており、瞳の奥は戸惑っていた。
「っ、ごめんなさい。俺……っ」
慌てて目元を拭って謝罪するも、やや涙に濡れた手ごと摑まれた。
「こっち」
言いながら大和が腰を浮かせたため、わけもわからず立ち上がらせられる。
「どこ、行くんですか……!?」
先程に比べて触れてくる力は強くない。
むしろ優しくて、まるで恋人にでもなったかのような心地にさせた。
(な、なんで俺は……! 違う、先輩は気を遣ってくれたんだ)
大和の前で涙を見せてしまったのはこれで二度目で、しかし今回ばかりは唐突なのだ。
泣く理由などどこにもなく、面倒な奴だと思われた可能性は十分にある。
ただ、未だ周囲には人が行き交っている。
必死に大和に着いていっている間も、ちらちらとこちらを見てくる気配を嫌でも感じてしまうし、それだけでなく幻聴まで聞こえてくる。
──あんなに泣いて、子供みたい。
──何かあったのかな。
一つはこちらを幼くみてくる侮蔑的な声、もう一つはこちらに対する同情的な声が交互に脳裏を埋め尽くす。
(泣いてない。……泣いてなんかない!)
その声から逃れたくて、龍冴はぎゅうとぬいぐるみを抱く腕に力を込めた。
本当なら身体を掻き抱いてしまいたいが、片方は大和に手首を摑まれているためそれはできないのだ。
幼い頃から泣き虫で、成長するにつれて泣かなくなると思っていた。
それでもふとした瞬間、ぽろりと涙が零れてしまう時があった。
思い返せば、中学を卒業する少し前から頻繁に泣くようになったと思う。
それは女子生徒にストーカー手前の事をされたからで、以前はそうでもなかったが、ある日を境にぶり返した──と龍冴は睨んでいる。
こうなる前は至って普通で、むしろ明るくてクラスの中心に居たのだ。
それがどうしてか、あの出来事が無ければ今も人と積極的に関わっていただろう。
けれど今や気を許した相手にしか感情を荒げず、あったとしても上辺の本音だけだった。
だから教えて、と大和が優しい声で続ける。
蒸し暑いというのに、腕に触れてくる手の平はやや冷たかった。
大和も緊張しているのだと思うと少しおかしくて、同時に意地悪したくなってしまう。
龍冴は意を決して唇を開き、けれど視線はすぐに伏せる。
じっと見つめているのはもちろん、優しげな瞳とぶつかれば、言葉が出なくなりそうだったから。
「ほん、とに……俺のこと好きって……証拠は、あるんですか」
まだ信じられないという思いと、嘘だという思いでぐちゃぐちゃだった。
それでも尋ねたいと思うのは、自分も同じ気持ちを返したいと思うのは、紛れもない本音なのだ。
だから、これは大和に対しての最初で最後の意地悪だ。
他の誰でもない自分だけに、大和の口から好意を言ってもらいたかった。
これは龍冴が安心したいだけだが、後になって『やっぱり勘違い』と言われるよりはずっとマシだ。
本当ならすぐにでも『俺も好き』と返したかったが、大和の言葉を待っているうちに段々と視界がぼやけていく感覚があった。
「……なんで泣くんだよ」
「え、っ」
どこか慌てた声が聞こえ、龍冴は隣りに視線を向ける。
見れば大和が痛ましげにこちらを見ており、瞳の奥は戸惑っていた。
「っ、ごめんなさい。俺……っ」
慌てて目元を拭って謝罪するも、やや涙に濡れた手ごと摑まれた。
「こっち」
言いながら大和が腰を浮かせたため、わけもわからず立ち上がらせられる。
「どこ、行くんですか……!?」
先程に比べて触れてくる力は強くない。
むしろ優しくて、まるで恋人にでもなったかのような心地にさせた。
(な、なんで俺は……! 違う、先輩は気を遣ってくれたんだ)
大和の前で涙を見せてしまったのはこれで二度目で、しかし今回ばかりは唐突なのだ。
泣く理由などどこにもなく、面倒な奴だと思われた可能性は十分にある。
ただ、未だ周囲には人が行き交っている。
必死に大和に着いていっている間も、ちらちらとこちらを見てくる気配を嫌でも感じてしまうし、それだけでなく幻聴まで聞こえてくる。
──あんなに泣いて、子供みたい。
──何かあったのかな。
一つはこちらを幼くみてくる侮蔑的な声、もう一つはこちらに対する同情的な声が交互に脳裏を埋め尽くす。
(泣いてない。……泣いてなんかない!)
その声から逃れたくて、龍冴はぎゅうとぬいぐるみを抱く腕に力を込めた。
本当なら身体を掻き抱いてしまいたいが、片方は大和に手首を摑まれているためそれはできないのだ。
幼い頃から泣き虫で、成長するにつれて泣かなくなると思っていた。
それでもふとした瞬間、ぽろりと涙が零れてしまう時があった。
思い返せば、中学を卒業する少し前から頻繁に泣くようになったと思う。
それは女子生徒にストーカー手前の事をされたからで、以前はそうでもなかったが、ある日を境にぶり返した──と龍冴は睨んでいる。
こうなる前は至って普通で、むしろ明るくてクラスの中心に居たのだ。
それがどうしてか、あの出来事が無ければ今も人と積極的に関わっていただろう。
けれど今や気を許した相手にしか感情を荒げず、あったとしても上辺の本音だけだった。
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