81 / 91
六章 本当の終わりと始まり
6‐11 連れられた先
しおりを挟む
龍冴はちらりと少し前を歩く大和を見つめる。
どこかへ向かっているのは分かったが、あと少しで繁華街に入ろうとしている手前で道を逸れたのだ。
そこはそれまでとは一風変わって住宅地らしく、三階建てを中心としたシンプルな造りの家が立ち並ぶ。
駅前は見上げるほどの高層マンションやビルが群を成しているのとは違って、当たり前だがこぢんまりとしていた。
白や黒といったモダンな色の集まる家々を横目に、やがてどれほど歩いたのか分からなくなってくる。
あくまで手首を摑む力が優しくなっただけで、こちらの歩幅ではやや小走りになって着いていくのがやっとなのだ。
次第に脚が痛くなってきた時、ふと大和が立ち止まった。
黒を基調とした三階建てのそれは、ところどころに白い塗装がされている。
見方を変えれば海外にありそうな家だ、というのが初見の感想だった。
(ここ、って)
「……ちょうどシロは友達と遊びに行ってていないんだ。両親も、今日は残業で遅くなるって」
ぽつりと呟くように放たれた言葉は、何を意味しているのかすべて言わずとも分かる。
否、嫌でも察してしまうのだ。
龍冴は逸る気持ちを抑えつけ、そろりと大和を見上げた。
「っ」
とくん、と心臓が狂おしいほど甘く音を立てると同時に、図らずも小さく息を漏らす。
大和の耳の縁がかすかに赤く染まっていて、なのに瞳だけは燃え盛る炎のように熱い色を宿していたから。
弟──茉白がいないとわざわざ言うのも、両親が夜遅くまで帰ってこないと言うのも、その言葉が何を指しているのか少し考えれば理解出来た。
誘われているのだ。
龍冴が『証拠はあるのか』と言ったから、大和なりに考えた結果がこれなのだろう。
それこそどこかひと気の無い所で、一言『好き』と言ってくれれば良かった。
そうすれば喜んで応えるのに、思いのまま抱き着けるのに、大和の頭はそこまで考えが及ばなかったらしい。
(……ちょっと可愛い、かも)
傍に立つ男の反応は、紛れもない童貞のそれだ。
まず好意を伝える事がどうしてか頭から抜け落ち、身体を繋げれば自分の気持ちを分かってくれる、とそう思い至ったのだろう。
現に未だ手首を摑む手の平が、じんわりと汗ばんでいた。
緊張からか、はたまた期待からか、己の身体が同じくらい熱くなっていくのが分かった。
(けど俺も同罪、か)
龍冴が泣いてしまった短い間でたくさん考えてくれ、けれど何が正解なのか分からないらしかった。
じわじわと赤くなっていく耳が面白く、笑いそうになっていると大和がそっと唇を開く。
「──って、ごめんな。わざわざウチまで連れてきて」
大和は申し訳なさそうに眉を下げ、軽く頬を掻く。
その頬すらもうっすらと赤く、額にはじんわりと汗の珠が浮かんでいた。
暑さか緊張かは分からないものの、大和が意を決してくれたのは十二分に理解した。
「せっかくだし中、入れよ。ずっと歩きっぱなしで疲れたろ。ま、半分は俺のせい──っ」
大和が最後まで言い終わるよりもわずかに早く、龍冴はぐいとシャツの胸元を摑んでこちらに引き寄せた。
半ばぶつかるように唇が触れ合い、その拍子にどちらのものなのか分からないが、かすかに血の味を感じた。
ゲーセンで獲ってくれたぬいぐるみは大和がぺらぺらと捲し立てている間に地面に置いたが、少し汚れてしまったかもなと頭の片隅で考える。
間近で絡み合った大和の瞳は驚愕に見開かれ、反射的に手首を離された。
温もりが離れていく寂しさはあったものの、大和は何をするでもなく、以降は直立不動のまま動かない。
龍冴は軽く目を細めると、ややあって唇を離す。
ちゅ、と小さなリップ音が立ったのはご愛嬌だろう。
「っ、あめ……みや……?」
つい今しがた触れていたそれに、大和がそろりと指を触れさせる。
信じられないというような、なのに嬉しさでいっぱいの表情は、人のことを言えないほど分かりやすかった。
どこかへ向かっているのは分かったが、あと少しで繁華街に入ろうとしている手前で道を逸れたのだ。
そこはそれまでとは一風変わって住宅地らしく、三階建てを中心としたシンプルな造りの家が立ち並ぶ。
駅前は見上げるほどの高層マンションやビルが群を成しているのとは違って、当たり前だがこぢんまりとしていた。
白や黒といったモダンな色の集まる家々を横目に、やがてどれほど歩いたのか分からなくなってくる。
あくまで手首を摑む力が優しくなっただけで、こちらの歩幅ではやや小走りになって着いていくのがやっとなのだ。
次第に脚が痛くなってきた時、ふと大和が立ち止まった。
黒を基調とした三階建てのそれは、ところどころに白い塗装がされている。
見方を変えれば海外にありそうな家だ、というのが初見の感想だった。
(ここ、って)
「……ちょうどシロは友達と遊びに行ってていないんだ。両親も、今日は残業で遅くなるって」
ぽつりと呟くように放たれた言葉は、何を意味しているのかすべて言わずとも分かる。
否、嫌でも察してしまうのだ。
龍冴は逸る気持ちを抑えつけ、そろりと大和を見上げた。
「っ」
とくん、と心臓が狂おしいほど甘く音を立てると同時に、図らずも小さく息を漏らす。
大和の耳の縁がかすかに赤く染まっていて、なのに瞳だけは燃え盛る炎のように熱い色を宿していたから。
弟──茉白がいないとわざわざ言うのも、両親が夜遅くまで帰ってこないと言うのも、その言葉が何を指しているのか少し考えれば理解出来た。
誘われているのだ。
龍冴が『証拠はあるのか』と言ったから、大和なりに考えた結果がこれなのだろう。
それこそどこかひと気の無い所で、一言『好き』と言ってくれれば良かった。
そうすれば喜んで応えるのに、思いのまま抱き着けるのに、大和の頭はそこまで考えが及ばなかったらしい。
(……ちょっと可愛い、かも)
傍に立つ男の反応は、紛れもない童貞のそれだ。
まず好意を伝える事がどうしてか頭から抜け落ち、身体を繋げれば自分の気持ちを分かってくれる、とそう思い至ったのだろう。
現に未だ手首を摑む手の平が、じんわりと汗ばんでいた。
緊張からか、はたまた期待からか、己の身体が同じくらい熱くなっていくのが分かった。
(けど俺も同罪、か)
龍冴が泣いてしまった短い間でたくさん考えてくれ、けれど何が正解なのか分からないらしかった。
じわじわと赤くなっていく耳が面白く、笑いそうになっていると大和がそっと唇を開く。
「──って、ごめんな。わざわざウチまで連れてきて」
大和は申し訳なさそうに眉を下げ、軽く頬を掻く。
その頬すらもうっすらと赤く、額にはじんわりと汗の珠が浮かんでいた。
暑さか緊張かは分からないものの、大和が意を決してくれたのは十二分に理解した。
「せっかくだし中、入れよ。ずっと歩きっぱなしで疲れたろ。ま、半分は俺のせい──っ」
大和が最後まで言い終わるよりもわずかに早く、龍冴はぐいとシャツの胸元を摑んでこちらに引き寄せた。
半ばぶつかるように唇が触れ合い、その拍子にどちらのものなのか分からないが、かすかに血の味を感じた。
ゲーセンで獲ってくれたぬいぐるみは大和がぺらぺらと捲し立てている間に地面に置いたが、少し汚れてしまったかもなと頭の片隅で考える。
間近で絡み合った大和の瞳は驚愕に見開かれ、反射的に手首を離された。
温もりが離れていく寂しさはあったものの、大和は何をするでもなく、以降は直立不動のまま動かない。
龍冴は軽く目を細めると、ややあって唇を離す。
ちゅ、と小さなリップ音が立ったのはご愛嬌だろう。
「っ、あめ……みや……?」
つい今しがた触れていたそれに、大和がそろりと指を触れさせる。
信じられないというような、なのに嬉しさでいっぱいの表情は、人のことを言えないほど分かりやすかった。
1
あなたにおすすめの小説
小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
君の紡ぐ言葉が聴きたい
月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。/小説家になろう様でも公開しております。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる