没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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 ダグラスが、オリビアと会った夜会から、今日会った理由までの事情を説明し、オリビアにマリーナの様子を見て来て欲しいので、北方へ一か月半から二か月連れて行きたいと言うと、兄オスカーは憮然とした表情で
「気に食わん」
 と言った。
「オリビアを二か月も連れ出すのも、セルダ殿下の頼みなのも、マリーナ・ザイルに会いに行くのも、何もかも気に食わん」
「お兄様…」
「オリビアは良いのか?セルダ殿下さえ余計な事をしなければ、我が家が、オリビアが、あんな目に遭う事はなかったのに」
 オスカーの言葉にオリビアは首を横に振る。
「違うわ。お兄様。我が家がこうなったのはお父様のせいよ。お父様が野望を潔く諦めなかったのが悪いの。私も…自分のせいだわ。それにね、私しばらく家に居たくないの」
「家に居たくないってどうして?」
 母ナタリーがオリビアに問う。
「ほら最近毎日押し掛けて来るじゃない。ガイア・ハモンド」
「ええ。今日も来てたのよね?騒がしかったから」
「そうよ。それで、今日あいつが言ったの『オリビアを嫁にもらって』って」
「まあ。オリビアをあんな男にお嫁に行かせる訳ないわ!」
「でしょ?私だって嫌だもん。それで咄嗟に『私の旦那様になるのはダグラスよ』って言っちゃって」
 ナタリーとオスカーがダグラスを見る。注目を浴びたダグラスはコホンと咳払いをした。
「でもあいつ『諦めないぞ。覚えとけ』って。きっと明日からも来ると思うの」
「…そうね」
 ナタリーは頷く。
「あの野郎、そんなふざけた事言ってんのか。ハモンド商会へ苦情入れるか?許されるなら俺がぶん殴るけど?」
 オスカーが言うと
「苦情の手紙はこの間商会へ出したけど、商会の拠点は隣の領地だからまだ日にちもかかりそうだし、お兄様が暴行で捕まったら嫌だし、それで逆恨みされても困るし」
 とオリビアは言い「それに」と続ける。
「あいつ、すぐ腕を掴もうとして来るのよ。今日は実際掴まれたし…ダグラスが助けてくれたけど、もし誰も居ない時に会ったら…」
 オリビアが言うと、空気にピリッと電気が走る。
 ナタリーとオスカーは険しい表情で顔を見合わせてから、オリビアを見る。
「…わかったわ。確かにしばらくオリビアはここに居ない方が良いわね」
「オリビアが居ない間にあの男をどうにかする」
 ナタリーとオスカーは揃って拳を握りしめた。

 その後、義父フレッドと義母ルイーズが応接室にやって来て、ナタリーは「すぐ出発できるようにオリビアの荷物を纏めてるわ」と言って出て行く。
 オスカーとオリビアはダグラスを辺境伯領の領主の側仕えで「オリビアの恋人」だと紹介した。
 婚約前にチャンドラー伯爵家の領地へ挨拶に行く事、伯爵の都合に合わせて会いに行くためと、ガイア・ハモンドを諦めさせるため、すぐに出立する事を説明する。
「まあ今日すぐに?ずいぶんと急な話ね」
「ごめんなさい、お義母さま。でも私、もうハモンド様と顔を合わせたくないのよ」
「そうね。ハモンド様は毎日来て騒いで『オリビアはいない』と言ってもなかなか帰らなくて、随分としつこいみたいだし…いくら情熱的なのが良いと言っても限度があるわね」
「正式に求婚話が来ている訳ではないから、正式に断る事もできんしな…」
 ルイーズとフレッドは揃ってため息を吐いた。
「でも、ダグラス様と正式に婚約しなくて良いの?その、二か月も一緒に旅をするのに…ねえ?」
 ルイーズが言い辛そうにオリビアを窺う。
「あら、お義母さま、私とダグラスはまだ恋人になったばかりなんです。まだまだお互いを知りませんし、お別れする可能性もあります。なので、もちろん、です!」
 オリビアがキッパリと言い切ると、ダグラスは苦笑いを浮かべ、オスカーは明らかに笑いを堪えていた。

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 心配なのは、私がここ以外で眠れない事よね…。

 着替えなど、最低限の荷物は馬車に積んだ。オリビアは手荷物を持ってドアの前から自室を見渡す。

 昼間は移動ばかりだから、馬車でうたた寝できれば二か月保つかしら?

「まあ、何とかなるでしょ」
 オリビアはわざと明るい声を出して部屋を出た。

 外へ出ると馬車の前にダグラスともう一人男性が立っていた。顔に見覚えはないが多分ルイだ、とオリビアは思った。
「オリビア、忘れ物はない?」
 ナタリーとルイーズは「足りない物があれば買いなさい」と封筒に入ったお金を渡してくれる。
 オスカーとフレッドは「あの男は何とかしておくからな」と胸を叩く。
「じゃあ、お義父様、お義母様、お母様、お兄様、行って来ます!」
 ダグラスに手を取られて馬車に乗り込んだ。
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