11 / 19
結婚したのか……俺以外の奴と
⑤
しおりを挟む王家から用意された乗り心地の良い馬車に酔いしれながら揺られること三十分。
あっとゆう間に王城へ着いた。
皇帝陛下の弟である父は城は距離はあるもののお隣さんと言うやつで、貴族感覚で言えば極めて近くに屋敷と王都に領地を与えられている為移動はあっという間である。
どうやら現王は弟である父を溺愛しているらしく……と人ごとのように言ってしまったが溺愛していることは身に染みて知っている。
というのも月に一度は必ず父の様子を知りたがり呼び出しているからだ。
全く揃いも揃ってうちの家系はブラコンだったり親バカだったりと過剰な愛情表現しか知らない人ばかりだ。
幸運なことに入婿である生みの親の父上のことも溺愛していて、お父様がいつもヤキモチを焼いている。
例えるのなら皇帝陛下からお父様は体育会系先輩からの溺愛、父上の場合は愛猫を可愛がる時のような溺愛をしている。父上はいつも【マイキティ】と呼ばれ、言わずもがな僕も【私の愛しいハムスター】と呼ばれている。
いくら僕が小さいとはいえ小さすぎやしないだろうか。
然しながら愛情深い方なので我が国は血で血を洗う権力争いとは程遠く、呑気に王位継承権二位で居られるのは現王の影響が大きいだろう。
でなければ王太子から嫌われている僕など、良ければあらぬ事を囁かれ継承権を放棄した上で遠方に飛ばされるか、最悪の場合『謀反の疑いあり』と、とっくの昔にこの世から居なくなっている事だろう。
「お待ちしておりました。お通りくださいキャンベル公爵子息様」
王城に到着したとは言ってもそこから正面玄関まではかなり距離がある。
馬車に揺られること十分。
馬車が緩やかに歩みを停めたと思ったら御者が扉を開けて降車を促してくれる。
先にアレックスが降りて僕に手を差し出したのを見て迷いなく手のひらを乗せるとなんだか少し手のひらが熱くなったような気がする。
馬車を降りて豪奢な扉を開け頭を下げ出迎える使用人達の間を通り抜けバトラーが深く頭を下げ出迎えてくれた。
「突然の招集にお越しくださって誠にありがとうございます。こちらのジェームスが、キャンベル公爵子息様を殿下の元までご案内致します」
ジェームスと紹介された茶髪の彼が美しい礼をしたのを見て頷き『頼むよ』と声をかけた。
それに愛想良く微笑んだジェームスの後ろを着いて歩いていると、何度か訪れたことがある王太子の執務室の前で止まった。
「クライシス殿下、ウィルバート・ウィリアム・キャンベル公爵子息と、アレックス・ロバート・テイラー伯爵子息をお連れ致しました」
騎士団の書類に引き続き、またしてもアレックスの名前が旧姓になっているが未だに情報は更新されていないのだろうか。
本来なら名前を間違えるというのはとても失礼なことなので窘める場面であるが、まだ五日目だし手続き上まだテイラー姓なのかもしれない。
そう考えて口を噤み中からの返事を待つと、美しくはあるが神経質そうな声で『入れ』と返事があった。
ジェームスが扉を開けたのを確認して足を踏み入れると相変わらず豪奢な印象を受けるレッドカーペットに高価であるガラスをふんだんにあしらったシャンデリア。
彫りが細かい執務デスクの前で腰掛けた豊穣の色を纏う美しい長髪の美青年が居た。
なんということは無い麗しの従兄弟殿である。
その周りには五人の側近たる補佐官達がいて各々の仕事をこなしているようだった。
「お久しぶりです殿下」
「ふん。随分とトゲトゲしいではないか。我々は従兄弟なのだからシスお兄様とでも呼べば良いものを。
ああ…少し会わない間に、随分と冷たくなったものだ。
大して仲良くもない従兄弟など親族だと思っていないという意思表示か?」
なんだかよく分からないが不機嫌は最高潮、嫌味は絶好調のようだ。
非常にやりにくい。
こちらからすればあなたが嫌に僕を嫌っているだけで僕は出来れば普通にして欲しいと思っているのですが?とはさすがに言えなかった。
……いや、格上の人間に言わなかった僕が偉いと思うことにする。
「まさか。ですがここは執務室、側近の方々もいらっしゃいますし、臣下としてクライシス殿下と適切な距離をとらねばならないでしょう」
「殿下、我々は書物庫の整理にいつまで参ります。何かございましたらお申し付けください」
「ああ」
測ったかのように側近たちが席を外す中で、クライシスの傍から離れない男が一人。
マロンとクリームを混ぜ合わせたような優しい色合いの髪に薄い紫色の瞳を持ち、それに違わぬ優しげな容姿の男だ。
隣にいる絶世の美人である従兄弟殿のせいで霞むが街を歩けば目を引く優男といった容貌だろう。
身長はアレックスよりは低いが高身長ではありそうである。
彼は確かクライシスの護衛を兼ねた側近で如何なる時も離れたところを見た事がない。
「この者は私の半身だ。よって居らぬものとして扱え」
「……は…」
あまりの言葉に思わず息を呑むが何とか返事の声を吐き出す。
半身とは大きく言ったものだ。
確かに護衛を兼ねた側近は主を守るための盾であり剣。
半身とも言えなくもない気もするが、あまりそう言った表現は使わない。
半身と言うと唯一無二、と言った意味合いが強く対等な関係や恋愛的側面を纏わせた表現に取られるからだ。
随分と側近を気に入っているのだなと思っていると不満げにこちらを見つめるクライシス殿下と目が合った。
よく分からないがとりあえず微笑むと、僅かに口を引き結びながらとがらせてそっぽを向いた。
怒っているらしい。
「殿下」
「………」
なんの用事で呼ばれたのか一切情報提起がなく呼びかけるが無視されて困り果ててしまう。
全く取扱の難しい従兄弟殿である。
「差し出がましいようですが主はシス兄様と呼んで欲しいようですので、そのように呼ん……」
「欲しくなどない!そのような事は一切ない。ウィリーが昔はシス兄様シス兄様と呼んでついて回ってきたから、許可してやっているだけだ」
「…………」
側近の彼を見ると母親のように『うちの子がごめんね~』と言わんばかりの顔で『呼んでください』と口パクで伝えてくる。
とりあえず彼の言うことを信用して、『シス兄様』と呼びかけると首が僅かに動いた。
聞こえてはいるらしい。
「シス兄様、お話ってなに?」
ふと口をついてでた幼子の時のような言葉に思わず口元を抑えるとクライシス殿下は不機嫌そうな顔でこっちを向きこちらを睨みつけてくる。
シス兄様なんて呼んだからうっかり昔の口調が出ただけじゃないか。
そんなに怒らなくてもいいのに。
という気持ちは呑み込んで首をかしげるだけに留めた僕は偉い。
337
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる