10 / 19
結婚したのか……俺以外の奴と
④
しおりを挟む翌々日。
僕とアレックスが王城に呼び出されている日の朝。
「アレックス~…おきなぁ?」
「やだ……」
「やだじゃないよ。起きなさい」
カーテンを開けて、眩しい朝日を浴びながら、同じベッドで眠るアレックスを揺する。
「まだねむい……」
「お仕事の時どうしてたの」
「…………気合い」
「起きれるんじゃないか!ほら、甘えてないで起きて」
アレックスの身体をより朝日が当たる箇所に移動してやろうと画策していると、その瞼がようやく開いて碧眼が顔を出す。
まだ眠たげなその眼はなんだか少し大人っぽくて動揺してしまったが、朝に起きれないよぉとぐずっているのはこどもである。
「……もう少し一緒にいよ……だめ?」
気怠げな筈なのに何処か甘い声でそう言ったアレックスは僕の腰に腕を回す。
その筋肉質な腕がすがるように、拒否権を残したような力で回されるとその健気さにときめきが天元突破した。
「ーーーぅうう」
バクバクというのか、ギュンギュンと表現するのか痛む胸を抑えて、内なる愛しさを抱えながらベッドに横たわると、その身体を抱きしめた。
「し、仕方ないなぁ!少し、少しだけ」
「うんうん。少しだけね」
分かっているのかいないのか少々投げやり気味にアレックスはそう言って僕の頭を抱え込んだ。
筋肉量が多いせいか熱い身体に包まれるとそのあまりの心地良さに身体から力が抜けていく。
母親に抱かれて眠る赤子の気分とはこういうものか。
確かにこれは大人の僕でも抗いがたい魅惑の心地良さだ。
などと考えていたと思ったら……
「坊っちゃま」
「ん……」
「坊っちゃま、そろそろ支度を始めませんと間に合いませんわ」
聞きなれた姉のように感じている声に反射的に返事をするが、ぬくぬくと気持ちが良い重量感のある布団が僕を手放しそうにない。
「ふぁい……」
「支度が間に合わなければどうしましょうと、メイドが泣いております」
「ぁい……すまない…今起きる…」
そこまで言って覚醒した意識は現実を思い出させて血の気が引いた。
次期国王である王太子をお待たせするなどあってはならない。
アレックスのあまりの可愛さに少しだけだからと許してしまったのが間違いだった。
いや。アレックスのせいにするのは違う。
僕がうっかり眠りこけてしまったのが悪いのだ。
断じてアレックスのせいでは無い。
要因と結果を一緒にしてはいけない。
「アレックスは!?」
反射的に飛び上がろうとしたけれど重たい掛け布団が退かなかったので顔を上げた時満足げなアレックスが視界に入ってきた。
「おはようにぃに。今日のにぃには仔兎のような寝顔だったよ」
「起きてるの!?アレックス!にぃにの寝顔みてないで起こしなさい。少しだけって言ったよね!」
「少しだよ?まだ一時間くらいしか経ってない」
あまりのアレックスのルーズさに寒気がした。
この時間感覚は正さねば、一時間待たされても全然待ってないよとか言ってしまう都合の良い子になってしまう。
「一時間は一時間も、なの。待ち合わせでもそんなに遅れてくる人には怒らないとダメだよ。全く……いい子過ぎるのも考えものだ」
「このままボイコットしようと思っていたのに……」
「早く準備しないと!」
何とかアレックスの腕をひっぺがすと不満げながらも起き上がり僕の額にキスしてきた。
そんな可愛いことしても許さないんだからな。
と思っていたのに僕はアレックスの頬っぺたに返礼キスをしていた。
己の自制心の無さに頭を抱える。
「アレックス様、ウィルバート様はお召し換えなされます。どうぞご退出ください」
「法的関係にある、最愛の新婚夫の着替えを見て誰が咎めようか」
粛々と大層貫禄のある口調と声音でそう反論するアレックスの背中に両手を置くと嬉しそうに満面の笑みを浮かべた彼と目が合った。
大変愛い。
「僕が咎めるよ。最愛の旦那様。ほら、アレックスも着替えてきなさい」
「…………分かったよ、ウィル……」
悲しそうな声音で最後まで名残惜しそうに髪にキスをした彼の視線をドアで物理的に阻み、それに背を預けた瞬間ふと口をついてでる言葉。
「………また…ウィル…と呼ばれたな」
「あら、お気に召しませんか?ウィルバート様とアレックス様はご夫婦なのですから。愛称で呼びあっていらっしゃっても何もおかしくありません」
「……胸痛い!メリー!なにこれ!!!病気かもしれない!」
「まぁまぁ………坊っちゃま、まずナイトウェアを脱ぎませんと。お胸にあるお手てはパーにして楽にしていてくださいね」
「メリー!僕の話聞いてる!?心臓痛いんだよ!絶対病気だ!」
「大変お上手ですわ。自分が大変な時でも下の者の声に耳を傾ける、誰にでもできることではございません」
メリーは時々全然僕と会話をしてくれないことがある。
今はこんなに命の危険に晒されているというのに呑気なメリーにも困ったものだ。
「メリー……僕の話聞いてよ……」
くすくすと抑えきれない笑いを零しているメイドたちの声にムスッとしながらもシャキッと背筋を伸ばし世話のしやすいように姿勢を整える。
「では坊っちゃま、その胸の痛みはウィルバート様に報告された方が良いですわ」
「やっぱり!病気かもしれないもんね……」
「ええ、ええ……アレックス様もそのお言葉にお喜びになられますわ」
病気を喜ぶ?と疑問には思ったものの過去に風邪であることを言わずにいた際には『俺にはどんなに小さいこともちゃんと報告して』と怒られたことを思い出す。
つまりメリーもそれを覚えていたのだろう。
出来る侍女である。
「そうだよね、アレックスは僕のことなんでも知りたがるからな……相談した方が喜ぶよね」
「ああでも、そうですわ……今すぐではなく、殿下とお話された後の方がよろしいかも知れません。きっとお話どころではないでしょうから」
「そうだね。心配でそれどころじゃなくなってしまうかもしれない。アレックスは僕のこと大好きだからね」
「それはもう」
それはもう。声の力に他人から見てもアレックスは僕のことを大好きなんだと実感して愛しさが込み上げてきた。
用意が出来たら抱きしめよう。
そして僕が準備の終わったアレックスの晴れ着姿に愛しさを大爆発させて条件反射的に駆け寄って抱きしめたのは言うまでもない。
363
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる