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六章 本当の終わりと始まり
6‐11 連れられた先
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龍冴はちらりと少し前を歩く大和を見つめる。
どこかへ向かっているのは分かったが、あと少しで繁華街に入ろうとしている手前で道を逸れたのだ。
そこはそれまでとは一風変わって住宅地らしく、三階建てを中心としたシンプルな造りの家が立ち並ぶ。
駅前は見上げるほどの高層マンションやビルが群を成しているのとは違って、当たり前だがこぢんまりとしていた。
白や黒といったモダンな色の集まる家々を横目に、やがてどれほど歩いたのか分からなくなってくる。
あくまで手首を摑む力が優しくなっただけで、こちらの歩幅ではやや小走りになって着いていくのがやっとなのだ。
次第に脚が痛くなってきた時、ふと大和が立ち止まった。
黒を基調とした三階建てのそれは、ところどころに白い塗装がされている。
見方を変えれば海外にありそうな家だ、というのが初見の感想だった。
(ここ、って)
「……ちょうどシロは友達と遊びに行ってていないんだ。両親も、今日は残業で遅くなるって」
ぽつりと呟くように放たれた言葉は、何を意味しているのかすべて言わずとも分かる。
否、嫌でも察してしまうのだ。
龍冴は逸る気持ちを抑えつけ、そろりと大和を見上げた。
「っ」
とくん、と心臓が狂おしいほど甘く音を立てると同時に、図らずも小さく息を漏らす。
大和の耳の縁がかすかに赤く染まっていて、なのに瞳だけは燃え盛る炎のように熱い色を宿していたから。
弟──茉白がいないとわざわざ言うのも、両親が夜遅くまで帰ってこないと言うのも、その言葉が何を指しているのか少し考えれば理解出来た。
誘われているのだ。
龍冴が『証拠はあるのか』と言ったから、大和なりに考えた結果がこれなのだろう。
それこそどこかひと気の無い所で、一言『好き』と言ってくれれば良かった。
そうすれば喜んで応えるのに、思いのまま抱き着けるのに、大和の頭はそこまで考えが及ばなかったらしい。
(……ちょっと可愛い、かも)
傍に立つ男の反応は、紛れもない童貞のそれだ。
まず好意を伝える事がどうしてか頭から抜け落ち、身体を繋げれば自分の気持ちを分かってくれる、とそう思い至ったのだろう。
現に未だ手首を摑む手の平が、じんわりと汗ばんでいた。
緊張からか、はたまた期待からか、己の身体が同じくらい熱くなっていくのが分かった。
(けど俺も同罪、か)
龍冴が泣いてしまった短い間でたくさん考えてくれ、けれど何が正解なのか分からないらしかった。
じわじわと赤くなっていく耳が面白く、笑いそうになっていると大和がそっと唇を開く。
「──って、ごめんな。わざわざウチまで連れてきて」
大和は申し訳なさそうに眉を下げ、軽く頬を掻く。
その頬すらもうっすらと赤く、額にはじんわりと汗の珠が浮かんでいた。
暑さか緊張かは分からないものの、大和が意を決してくれたのは十二分に理解した。
「せっかくだし中、入れよ。ずっと歩きっぱなしで疲れたろ。ま、半分は俺のせい──っ」
大和が最後まで言い終わるよりもわずかに早く、龍冴はぐいとシャツの胸元を摑んでこちらに引き寄せた。
半ばぶつかるように唇が触れ合い、その拍子にどちらのものなのか分からないが、かすかに血の味を感じた。
ゲーセンで獲ってくれたぬいぐるみは大和がぺらぺらと捲し立てている間に地面に置いたが、少し汚れてしまったかもなと頭の片隅で考える。
間近で絡み合った大和の瞳は驚愕に見開かれ、反射的に手首を離された。
温もりが離れていく寂しさはあったものの、大和は何をするでもなく、以降は直立不動のまま動かない。
龍冴は軽く目を細めると、ややあって唇を離す。
ちゅ、と小さなリップ音が立ったのはご愛嬌だろう。
「っ、あめ……みや……?」
つい今しがた触れていたそれに、大和がそろりと指を触れさせる。
信じられないというような、なのに嬉しさでいっぱいの表情は、人のことを言えないほど分かりやすかった。
どこかへ向かっているのは分かったが、あと少しで繁華街に入ろうとしている手前で道を逸れたのだ。
そこはそれまでとは一風変わって住宅地らしく、三階建てを中心としたシンプルな造りの家が立ち並ぶ。
駅前は見上げるほどの高層マンションやビルが群を成しているのとは違って、当たり前だがこぢんまりとしていた。
白や黒といったモダンな色の集まる家々を横目に、やがてどれほど歩いたのか分からなくなってくる。
あくまで手首を摑む力が優しくなっただけで、こちらの歩幅ではやや小走りになって着いていくのがやっとなのだ。
次第に脚が痛くなってきた時、ふと大和が立ち止まった。
黒を基調とした三階建てのそれは、ところどころに白い塗装がされている。
見方を変えれば海外にありそうな家だ、というのが初見の感想だった。
(ここ、って)
「……ちょうどシロは友達と遊びに行ってていないんだ。両親も、今日は残業で遅くなるって」
ぽつりと呟くように放たれた言葉は、何を意味しているのかすべて言わずとも分かる。
否、嫌でも察してしまうのだ。
龍冴は逸る気持ちを抑えつけ、そろりと大和を見上げた。
「っ」
とくん、と心臓が狂おしいほど甘く音を立てると同時に、図らずも小さく息を漏らす。
大和の耳の縁がかすかに赤く染まっていて、なのに瞳だけは燃え盛る炎のように熱い色を宿していたから。
弟──茉白がいないとわざわざ言うのも、両親が夜遅くまで帰ってこないと言うのも、その言葉が何を指しているのか少し考えれば理解出来た。
誘われているのだ。
龍冴が『証拠はあるのか』と言ったから、大和なりに考えた結果がこれなのだろう。
それこそどこかひと気の無い所で、一言『好き』と言ってくれれば良かった。
そうすれば喜んで応えるのに、思いのまま抱き着けるのに、大和の頭はそこまで考えが及ばなかったらしい。
(……ちょっと可愛い、かも)
傍に立つ男の反応は、紛れもない童貞のそれだ。
まず好意を伝える事がどうしてか頭から抜け落ち、身体を繋げれば自分の気持ちを分かってくれる、とそう思い至ったのだろう。
現に未だ手首を摑む手の平が、じんわりと汗ばんでいた。
緊張からか、はたまた期待からか、己の身体が同じくらい熱くなっていくのが分かった。
(けど俺も同罪、か)
龍冴が泣いてしまった短い間でたくさん考えてくれ、けれど何が正解なのか分からないらしかった。
じわじわと赤くなっていく耳が面白く、笑いそうになっていると大和がそっと唇を開く。
「──って、ごめんな。わざわざウチまで連れてきて」
大和は申し訳なさそうに眉を下げ、軽く頬を掻く。
その頬すらもうっすらと赤く、額にはじんわりと汗の珠が浮かんでいた。
暑さか緊張かは分からないものの、大和が意を決してくれたのは十二分に理解した。
「せっかくだし中、入れよ。ずっと歩きっぱなしで疲れたろ。ま、半分は俺のせい──っ」
大和が最後まで言い終わるよりもわずかに早く、龍冴はぐいとシャツの胸元を摑んでこちらに引き寄せた。
半ばぶつかるように唇が触れ合い、その拍子にどちらのものなのか分からないが、かすかに血の味を感じた。
ゲーセンで獲ってくれたぬいぐるみは大和がぺらぺらと捲し立てている間に地面に置いたが、少し汚れてしまったかもなと頭の片隅で考える。
間近で絡み合った大和の瞳は驚愕に見開かれ、反射的に手首を離された。
温もりが離れていく寂しさはあったものの、大和は何をするでもなく、以降は直立不動のまま動かない。
龍冴は軽く目を細めると、ややあって唇を離す。
ちゅ、と小さなリップ音が立ったのはご愛嬌だろう。
「っ、あめ……みや……?」
つい今しがた触れていたそれに、大和がそろりと指を触れさせる。
信じられないというような、なのに嬉しさでいっぱいの表情は、人のことを言えないほど分かりやすかった。
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