【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華

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Epilogue 穏やかな日常

7‐06 意地悪な人

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「こ、これ……いつ撮ったんだ!?」

 それは龍冴が腕を枕にして、すこやかに眠っている画像だった。

「可愛いだろ。他にもあるぞ~」

 大和のしなやかな指先が、すいすいと携帯を滑る。

 カフェでケーキやパフェを食べてる写真に始まり、笑っているものや不意打ちを喰らって驚いているものまである。

 話し始めてすぐの頃はあまり気に留めなかったが、付き合ってみると大和の一挙手一投足に始まり、携帯で何を見ているのかまで気になっていた。

 あまり積極的になっては嫌われると思っていたが、この分では多少ならば大丈夫なのかもしれない、と思う。

(……って俺が言うのもなんだけど、限度があるだろ)

 言いたいことが顔に出ていたのは否定しないが、ここまで大量の写真を撮っているとは思わなかった。

 連写されたらしき画像もあるため、近いうちに携帯の容量を圧迫しやしないかと心配になる。

 ただ、傍目から見れば動物や幼い子供の画像を愛でる男子二人、という構図に見えるのは否めない。

 しかし今ほどそうであって欲しい、と思わなかった時はなかった。

「消して、いただく……のは、可能でしょうか」

 弱々しく言ったはいいものの、どれもいつ撮ったのかなんとなくで分かるからか、羞恥ともつかない怒りがふつふつと込み上げてくる。

「いいよ、コピー取ってるし。ま、それも消せってお願いは聞けないなぁ。──ってか、会ったらほぼ最後は俺の部屋来てもらってるよな」

 一昨日も可愛かったなぁ、と大和の甘さを含んだ声が後を追う。

 その声音は紛れもなく情事を匂わせるもので、なにより今は公衆の面前だということを分かっているのだろうか。

「ひ、昼から何言って……! アンタ、あの時から変わり過ぎだろ!?」

 空耳であって欲しいと思っても、もう遅かった。

 軽い厚底シューズを履いているためか、普段よりも少し上にある大和はにこにこと上機嫌で、ともすれば捕食する肉食動物のそれだ。

「そうかぁ? けど乗り気だったろ、慣れてないのに頑張ってああいう……うっぷ」

「もう喋るな!」

 つい二日前に何をしたのか鮮明に覚えているからか、龍冴は素早く大和の口元を手の平で塞ぐ。

 ご丁寧にこちらに顔を寄せてくれていたため、すぐに口を塞げたがそうでなければ最後まで言っていただろう。

「ほんと、なんなんだ……俺ばっかこんな思いして」

 羞恥とも呆れとも、また怒りともつかない感情をどう収拾させたものか、龍冴はぶつぶつと小声で呟く。

 そんな龍冴の気持ちに反して、ふっと視界がわずかに暗くなった。

「……名前、呼んでくれないの?」

 いつの間にか大和が顔を近付けてきていて、柔らかく目を細めていたのだ。
 
 今日待ち合わせした場所はそれほど人通りは多くないが、それでも多少は見られている可能性があった。

 もちろん、ここまで心配する必要はないのかもしれないが、念のためだ。
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