没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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「貴方…誰?」
 オリビアが一歩後退ると、男性も一歩前に出てきてオリビアの手首を掴む。
「な、嫌!」
 オリビアは手を振り払おうとするがを男性の手は離れない。
「何…?」
 オリビアが怯えた様子を見せると、男性は口角を片方上げ、皮肉気に笑った。
「人攫いをする娘が、自分がされたら怯えるのか」

 …どうして。

 オリビアは掴まれていない方の手に持っていた扇を取り落とすと、震えながら自分の口元を覆った。
「嫌…」
 ぶるぶると震えるオリビアを見て、男性も慌てた様子を見せる。
「どうした?」
「嫌…助けて…ジル…」
 足の力が抜けて座り込むと、俯いて首を横に振る。
「チッ」
 男性は舌打ちすると、オリビアを担ぎ上げた。

-----

 男性は、オリビアを荷物の様に肩に担いで辺境伯家の一室へ入り、大きなソファにドサリと下すと、オリビアの前にしゃがみ込んだ。
「おい。大丈夫か?」
 座らされたままぼんやりしているオリビアの頬を軽く叩く。
「……」
「…酒でも飲むか?いやアルコールはまずいか。お茶?水?」
「水…」
「聞こえてんのか。一応」
 男性はため息を吐くと、テーブルに置いてある水差しからコップへ水を注ぐ。
 自分で一口飲むと、オリビアの前にコップを差し出した。
「ほら。ちゃんと持て」
 オリビアの手を取る。一瞬ピクリとするが、男性はそのままオリビアにコップを持たせる。
「…ありがとう」
「正気に戻ったか?」
 オリビアはこくんと頷くと水を一口飲んだ。

「…ごめんなさい」
「いや、俺も不躾だった。すまない」
 オリビアが謝ると、向かいのソファに座った男性も頭を下げる。二人の前にはそれぞれ水の入ったコップが置いてある。
「改めて、俺はダグラス・チャンドラーと言う者だ」
「チャンドラーって、伯爵家の?」
 オリビアが聞くと、ダグラスと名乗った男性は眉間に皺を寄せる。
「…知ってるのか。まあ一応はチャンドラー伯爵家の次男…なんだが、俺は勘当されてるから、厳密には伯爵家の者ではない」
 ダグラスは自分の髪を掻き上げながら言う。
「勘当?」
「…ああ、そういえば、俺は市井の者なのに、子爵家の令嬢に対して失礼な喋り方をしているな。改めよう」
「いいわ。気にしてない。私だって子爵家の養女になるまでは市井の者だったもの。その代わり、私も砕けて話すわ」
「ああ。オリビア嬢」
「呼び捨てで良いわ」
 オリビアが言うと、ダグラスは首を傾げる。
「さっきは『お前』呼ばわりの方がマシだと言ってたが?」
 オリビアは嫌そうな表情で
「あんな男に呼び捨てられるよりは、って事よ」
 と言った。
「俺は良いのか?」
「…助けてくれたしね」
「そうか。ではオリビア」
「はい」
「何が引き金だったんだ?」
「え?」
「…さっきの様子から見ると、何か…トラウマがあるんだろう?」
 ダグラスはオリビアを窺うように言う。オリビアは視線を天井に向ける。
「…自分は、人を誘拐しておいて、自分が誘拐されたら怯えるのか…って、部分」
 オリビアは小さく震える声で言う。同じく小さく震える手を自分の手で押さえる。
「…大丈夫か?」
「大丈夫。さっきは心の準備ができてなかったから」
 オリビアはふぅと息を吐く。

 そういえば、さっきはこの人に抱き上げられても怖くなかったな。…抱き上げる、と言うよりは担がれたからかしら?

 オリビアはちらりとダグラスを見る。
 赤茶色の髪、瞳は…眼鏡でよく分からないけれど、黒いのかしら。
「…誘拐、された事が?」
「え?」
 ダグラスを観察していてよく聞いていなかったオリビアが聞き返すと、ダグラスは片手を上げて
「いや。何でもない。俺の事も呼び捨ててくれ」
 と言う。
「分かったわ。では、ダグラス」
「ああ」
「貴方は何者なの?」
 ダグラスは水の入ったコップを手に持つ。
「大体予想はついてる、だろ?」
 オリビアは頷く。
「貴方、さっき私に水をくれる時、自分が先に口に含んだわ。つまり『毒味』が必要な人の側にいる人って事よね?」
「その通り」
 ダグラスはコップをテーブルに置く。
「俺は、ここの領主、パリス・スミス…本名はパリヤ・ルーセントの従者だ」

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