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Epilogue 穏やかな日常
7‐01 幼馴染みとの和解
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「──で? 今更なんの用だ」
親友の背後からではあるが、すぐ側で聞こえる低く冷たい声に龍冴は身体を縮こまらせた。
しかし普段の己であれば、口早に謝罪してそのまま逃げ帰っていただろう。
それもこれも、二人を挟んで雅玖が立っていてくれているからだった。
「あ、えっと……幸に会いに、きたんだ……けど」
雅玖の背中からそっと顔を覗かせ、もそもそと口の中で言うと素早く隠れる。
こうして話すのは喧嘩別れして以降初めての事なため、それ以上何を言えばいいのか分からなかった。
「そうか」
さも不機嫌そうに吐き出した幸の短い応答に、胃の中のものが出そうな心地になる。
本来なら雅玖『のみ』が家に来るはずだったが、少しも予想していなかった人物が突然姿を現したのだ。
龍冴とは家が近所ではあるが、互いに今の今まで顔を合わせても知らないふりをしてきた。
──一番は幸があからさまに嫌悪感を出しているからで、無視をしてくるからだったが、こちらとしてはまた仲良くしたいのが本音だった。
(来ない方が良かったかもしれない)
龍冴は震えそうになる脚を気合で持ち堪え、しかし視線はまっすぐに幸を見つめたままだ。
そもそも『幸に会おう』と提案してきたのは雅玖なのだ。
まだどこか気まずい雰囲気の残る二人の、複雑な仲を取り持とうとしてくれているのは分かっている。
それが今日になってしまっただけで、いつか話し合わなければいけない日が早まっただけだ。
そう思おうとしたが、段々と自信がなくなってくるのは幸の眼力のせいだろう。
やや冷淡な瞳は見る者を萎縮させ、それは一年ほどが経った今で更に鋭くなったように思う。
けれどこちらから話さなければ何も始まらないため、龍冴はそろりと唇を開いた。
「報告、したくて」
低く掠れた声は、自分でも驚くほど頼りなく聞こえた。
「……報告?」
そんな龍冴の言葉に、幸が軽く眉根を寄せる。
心底分からないと言ったふうな声音は、どこまでも威圧感があった。
それでも龍冴は顔に力を込め、ゆっくりと笑みを形作る。
「家、入れてくれたら嬉しいなぁ……なんて」
はは、と苦笑いしながら言えば、今度は盛大な溜め息を吐かれた。
「はぁ……何を言うかと思えば、そんな長くなるのか? 手短に、って言葉を知らないのかお前は」
「っ」
わざと辛辣な言葉を浴びせ、相手が折れるのを待つのがこの男のいつものパターンだ。
幸の本心ではないと分かっているものの、やはり堪える。
どれほど成長を共にしてきたのか、互いの性格や癖を知らない訳ではないが、今日ほど泣きそうになったのは他にない。
(昔はもっと仲良かったのに。変わったんだ、幸は)
それこそ一年と少し前が懐かしい。
叶うならばもう一度あの頃に戻って、一から関係をやり直したかった。
「……雅玖はいいけど、お前は駄目だ」
不意に幸が吐息を零すように言う。
「っ、なんで」
反射的に尋ね、すぐにしまったと思い直す。
ここで刺激してしまえば、もう口を聞く暇すら与えてもらえない。
幸がひとたび不機嫌になるとこちらが一方的に責められるため、下手なことを言うのは控えよう、と肝に銘じていたのに。
「なんで、って俺が言ったこと忘れたのか?」
「わ、忘れてない。……忘れる訳ないだろ、だって」
「幸も、佐野椰一と付き合ってたんだろ」
知ってるよ、と雅玖が二人の言葉を遮るように、やんわりと間に割って入る。
「何も隠さなくていいんだ。龍冴の傍に居て、もういいってくらい分かったから」
だからもうやめてくれ、と雅玖が淡く微笑む。
「で、も」
反対に幸が震える声で否定しようとして、けれど次の言葉が声になることはなかった。
