いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛

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結婚したのか……俺以外の奴と

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「ーーーー……ふん。その後ろの小童はなんだ」

「シス兄様もご存知のテイラー伯爵家三男アレックスですよ」


呼びつけたのだから知らないわけもないし、そもそもキャンベル公爵家で身柄を預かっているのだから知らないはずもないのに変なことを言っている。


「ああ…公爵家の恩恵にあやかろうとする貧乏伯爵家か。
…………ふん。暑苦しいほどガタイが良いな。顔が取り柄か?
それも私に遠く及ばないがな」


嫌につっかかってくるクライシスに内心眉を顰めるが何とか飲み込んで無害に見えると評判の笑顔で微笑み返す。


「おまえも見る目がない。このような身の程知らずの何が良いのか。
ああでもお前のような世間知らずで薄情者にはお似合いかもな!だがそうだな……今ならば……」

「……殿下、それでお話とは一体いかような事でしょう」

「如何様な事だと?」


突然尋常ではない怒気を孕んだ声に思わず目を見張ると、遅れて湧き上がってきた怒りを何とか押さえ込んで口元に笑みを浮かべる。
貴族とは高貴な血筋が1番尊く、それに続き潤沢な財や容姿の端麗さが重視される。
能力や正しさなどそれらの次である。
理不尽に思ってもそれに逆らうことは出来ない。
自分の発言には公爵家としての責任が伴うし、公爵家の意志とされる。


「まさか私の旦那を侮辱するためにこの場に呼び出した訳ではありませんでしょう?」


けれど譲れないものも貴族と言えど人間の僕にはあるのだ。


「ーーっ、そのようなものの何が気に入って婚姻したというのだ。所詮お前も政略結婚の駒、貴族という事だな。
家のことを考えれば格上に嫁ぐのが貴族としての責務ではないのか」

「あははっ。ご冗談を」

「なに?」

「僕たちは恋愛結婚ですよシス兄様」


そう告げた瞬間今まで侮辱されたと怒ることも無く、興味無さげにただ前だけを見ていたアレックスが僕を見た。
その視線を感じながらアレックスの腕を掴み絡めるとその身体が僅かに硬直したのを感じて思わず笑ってしまう。
嘘も方便。
僕はアレックスが大好きだし、アレックスが僕を好きな事も嘘じゃない。
正直恋愛ではなく兄弟愛だけれど、恋愛結婚だと思われたって僕は1ミリも困りはしない。
アレックス以外と結婚する気はもうないのだから。


「はっ。そなたもそんな冗談が言えるのか。普段からもっと愛想良くしていれば良いものを。
私が何度も声をかけてやったのだから、言う通りにしていれば、このように行き遅れにならずとももっと早く結婚出来ただろうに」


クライシス殿下が僕に何を声掛けしたというのか。
ただいつも嫌味っぽく『のろまなウィリーは結婚も出来ないのか。行き遅れになる前に私に侍れば良いものを』などと言ってきただけじゃないか。
どこの世界に自分がいびられると分かっていて側室になろうと言う人間がいるのか。
こんな平凡で取り柄も無い自分でも絶対にごめんである。


「冗談ではありません」
  

鼻で笑ったクライシスの笑みが貼り付けたように固まって途端にその余裕が崩れさる。
優雅に腰かけていた椅子から立ち上がり机に手のひらを着いて俯きながら声を上げる。


「ーーー…嘘だ!そんなわけない。貧乏伯爵家の三男が私のウィリーと恋愛結婚したなんて嘘だ!!」

「嘘ではありません、シス兄様の………………シス兄様のウィリー?」


意味不明な言葉の羅列に思わず復唱するとクライシスはその切れ長で気高い瞳に薄膜を張って高い鼻尖を赤く染めている。


「私のウィリーなのに!!!私の可愛い可愛い。天使なのに。この……この!!!泥棒猫!あんぽんたん!不能になれ!」

「申し訳ありませんが私は体も鍛えておりますし体力もありますので。むしろ少しくらいその呪いが効いてくださっても良いと思っておりますよ」    

「絶対不能にしてやる……必ず……」


ギラついた瞳でアレックスを射殺そうとするかのように睨みつけるが本人は欠片も効いていなさそうだ。
意味のわからない状況にただ見つめるしかできない僕に視線を向けたクライシスは不機嫌な顔でこちらまで睨みつけてくる。


「ウィリーもウィリーだ。絶対シス兄様と結婚すると言っていたくせに。薄情者」

「……どういうことでしょうか?ウィルバート」

「違う!いや、違わないけど…それは……その、四歳か五歳か、それくらいの話で……」


唐突に記憶の彼方にあった恥ずかしい過去を引っ張りだされて赤面しながら俯くと品の良いラベンダーの香りに包まれた。
アレックスでは無いその香りと筋肉の感触に反射的に胸を押すが強く抱きしめられる。
と言うよりしがみつかれる。


「ウィリーが私の艶のある金髪は歩く度に揺れて王子様みたいで素敵!って言うから髪も伸ばしていたのに!」

「王子様みたいで素敵……?!
にぃには騎士が好きなんだよね?!黒髪の騎士が!!黒髪が一番じゃないの?!」


確かに昔絵本に出てくる金髪で長髪の王子様が、剣を持って戦う姿がかっこよくてずっとクライシス殿下に読んでってオネダリをしていた気がする。
後ろから着いて歩く僕に『隣においで』と言ってくれたが美しい長髪が揺れるのを見るのが好きで断っていたのを思い出す。
『シス兄様のおぐし、つやつやしてて、きんいろできれい!』と口癖のように言っていたことも思い出した。


「ウィリーが運動が得意であんまりごつごつしてないけど筋肉のある男の人がいいって言うから私は運動が苦手だが頑張って鍛えたのに!触ってみろこの腕!上品だがしっかりした上腕二頭筋だろう」

「……なんだって!?!?にぃに!!!!ガタイのいい男は嫌いなの!?……俺騎士やめてくる」

「辞めなくていいからね!?」


幼少期から英雄譚やお姫様を救いに行く王子様に強いあこがれがあったのは今も鮮明に覚えている。
自分は体が弱いし運動神経も悪いからこんな風になれたらいいなぁと、子供ながらに羨望の眼差しを向けていたことだろうと思う。


「クールで生き様が美しくて、口数少なくて強くて、少し口が悪いけど実は優しい、かっこいい男に憧れるって言うから私は……お前を甘やかしたいのを抑えて……我慢してきたのに…!!!!!!」

「っ…だめだ……薄々気がついていたけどとてもじゃないけど他人事だと思えない……」

「嫉妬で気が狂いそうだったのに……お前はそんな男は好きではないと分かっているからずっと苦しかった……私はどうすれば良かったと言うのだ……教えてくれウィリー」


唐突にガックシと肩を落として頭を抱えるアレックスから思わず目をそらすと至近距離で交わるアメジストの瞳。
その情けない眼差しに昔の面影を思い出す。
昔のシス兄様は優しいけど少し弱虫でよく泣いていた。
年上なのに全然そうは見えなかったけど、『シス兄様』と呼ぶと嬉しそうに笑ってくれていたから大好きだった。
けれどいつからか昔みたいに笑わなくなって、怖い雰囲気になったと思っていたのに、まさかそれが自分のせいだったとは夢にも思わなかった。


「いやだいやだいやだ……ウィリーと結婚するのは私だ……私以外いやだ……」


混沌とした状況にもかかわらず、子供のように駄々をこねるその姿に『可愛い……』と思わず頭を撫でようとして、近くからの殺気に動きを止めた。
アレックスが恐ろしい形相でこちらを見ている。


「浮気者……まさか結婚五日目で二回も浮気されるなんて……」

「貴様ごときでは役不足ということだ!身の程を知れ!
この…………この、まっくろくろすけ!!……ぇっと…おたんこなす!ムキムキ男!」

「……なんということだ……。
こんなに敵意を向けられているのに怒る気がしない……」


昔の僕が大好きだった兄様は基本怒るのが苦手で人が良いので暴言のボキャブラリーが少ない。
昔喧嘩した時も……


『しすにぃさまのばか!もうしらない!べっ~だ!』

『ーーーっ、わ、わたしだって……もう知らないんだからな!ーーっウィリーのぷくぷくほっぺ!』


と罵倒されたことは随分と前の事のはずなのに記憶に新しい。
それくらいシス兄様の怒り方には衝撃を受けたものだった。
しかもシス兄様はよく『ウィリーのほっぺはぷにぷにほっぺ。幸せを呼ぶぷくぷくほっぺ』とぼくの頬をむにむにしながら歌っていたので、仲直りするまでそれが罵倒だと気が付かなかった。
仲直りする時に陛下に『お前はそんな可愛い悪口を……』と言っていたのを聞いてそれが悪口だと認識し、逆に『ぼくのほっぺわるいことだとおもっていたの!』と怒ってちょっとの間、口をきかなかったことを思い出した。
こうして思い返すと懐かしい思い出ばかりで、最近の冷たい対応なんて記憶の彼方に飛んでいきそうだ。

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