いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛

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結婚したのか……俺以外の奴と

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王家から用意された乗り心地の良い馬車に酔いしれながら揺られること三十分。
あっとゆう間に王城へ着いた。
皇帝陛下の弟である父は城は距離はあるもののお隣さんと言うやつで、貴族感覚で言えば極めて近くに屋敷と王都に領地を与えられている為移動はあっという間である。
どうやら現王は弟である父を溺愛しているらしく……と人ごとのように言ってしまったが溺愛していることは身に染みて知っている。
というのも月に一度は必ず父の様子を知りたがり呼び出しているからだ。
全く揃いも揃ってうちの家系はブラコンだったり親バカだったりと過剰な愛情表現しか知らない人ばかりだ。
幸運なことに入婿である生みの親の父上のことも溺愛していて、お父様がいつもヤキモチを焼いている。
例えるのなら皇帝陛下からお父様は体育会系先輩からの溺愛、父上の場合は愛猫を可愛がる時のような溺愛をしている。父上はいつも【マイキティ】と呼ばれ、言わずもがな僕も【私の愛しいハムスター】と呼ばれている。
いくら僕が小さいとはいえ小さすぎやしないだろうか。
然しながら愛情深い方なので我が国は血で血を洗う権力争いとは程遠く、呑気に王位継承権二位で居られるのは現王の影響が大きいだろう。
でなければ王太子から嫌われている僕など、良ければあらぬ事を囁かれ継承権を放棄した上で遠方に飛ばされるか、最悪の場合『謀反の疑いあり』と、とっくの昔にこの世から居なくなっている事だろう。


「お待ちしておりました。お通りくださいキャンベル公爵子息様」


王城に到着したとは言ってもそこから正面玄関まではかなり距離がある。
馬車に揺られること十分。
馬車が緩やかに歩みを停めたと思ったら御者が扉を開けて降車を促してくれる。
先にアレックスが降りて僕に手を差し出したのを見て迷いなく手のひらを乗せるとなんだか少し手のひらが熱くなったような気がする。
馬車を降りて豪奢な扉を開け頭を下げ出迎える使用人達の間を通り抜けバトラーが深く頭を下げ出迎えてくれた。


「突然の招集にお越しくださって誠にありがとうございます。こちらのジェームスが、キャンベル公爵子息様を殿下の元までご案内致します」


ジェームスと紹介された茶髪の彼が美しい礼をしたのを見て頷き『頼むよ』と声をかけた。
それに愛想良く微笑んだジェームスの後ろを着いて歩いていると、何度か訪れたことがある王太子の執務室の前で止まった。


「クライシス殿下、ウィルバート・ウィリアム・キャンベル公爵子息と、アレックス・ロバート・テイラー伯爵子息をお連れ致しました」


騎士団の書類に引き続き、またしてもアレックスの名前が旧姓になっているが未だに情報は更新されていないのだろうか。
本来なら名前を間違えるというのはとても失礼なことなので窘める場面であるが、まだ五日目だし手続き上まだテイラー姓なのかもしれない。
そう考えて口を噤み中からの返事を待つと、美しくはあるが神経質そうな声で『入れ』と返事があった。
ジェームスが扉を開けたのを確認して足を踏み入れると相変わらず豪奢な印象を受けるレッドカーペットに高価であるガラスをふんだんにあしらったシャンデリア。
彫りが細かい執務デスクの前で腰掛けた豊穣の色を纏う美しい長髪の美青年が居た。
なんということは無い麗しの従兄弟殿である。
その周りには五人の側近たる補佐官達がいて各々の仕事をこなしているようだった。


「お久しぶりです殿下」

「ふん。随分とトゲトゲしいではないか。我々は従兄弟なのだからシスお兄様とでも呼べば良いものを。
ああ…少し会わない間に、随分と冷たくなったものだ。
大して仲良くもない従兄弟など親族だと思っていないという意思表示か?」


なんだかよく分からないが不機嫌は最高潮、嫌味は絶好調のようだ。
非常にやりにくい。
こちらからすればあなたが嫌に僕を嫌っているだけで僕は出来れば普通にして欲しいと思っているのですが?とはさすがに言えなかった。
……いや、格上の人間に言わなかった僕が偉いと思うことにする。


「まさか。ですがここは執務室、側近の方々もいらっしゃいますし、臣下としてクライシス殿下と適切な距離をとらねばならないでしょう」

「殿下、我々は書物庫の整理にいつまで参ります。何かございましたらお申し付けください」

「ああ」


測ったかのように側近たちが席を外す中で、クライシスの傍から離れない男が一人。
マロンとクリームを混ぜ合わせたような優しい色合いの髪に薄い紫色の瞳を持ち、それに違わぬ優しげな容姿の男だ。
隣にいる絶世の美人である従兄弟殿のせいで霞むが街を歩けば目を引く優男といった容貌だろう。
身長はアレックスよりは低いが高身長ではありそうである。
彼は確かクライシスの護衛を兼ねた側近で如何なる時も離れたところを見た事がない。


「この者は私の半身だ。よって居らぬものとして扱え」

「……は…」


あまりの言葉に思わず息を呑むが何とか返事の声を吐き出す。
半身とは大きく言ったものだ。
確かに護衛を兼ねた側近は主を守るための盾であり剣。
半身とも言えなくもない気もするが、あまりそう言った表現は使わない。
半身と言うと唯一無二、と言った意味合いが強く対等な関係や恋愛的側面を纏わせた表現に取られるからだ。
随分と側近を気に入っているのだなと思っていると不満げにこちらを見つめるクライシス殿下と目が合った。
よく分からないがとりあえず微笑むと、僅かに口を引き結びながらとがらせてそっぽを向いた。
怒っているらしい。


「殿下」

「………」


なんの用事で呼ばれたのか一切情報提起がなく呼びかけるが無視されて困り果ててしまう。
全く取扱の難しい従兄弟殿である。


「差し出がましいようですが主はシス兄様と呼んで欲しいようですので、そのように呼ん……」

「欲しくなどない!そのような事は一切ない。ウィリーが昔はシス兄様シス兄様と呼んでついて回ってきたから、許可してやっているだけだ」

「…………」


側近の彼を見ると母親のように『うちの子がごめんね~』と言わんばかりの顔で『呼んでください』と口パクで伝えてくる。
とりあえず彼の言うことを信用して、『シス兄様』と呼びかけると首が僅かに動いた。
聞こえてはいるらしい。


「シス兄様、お話ってなに?」


ふと口をついてでた幼子の時のような言葉に思わず口元を抑えるとクライシス殿下は不機嫌そうな顔でこっちを向きこちらを睨みつけてくる。
シス兄様なんて呼んだからうっかり昔の口調が出ただけじゃないか。
そんなに怒らなくてもいいのに。
という気持ちは呑み込んで首をかしげるだけに留めた僕は偉い。

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