自然と龍冴の肩に回された手で、幸は自分に味方がいないと悟ったのだ。
親友の背後からではあるが、すぐ側で聞こえる低く冷たい声に龍冴は身体を縮こまらせた。
しかし普段の己であれば、口早に謝罪してそのまま逃げ帰っていただろう。
それもこれも、二人を挟んで雅玖が立っていてくれているからだった。
「あ、えっと……幸に会いに、きたんだ……けど」
雅玖の背中からそっと顔を覗かせ、もそもそと口の中で言うと素早く隠れる。
こうして話すのは喧嘩別れして以降初めての事なため、それ以上何を言えばいいのか分からなかった。
「そうか」
さも不機嫌そうに吐き出した幸の短い応答に、胃の中のものが出そうな心地になる。
本来なら雅玖『のみ』が家に来るはずだったが、少しも予想していなかった人物が突然姿を現したのだ。
龍冴とは家が近所ではあるが、互いに今の今まで顔を合わせても知らないふりをしてきた。
──一番は幸があからさまに嫌悪感を出しているからで、無視をしてくるからだったが、こちらとしてはまた仲良くしたいのが本音だった。
(来ない方が良かったかもしれない)
龍冴は震えそうになる脚を気合で持ち堪え、しかし視線はまっすぐに幸を見つめたままだ。
そもそも『幸に会おう』と提案してきたのは雅玖なのだ。
まだどこか気まずい雰囲気の残る二人の、複雑な仲を取り持とうとしてくれているのは分かっている。
それが今日になってしまっただけで、いつか話し合わなければいけない日が早まっただけだ。
そう思おうとしたが、段々と自信がなくなってくるのは幸の眼力のせいだろう。
やや冷淡な瞳は見る者を萎縮させ、それは一年ほどが経った今で更に鋭くなったように思う。
けれどこちらから話さなければ何も始まらないため、龍冴はそろりと唇を開いた。
「報告、したくて」
低く掠れた声は、自分でも驚くほど頼りなく聞こえた。
「……報告?」
そんな龍冴の言葉に、幸が軽く眉根を寄せる。
心底分からないと言ったふうな声音は、どこまでも威圧感があった。
それでも龍冴は顔に力を込め、ゆっくりと笑みを形作る。
「家、入れてくれたら嬉しいなぁ……なんて」
はは、と苦笑いしながら言えば、今度は盛大な溜め息を吐かれた。
「はぁ……何を言うかと思えば、そんな長くなるのか? 手短に、って言葉を知らないのかお前は」
「っ」
わざと辛辣な言葉を浴びせ、相手が折れるのを待つのがこの男のいつものパターンだ。
幸の本心ではないと分かっているものの、やはり堪える。
どれほど成長を共にしてきたのか、互いの性格や癖を知らない訳ではないが、今日ほど泣きそうになったのは他にない。
(昔はもっと仲良かったのに。変わったんだ、幸は)
それこそ一年と少し前が懐かしい。
叶うならばもう一度あの頃に戻って、一から関係をやり直したかった。
「……雅玖はいいけど、お前は駄目だ」
不意に幸が吐息を零すように言う。
「っ、なんで」
反射的に尋ね、すぐにしまったと思い直す。
ここで刺激してしまえば、もう口を聞く暇すら与えてもらえない。
幸がひとたび不機嫌になるとこちらが一方的に責められるため、下手なことを言うのは控えよう、と肝に銘じていたのに。
「なんで、って俺が言ったこと忘れたのか?」
「わ、忘れてない。……忘れる訳ないだろ、だって」
「幸も、佐野椰一と付き合ってたんだろ」
知ってるよ、と雅玖が二人の言葉を遮るように、やんわりと間に割って入る。
「何も隠さなくていいんだ。龍冴の傍に居て、もういいってくらい分かったから」
だからもうやめてくれ、と雅玖が淡く微笑む。
「で、も」
反対に幸が震える声で否定しようとして、けれど次の言葉が声になることはなかった。
自然と龍冴の肩に回された手で、幸は自分に味方がいないと悟ったのだ。
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