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Epilogue 穏やかな日常
7‐03 元恋人の現在
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そもそも幸と話さなくなった発端は、自分に非がある訳ではないと頭では理解している。
何をされた訳でもなく、また強い言葉を放った訳でも放たれた訳でもない。
なのに、ここまで幸が怒る理由はひとえに『椰一と付き合っていた』と暴露されるのが嫌なのだろう。
何度も話し掛けようとしても、あの時の事は黒歴史だと表現してまともに会話をしてくれなかった。
たとえ雅玖がすべて分かっていたとしても、幸の中にあるプライドが許さないのだろうと見受けられた。
(分からなくもない。ない、けど)
話を聞いてもらおうとしても、今の幸は恐怖の対象になってしまっていた。
まっすぐにこちらを見つめてくる鋭い視線一つ、痺れを切らして丸テーブルを一定の感覚で叩いている人差し指でさえ、唇を開く隙を与えてくれない。
せめて雰囲気が和らいでくれれば、と思っていると幸の隣りに座っている雅玖が口を開いた。
「あー……幸もそんな怒った顔しないで、さ。リラックスして聞こうぜ? な?」
言いながら幸の両肩を摑み、軽く揺さぶった。
「……別に怒ってない」
口調こそ不機嫌さを隠そうとしていないが、ほかでもない恋人が間に入ったことで、幾分か張り詰めていた空気が落ち着いたようだ。
龍冴はその隙を見逃さす、そろりと唇を開く。
多少であれ雅玖が間に立ってくれたからか、怖さはなくなっていた。
「……幸」
幼馴染みの名を唇に乗せ、まっすぐに幸を見つめた。
唐突に名を呼ばれたことで、やや見開かれた瞳がゆっくりと瞬いた。
応答こそなかったものの、それは幸が肯定した合図だ。
「俺の話、聞いてほしいんだ」
龍冴は殊更はっきりと、しかし低い声でこれまでの経緯を話した。
まだ夏休みが終わるまで二週間以上あるが、その間で椰一に何かしらのアクションはないということ。
自分も短い間ではあるが椰一と付き合い、いかに幸が苦しくて辛い思いをしていたか、身を持って知ったこと。
なにより自分が傷付いて泣いていた時に助けてくれ、優しくしてくれた人と付き合っていること。
「──先輩は……大和は、俺が言いたくても言えなかったことを全部言ってくれた。あの顔、幸にも見せてやりたいくらいだ」
椰一が呆然と、そして懸命に怒りを押し殺していた表情は未だに覚えている。
思ってもいないような言葉を吐く唇が歪んでいくさまは、落ち着いて思い返してみると実に面白かった。
叶うならばもう一度見てみたい気もするが、もう金輪際関わりたくないのが本音だった。
「お前が雅玖と付き合って、大事にしてるように……俺も好きな人を見つけたから、報告したかった」
そこで言葉を切ると、ただ黙って聞いてくれていた幸は小さく吐息を零す。
「……要は幸せだ、って言いに来たんだな」
呆れた、とでもいうように、幸は今度こそ腹の底から溜め息を吐いた。
「あ、ごめん……やっぱくだらないよな、こんなことで」
はは、と苦笑しながら頭を掻く。
幸との間にある誤解を解くのはもちろんだが、何か一つでも安心させるような材料があればと思ったのだ。
不思議なことに、椰一と別れる時になるとほとんど全員が恋愛に消極的になり、しばらくの間は恋人ができない──という都市伝説があるらしい。
こればかりは個人の精神面が大きく関係している節があるが、次に付き合った相手とは長く続くという。
「いや、くだらなくない」
「っ」
ごく短く吐かれたそれは、先程までの圧力や怒りは感じない。
むしろ安堵しているふうで、龍冴は無意識に俯けていた顔を上げた。
何をされた訳でもなく、また強い言葉を放った訳でも放たれた訳でもない。
なのに、ここまで幸が怒る理由はひとえに『椰一と付き合っていた』と暴露されるのが嫌なのだろう。
何度も話し掛けようとしても、あの時の事は黒歴史だと表現してまともに会話をしてくれなかった。
たとえ雅玖がすべて分かっていたとしても、幸の中にあるプライドが許さないのだろうと見受けられた。
(分からなくもない。ない、けど)
話を聞いてもらおうとしても、今の幸は恐怖の対象になってしまっていた。
まっすぐにこちらを見つめてくる鋭い視線一つ、痺れを切らして丸テーブルを一定の感覚で叩いている人差し指でさえ、唇を開く隙を与えてくれない。
せめて雰囲気が和らいでくれれば、と思っていると幸の隣りに座っている雅玖が口を開いた。
「あー……幸もそんな怒った顔しないで、さ。リラックスして聞こうぜ? な?」
言いながら幸の両肩を摑み、軽く揺さぶった。
「……別に怒ってない」
口調こそ不機嫌さを隠そうとしていないが、ほかでもない恋人が間に入ったことで、幾分か張り詰めていた空気が落ち着いたようだ。
龍冴はその隙を見逃さす、そろりと唇を開く。
多少であれ雅玖が間に立ってくれたからか、怖さはなくなっていた。
「……幸」
幼馴染みの名を唇に乗せ、まっすぐに幸を見つめた。
唐突に名を呼ばれたことで、やや見開かれた瞳がゆっくりと瞬いた。
応答こそなかったものの、それは幸が肯定した合図だ。
「俺の話、聞いてほしいんだ」
龍冴は殊更はっきりと、しかし低い声でこれまでの経緯を話した。
まだ夏休みが終わるまで二週間以上あるが、その間で椰一に何かしらのアクションはないということ。
自分も短い間ではあるが椰一と付き合い、いかに幸が苦しくて辛い思いをしていたか、身を持って知ったこと。
なにより自分が傷付いて泣いていた時に助けてくれ、優しくしてくれた人と付き合っていること。
「──先輩は……大和は、俺が言いたくても言えなかったことを全部言ってくれた。あの顔、幸にも見せてやりたいくらいだ」
椰一が呆然と、そして懸命に怒りを押し殺していた表情は未だに覚えている。
思ってもいないような言葉を吐く唇が歪んでいくさまは、落ち着いて思い返してみると実に面白かった。
叶うならばもう一度見てみたい気もするが、もう金輪際関わりたくないのが本音だった。
「お前が雅玖と付き合って、大事にしてるように……俺も好きな人を見つけたから、報告したかった」
そこで言葉を切ると、ただ黙って聞いてくれていた幸は小さく吐息を零す。
「……要は幸せだ、って言いに来たんだな」
呆れた、とでもいうように、幸は今度こそ腹の底から溜め息を吐いた。
「あ、ごめん……やっぱくだらないよな、こんなことで」
はは、と苦笑しながら頭を掻く。
幸との間にある誤解を解くのはもちろんだが、何か一つでも安心させるような材料があればと思ったのだ。
不思議なことに、椰一と別れる時になるとほとんど全員が恋愛に消極的になり、しばらくの間は恋人ができない──という都市伝説があるらしい。
こればかりは個人の精神面が大きく関係している節があるが、次に付き合った相手とは長く続くという。
「いや、くだらなくない」
「っ」
ごく短く吐かれたそれは、先程までの圧力や怒りは感じない。
むしろ安堵しているふうで、龍冴は無意識に俯けていた顔を上げた。
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