黒豹陛下の溺愛生活

月城雪華

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三章

苦悩と慟哭 5 ★

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「……そういう顔、他の奴にするなよ」

 緩く口角を上げたまま言われ、耳ごと頭を撫でられる。

 どんな顔をしてレオを見つめているのか、なぜそんなに悲しそうに微笑むのか、考えようにも頭は満足に動かない。

(こわ、い)

 己を組み敷く男は同じ肉食系獣人で、この国の王だ。

 それだけでなくアレンを城のとある部屋に軟禁し、外の情報すら一切教えてくれない。

 おまけにマナを始めとした使用人にも『アレンを逃がすな』と堅く言い含めているのか、逃げ道を絶たれているも同然だった。

「──アレン」

 言いながらゆっくりと顔を近付けてきて、アレンは反射的に目を閉じた。

っ……!」

 また口付けられるのかと思ったが、首筋に感じた鋭い痛みに顔をしかめる。

「ごめんな」

 痛かったか、と呟かれたそれは己に向けてのものだと理解しているが、唐突なことがいくつも起こって混乱する。

 優しくしたかと思えば酷くされ、酷くされたかと思えば優しい言葉を掛けられる。

 何を思ってレオがこんな事をするのか、このまま意識を手放した方が楽だとさえ思った。

「……けどお前が嫌だって言っても、俺を思い切り殴っても泣いても、もう止めてやれねぇんだ。──悪いな」

 レオはそこで言葉を切ると、ぐいとアレンの纏う下衣を脱がす。

 ふるりとまろび出た雄茎は緩く勃ち上がり、透明な雫を零しているのが見て取れた。

「や、やだ……なに、を」

 突然の事に、頬だけでなく全身がかっと熱を持つのが分かる。

 その拍子に雄茎からぴゅく、と透明な蜜が溢れるのが目に入った。

 そのさまがあまりにも卑猥で、無意識に喉が鳴る。

 自分の身体なのに自分のものではないような、そんな感覚が脳裏を支配していった。

「……そのままじゃあ、お前も辛いだろう」

 そう言ったレオは何を思ったか、大きな手が蜜でまみれたそこに触れてくる。

「まっ、て……ゃ、だ……」

 ふるふると力なく首を振って抗議しても、そんなものは意味を成さないと知っている。

 アレンの静止は虚しく、きゅうと柔らかな力で雄を握られた。

 そのまま緩やかな動きで上下に扱かれ、アレンは堪らず口元を腕で隠す。

「ん、う……ふ、っ」

 ぐちぐちぬちぬちとひっきりなしに響くそれは、本当に自分のものから奏でられる音だとは信じたくなかった。

 せめて声を出さないよう、腕の下できつく唇を噛み締める。

「──こら」

 しかしすぐに気付かれてしまい、空いている方の手が伸ばされる。

 決して強くない力で腕を摑まれ、反射的に閉じていた瞼を開いた。

 こちらをじっと見つめるレオと視線が交わり、黒曜石の瞳には情欲の炎が見え隠れしている。

(あっ……)

 ずくん、と腹の奥が収縮するのを感じ、しかしそれがなぜなのか分からない。

 そもそもアレンは生まれてこの方、色恋の『い』の字も経験してこなかったのだ。

 男にこうされる事も、まして女に誘惑される事も無く、口付けすらレオが初めてだった。

「や……つめ、た……っ」

 すると、ひやりとした何かを下半身に感じ、反射的に逃げようと腰を浮かせる。

 しかし、むしろ無駄だったのだとレオの笑いを含んだ声で察した。

「ふぁ……!?」

 それは堅くすぼまった後孔を中心にゆっくりと塗り込められ、冷感を感じると共にじわじわと身体が熱くなる。

(なに、これ……)

 先程よりもずっと身体が火照り、それだけでなく喉が焼けるように熱い。

 そこは男とする時に使う場所だ──セオドアの店に来ていた年嵩の獣人が、笑い混じりに言っていたのを思い出す。

 それはアレンがずっと考えないようにしていたことで、知らない振りをしようとしたことでもあった。

 レオはこのままアレンを抱く──こちらを見つめる黒い瞳がそう言っている。

 為すすべなどとうに無いのだと思い知らされ、次第に視界がぐにゃりと歪む。

「ひ、ぅ……っ」

 自分のものを他人にもてあそばれている屈辱と、何かがせり上がってくる感覚が恐怖でならなかった。

 しかしレオはこちらの考えなどお構いなしに、蜜にまみれた雄茎を愛撫する。

 止めて欲しいのに、口から出るのは短く甘い喘ぎだけだ。

 加えて、時折ぐりぐりと小さな孔を親指の腹で刺激され、ぞわりと肌が粟立った。

「ゃ、それ……待っ……!」

 まるで排泄をする時のような、じんわりとした快感が増していく。

 このままではレオの手の中にすべて出してしまい、高価であろう衣服まで汚れてしまうだろう。

 それだけは嫌で、しかし理性に反して身体は快楽を追うかのごとく高まっていく。

「いいから。このまま出しちまいな」

 低く艶を帯びた声で言うと、レオは手の動きを速める。

「あっ……あ、っぁ……!」

 ぐぷぐぷと断続的に奏でられる淫音は、次第に甘い嬌声を上げる己の声に掻き消されていく。

 留まるところを知らない泉のように、後から後から蜜が溢れて止まらない。

 レオはそれを赤く勃ち上がった竿に塗り広げ、緩慢な動きをしたかと思えば、やや強めてを繰り返しながら上下に扱く。

 次第にやってくる排泄欲にも似た何かが怖くて、アレンは無意味にレオの腕に手を伸ばした。

「や、ぁっ──!」

 それと同時に雄茎から白濁が溢れ、アレンは声にならない嬌声を上げた。

 ぎゅう、とレオの腕ごと上衣の袖をきつく握り締める。

 ぴんと足先が伸び、尻尾がぶわりと逆立った。

 ぱちぱちと目の前を星が瞬き、アレンは息も絶え絶えになりながら身体の力を抜く。

 柔らかなベッドに四肢を投げ出せば、緩やかな睡魔が遅れてやってきた。

(終わっ、た……?)

