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Epilogue 穏やかな日常
7‐08 仕返しをした後
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「お、っまえ……ほんと、なんで……そんな」
はぁ、と心の底から深く長く溜め息を吐かれ、加えて手の平で顔を隠してしまう意味が分からない。
「え」
大和と同じく、ほんの少しやり返しただけだ。
なのに龍冴とはまた違った、何かを懸命に堪えているような反応に戸惑ってしまう。
なぜなのか分からず頭にいくつもの疑問符を浮かべていると、今度はこちらが手を摑まれる番だった。
指先を深く絡められ、恋人繋ぎをされる。
ぱちくりと目を瞬かせているうちに、大和はそこから一切口を開くことなくどこかへ向けて歩き出した。
「ちょ、これ前もあった気がするんですけど……!?」
つい敬語に戻ってしまうのは、それほど驚いたからだ。
今日はせっかく外でデートするため、それこそ時間をかけて服を選んできた。
幸の家へ向かう道中で、雅玖に『この服似合ってるか』と聞くためだったというのもあるが。
大和の反応は、批難したくなるのも無理はないと思うのだ。
けれど大和はずんずんと脚を動かし、やがてひと気のない通りの建物の路地裏へと身体を滑らせる。
流れるままに龍冴もそこへ入り、次第に大きくなっていく心臓の音が聞こえやしないか気が気でならなかった。
「──さっきの、他の奴にもやった?」
とん、と建物の壁に大和が片手をつく。
間近で聞こえる声は低く、怒っているようにも捉えられた。
龍冴はゆっくりと瞬き、ふるりと小さく首を振る。
わざわざこんな場所へ連れてきて、どうしてそんなことを聞くのか分からない。
ただ、大和のまとう雰囲気が変わったのだけははっきりと理解した。
「……俺に、だけ?」
確認するような言葉に、無意識に下げていた顔を上げる。
「っ、あ……」
それと同時に大和の顔が間近に迫っており、唇にかすかな吐息を感じる。
すぐにキスをされたのだと近付いたが、まつ毛すらも触れ合いそうな距離でやっと気付く。
(嫉妬、してくれた……?)
瞳の奥が情欲で燃えているのはもちろん、わずかに歪んだ感情が見え隠れしている気がした。
(嬉し、い)
己に向けられた感情や言葉がどんなものであれ、こちらを見てくれているのが嬉しくて、龍冴はそろりと大和の首筋に触れる。
「っ」
意図していなかった龍冴の行動に大和は小さく声を漏らしたが、そのまま好きなようにさせてくれる。
自分に主導権があるといえばそうではないが、薄暗い空間でいつ誰に気付かれるか分からない。
ただ、今日は普通のデートはできそうにないと思った。
「……お前のせいだからな」
わずかに唇を離して紡がれた大和の言葉に、龍冴はくすりと小さく笑う。
どちらにしても、あの行動は大和から誘ったも同然なのだ。
そう言ってしまえたらよかったが、龍冴とてれっきとした男子高校生の一人だった。
「いいよ」
緩く首を傾げ、それだけを唇に乗せる。
大和はきゅうと眉根を寄せたかと思えば、短く息を吐いた。
「……後から嫌って言っても」
「駄目なんだろ」
知ってる、と大和の言葉を引き継ぐ形で龍冴は更に笑みを深める。
自身の考えていることが筒抜けなように、大和の考えるすべてを分かっている。
これからどれほど愛されてしまうのか、正直なところあまり考えたくはないが、恋人から与えられるものならば喜んで受け入れたかった。
大和はひくりと眉を跳ねさせ、唇を開こうとする。
しかしそのまま肩を組まれ、路地裏の先へと促された。
この先に何があるのか龍冴とて知らない訳ではなかったが、正直な行動に笑みが零れそうになる。
(どっちが分かりやすいんだか)
