【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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Epilogue 穏やかな日常

7‐04 二人の優しさ

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「……確かにアイツと付き合ってる時は、たくさん泣いたし何度も傷付いた。でも傍に居て欲しい時は、必ずってくらい一緒に過ごしてくれた」

 ぽつぽつと話し始める幸の表情は、今まで見たことがないほど穏やかだ。

 それが少し空恐ろしく感じる反面、自分がそういう事をされたのは最初だけだと思い直す。

(本当に相手のことが好きだったなら、俺は今も)

 もしかして、という想像をしそうになって即座に考えを打ち消した。

 すべては龍冴が首を突っ込んでから始まった事で、結果的に椰一は自分が思っていたよりも最低で、同情する余地も無い男だったのだ。

「今までお前を避けてたのも、あの時八つ当たりして気まずかったからなんだ。あと、アイツと付き合ってるって雅玖から聞いて……」

 そこまで言ってから幸は言葉を切り、苦しげに眉根を寄せて続けた。

「笑ってる龍冴を見たくなかったってのもある」

 自分を見てる気がして、と幸が言う。

 表情こそ目を細めて口角を上げているものの、笑顔がどこか物悲しげに見えるのは気のせいではないだろう。

 雅玖が幸にすべてを話していたのは考えなかった訳ではないが、龍冴に自身を重ね合わせていたのは分からなくもない。

 きっと自分も逆の立場であれば、同じ態度を取る──そうした確信があった。

「……でも、嫌なことばかりじゃなかった。むしろ、こうして雅玖と付き合えて感謝してるくらいだ」

 幸は隣りに居る雅玖の肩を抱き寄せ、頬に軽く口付ける。

「っおい、龍冴の前だろ!」

 唐突な事に雅玖はほんのりと頬を染め、けれど慣れているのかそれ以上の反応はない。

「仲良くしてるって教えてやらないとだろ。もう大丈夫だ、って」

 ふふ、と幸は今度こそ楽しそうに笑うと、龍冴に視線を向けた。

「……だからそんな、悲しそうな顔するな。ずっと避けてた俺が悪くて、お前は悪くないんだから」

「え、っ……?」

 指摘されるほど顔に出ていたのかと思い、そっと両手で頬に触れる。

 しかしそれだけでは到底分からず、戸惑っているとやがて幸がこちらに座ってきた。

「ほんっと、昔っから変わらないな。泣き虫で、何考えてるか分かりやすくて……一人で抱え込むとこ」

 幸の穏やかな声がすぐ側で届くと思えば、ふっと目の前が暗くなった。

 抱き締められているのはすぐに理解したが、どこか視界がぼんやりとしていた。

「あ、れ……」

(なんで、俺……泣いて、るんだ)

 そこでやっと己が泣いていて、先程は泣かないよう懸命に耐えていたからだと気付く。

「ごめんな、今まで冷たい態度取って。龍冴が辛い思いしてるのに、何もできなくて」

 ほろほろと涙を零しているうちに、幸の優しい声が後を追ってくる。

 頭に乗せられた手はそっと髪を撫で、もう片方の手は安心させるように撫で擦ってくれた。

 その声音や仕草は幼い頃から一つも変わっておらず、むしろ包容力が増しているように思う。

 何か悲しい事があって泣いていると、幸はこうして抱き締めて何度も『大丈夫』と言ってくれたのだ。

 その思い出が段々とよみがえってきて、けれど龍冴は掠れた声で呟く。

「……二人とも、そういうとこ……そっくりだ」

 幸と雅玖は性格こそ違えど、こちらを諭す優しい口調や行動は瓜二つだった。

 慰め方くらい多少違ってもいいのに、おかしくなるほど同じなのだ。

「っ……く、ぅ……」

 龍冴は続けて唇を開こうとしたが堪えきれず、そのまましゃくり上げる。

「よしよし、思いっきり泣け。俺らしか見てないから」

 いち早く気付いた雅玖の手が背中に添えられ、幸の手に重なる。

 その温かさに誘われて、龍冴はさめざめと涙を流した。
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