 実際には終わっていないことなど分かっている。

 しかし唐突な事が一度に起こり過ぎて、身体と心が追い付いていなかった。

「ひ、っ……!?」

 すると下半身──尻尾の付け根よりもわずかに下の、秘められた場所に何か細いものが挿入されている異物感があった。

 アレンは反射的に閉じかけていた瞼を開き、つい今しがた自身のものを弄んでいた男と視線が交わる。

「……痛いか」

 そう問い掛ける黒い瞳は心配そうで、なぜこんな事をするのかという言葉は声にならなかった。

「あ、っ……こ、れ」

 逃がしたはずの熱がまた再燃して、アレンは幼い子どものように首を振った。

 また精を放つのは、快楽に支配されるのは嫌だ。

 そう、理性が先程よりも激しく警鐘を鳴らしている。

 しかしレオは安心させるように微笑み、言葉を重ねてくる。

「大丈夫だ。お前は何もしないで、全部俺に任せてくれりゃいい」

 どこか投げやりな口調とは裏腹に、こちらを見つめる瞳はどこまでも優しく穏やかだ。

 なのに下半身の異物感が拭えず、柔らかな笑みを浮かべているレオが怖い。

 何をされるのか、そういう行為に疎いアレンでも察してしまったからか、恐怖が増長しているのだ。

「──俺のことだけ考えてろ」

「っ、う……!」

 尻のあわいに感じる異物感が強くなり、中に入っているもの──レオが長い指先を奥へ進めたのが嫌でも分かった。

 先程冷たい何かを塗り広げられていたが、普段は排泄をするための場所でしかない。

 突然の異物感に身体が悲鳴を上げ、加えて無理矢理犯されているような錯覚を覚え、生理的な涙が頬を伝う。

(なんで、俺が……こんな)

 心と身体が相反して、感情がぐちゃぐちゃだ。

 それでもレオはこちらの心情を分かっているのかいないのか、更に奥へと指を押し進める。

 短く息を吸って吐いてを繰り返しても圧迫感が次第に高まっていくだけで、無理に拡げられる痛みに死んだ方が楽になれる気さえした。

(でも……もう)

 どんなに頭の中で逃げようと思っていても、とうに指先一本すら動かせないでいた。

 無意識に摑んだレオの上衣も、辛うじて縋っているに過ぎない。

 たとえ『もう止めてくれ』と言ったとしても、レオが快く応じてくれないのも理解してしまっている。

 それに、自分が死んだとしてアンナを殺した獣人に直接痛い目を遭わせられないのは嫌だった。

(……違う人、みたいだ)

 視界がぼやける中、うっすらと瞳を開けてレオを見つめる。

 アレンが迫り来る快楽に身をゆだねている間、こちらを見下ろす両の瞳がぎらぎらと輝いていたのだ。

 あれは草食系獣人を捕食する時の肉食系獣人のそれに他ならず、今この時も恐怖ばかりが募っていく。

 レオは同じ肉食系獣人で、しかしこの国を統べる王だ。

 従わざるを得ない圧が目の前の男にはあるのか、先程与えられた快楽も相俟って正常にものを考えられないでいる。

「っあ……!?」

 すると尻に感じる圧迫感が強まり、二本目を挿入されたのだと嫌でも分かってしまった。

 それは少しずつ、内側から拡げるように時間を掛けて入っていく。

「や、やだ……レオ、レオっ」

 内側に感じる圧迫感が更に強くなり、それまでよりもずっと酷い痛みと怖気とが一緒くたにやってきて、息ができない。

 しかし先程精を放った雄茎は、こんな時だというのに緩やかに芯を持っていた。

「抜い、て。これ、抜いてぇ……!」

 意思に反して収縮する自分の身体が、こちらを獣のごとく見下ろす目の前の男が、怖くて堪らない。

 なのにアレンを組み敷いてくる獣人は、ふっと目をすがめただけで何も言わなかった。

 むしろ強引に二本の指を押し進めてきて、びくりとアレンの身体が跳ねる。

「や、ぁっ……!?」

 脳の奥深くに鋭い電流が走り、無意識にシーツを蹴り上げた。

 無理にこじ開けられたため痛みはあるが、それよりも強い快楽が後からやってきて、雄茎からまた新たな蜜が溢れる。

「──見つけた」

 どこか上擦った声が聞こえると共に、レオの指はアレンの声が高くなった場所を執拗に押す。

 ぐりぐりと一定の動きで柔らかな場所を押し上げられ、未だにだらだらと蜜を零す雄を緩やかに扱かれた。

 止めて欲しいのに、口を開けば鼻にかかった甘えた声が出るばかりで、とうに言葉の意味を成していない。

「だめ……それ、ゃ、あぁ……!」

 この悦楽が何なのか怖くて、しかしその『何か』に身を任せてしまっている自分がいた。

 アレンは無意識にレオの腕にしがみつき、やがて二度目の吐精をした。
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