そう心の中で突っ込むのと同じくして路地を抜け、太陽のもとに照らされる。
まだ日が沈む気配はなく、青い空がどこまでも広がっていた。
はぁ、と心の底から深く長く溜め息を吐かれ、加えて手の平で顔を隠してしまう意味が分からない。
「え」
大和と同じく、ほんの少しやり返しただけだ。
なのに龍冴とはまた違った、何かを懸命に堪えているような反応に戸惑ってしまう。
なぜなのか分からず頭にいくつもの疑問符を浮かべていると、今度はこちらが手を摑まれる番だった。
指先を深く絡められ、恋人繋ぎをされる。
ぱちくりと目を瞬かせているうちに、大和はそこから一切口を開くことなくどこかへ向けて歩き出した。
「ちょ、これ前もあった気がするんですけど……!?」
つい敬語に戻ってしまうのは、それほど驚いたからだ。
今日はせっかく外でデートするため、それこそ時間をかけて服を選んできた。
幸の家へ向かう道中で、雅玖に『この服似合ってるか』と聞くためだったというのもあるが。
大和の反応は、批難したくなるのも無理はないと思うのだ。
けれど大和はずんずんと脚を動かし、やがてひと気のない通りの建物の路地裏へと身体を滑らせる。
流れるままに龍冴もそこへ入り、次第に大きくなっていく心臓の音が聞こえやしないか気が気でならなかった。
「──さっきの、他の奴にもやった?」
とん、と建物の壁に大和が片手をつく。
間近で聞こえる声は低く、怒っているようにも捉えられた。
龍冴はゆっくりと瞬き、ふるりと小さく首を振る。
わざわざこんな場所へ連れてきて、どうしてそんなことを聞くのか分からない。
ただ、大和のまとう雰囲気が変わったのだけははっきりと理解した。
「……俺に、だけ?」
確認するような言葉に、無意識に下げていた顔を上げる。
「っ、あ……」
それと同時に大和の顔が間近に迫っており、唇にかすかな吐息を感じる。
すぐにキスをされたのだと近付いたが、まつ毛すらも触れ合いそうな距離でやっと気付く。
(嫉妬、してくれた……?)
瞳の奥が情欲で燃えているのはもちろん、わずかに歪んだ感情が見え隠れしている気がした。
(嬉し、い)
己に向けられた感情や言葉がどんなものであれ、こちらを見てくれているのが嬉しくて、龍冴はそろりと大和の首筋に触れる。
「っ」
意図していなかった龍冴の行動に大和は小さく声を漏らしたが、そのまま好きなようにさせてくれる。
自分に主導権があるといえばそうではないが、薄暗い空間でいつ誰に気付かれるか分からない。
ただ、今日は普通のデートはできそうにないと思った。
「……お前のせいだからな」
わずかに唇を離して紡がれた大和の言葉に、龍冴はくすりと小さく笑う。
どちらにしても、あの行動は大和から誘ったも同然なのだ。
そう言ってしまえたらよかったが、龍冴とてれっきとした男子高校生の一人だった。
「いいよ」
緩く首を傾げ、それだけを唇に乗せる。
大和はきゅうと眉根を寄せたかと思えば、短く息を吐いた。
「……後から嫌って言っても」
「駄目なんだろ」
知ってる、と大和の言葉を引き継ぐ形で龍冴は更に笑みを深める。
自身の考えていることが筒抜けなように、大和の考えるすべてを分かっている。
これからどれほど愛されてしまうのか、正直なところあまり考えたくはないが、恋人から与えられるものならば喜んで受け入れたかった。
大和はひくりと眉を跳ねさせ、唇を開こうとする。
しかしそのまま肩を組まれ、路地裏の先へと促された。
この先に何があるのか龍冴とて知らない訳ではなかったが、正直な行動に笑みが零れそうになる。
(どっちが分かりやすいんだか)
そう心の中で突っ込むのと同じくして路地を抜け、太陽のもとに照らされる。
まだ日が沈む気配はなく、青い空がどこまでも広がっていた。
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