没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

文字の大きさ
22 / 48

21

しおりを挟む
21

「俺の母方の曽祖母が公爵家の出身だから、俺にも薄く王家の血が入っている。王家の血が入る貴族は珍しくもないしな」
 ダグラスが言うと、オリビアは頷く。
 王女が公爵家や侯爵家へ降嫁したり、王族が臣籍降下し公爵家が新設されたり、王家の籍から離脱した者が上位貴族と縁組したりなど、貴族に王家の血が入る事は珍しい事ではない。現に今の国王陛下の弟の一人は臣籍降下し、公爵となっている。
「それでも、目や髪に紫が出る者は、王家に血が近いと言われている」
 ダグラスは眼鏡を外すと胸ポケットへ入れる。
「俺は…生まれた時、瞳がアメジストのような紫だったんだ」
「え?」
「三歳頃には今のように光が当たれば紫に見える程度の紺色になったらしいが…父は、母を疑った」
 ダグラスは窓の外へ視線をやる。日に透ける青紫の瞳。

 ダグラスの母は、後に王妃となる令嬢と学園で仲が良かったため、王の成婚後は侍女として王妃に仕えていた。伯爵夫人となってからも王都の屋敷から王宮へと通っていたのだ。

 そして、伯爵家に紫の瞳の子供が生まれた。

 ダグラスの父は妻を疑い、妻にも生まれた子にも冷たく当たる。耐えかねた妻は王妃の元へと逃げ、母と子は長い年月を王宮で暮らしたのだ。
 
 たまに母と共に王都の屋敷に戻れば、父はダグラスを冷たく一瞥し、執務室へと籠る。
 ダグラスは父の前では言葉を発する事も許されず、息を殺していた。母や兄が領地へ連れて行ってくれるか、母と王宮に戻る日をただひたすら待っていたのだ。

「まあ今考えれば、父からすれば無理もない話だろうとは思うが、俺は瞳の色以外は父によく似ているから疑われた母も困惑しただろうな」
「無理もないって…お父様、酷いわ」
 オリビアが憤ってそう言うと、窓の外に視線を向けたままのダグラスがクスッと笑った。
「母は、屋敷に俺を連れ帰って『ほらこんなに貴方に似ているのに、いつまでも何を言っているの』と父に突き付けていたらしい。実際父は居心地悪そうだったから、効果はあったのかもな」
「ダグラスとお父様、そんなに似ているの?」
「兄と父より、俺と父の方が似ていると我ながら思う。しかし生まれた時からの蟠りはなかなか解けないものだ」
 
 王宮に住むダグラスは当たり前のように第一王子パリヤの側近となった。
 そしてパリヤが婚約破棄事件により王籍を除され、辺境へと行く事になった時、ダグラスはパリヤと共に行く事を決心し、そんなダグラスに父は伯爵家からの勘当を言い渡したのだ。

「俺はパリヤと四つ歳が違って、学園で一緒になる事がなかったから…パリヤを諌めてやる事ができなかった。だから、主のような、弟のようなパリヤと、共に行く事にしたんだ」
「あれはダグラスのせいでは…」

 もし、ダグラスとパリヤ殿下の歳が近くて、学園でダグラスがパリヤ殿下の側にいれば、殿下は婚約破棄をしなかった?
 …ううん。きっと違うわ。

「そうだな。全てはパリヤに王太子としての自覚が乏しく、私欲を通そうとしたせいだ。…やはり側でその自覚を持たせられなかった俺のせいでもあるな」
 ダグラスは自嘲気味に笑う。オリビアは立ち上がるとダグラスの頬に両手を当て、強引に自分の方へ向かせた。
「オリビア?」
「ダグラスのせいじゃないわ」
「…しかし、オリビアは…パリヤの婚約破棄のせいで…嫌な目に遭ったろう?」
 馬車の内に向き、影になった瞳は濃紺に見えた。
 オリビアを見上げる濃紺の瞳がゆらゆらと彷徨う。

 私を見て。

「それは、やはり私の父と、私のせいだわ」
 ダグラスがオリビアを見る。目が合った。
「オリビア…触れても?」
 オリビアがこくんと頷くと、ダグラスの手がゆっくりと背中にまわり、オリビアの腰を引き寄せる。
 ダグラスの膝に座る形で抱き寄せられ、オリビアはダグラスの首に手を回した。

-----

 抱き合ったまま、暫くすると馬車が速度を落とす。
「もう着いたか」
 ダグラスがオリビアの背中に回った腕を緩める。
 離れて行く温もりに、オリビアの胸がツキンと傷んだ。

 馬車が停まると、屋敷の使用人全員かと思う程の人数が玄関の外に並んでいるのが目に入る。
 オリビアがダグラスの手を取って馬車を降りると、使用人たちが一斉にダグラスに駆け寄った。
「ダグラス様」
「ダグラス様おかえりなさい」
「お久しぶりです」
「ダグラス様」
「お待ちしておりました」
 ダグラスを囲んで口々に言う。
 オリビアは呆気に取られその光景を眺める。ダグラスは苦笑いしながら言う。
「おいおい。皆、お客様の前だぞ。少しは取り繕え」
 すると、使用人たちは一斉に整列すると、揃って頭を下げた。
「お客様、ようこそおいでくださいました!」
 オリビアはますます呆気に取られ、ダグラスは吹き出して笑い出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が欲しいのはこの皇子!【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
トリスタン公国の第一公女は男勝りで女らしさが全くないラメイラ。 だが好きな男が居る。 その男が、伴侶探しをすると聞き、父にその男が居る国に留学をしたい、と半ば強引に、隣国レングストンにやって来た。 豪快で活発な公女が、その男を振り向かせる事がはたして出来るのか? ※『私は5歳で4人の許嫁になりました』の別編です。 主人公は変わりますが、登場人物は↑の話とほぼ一緒です。 ※話が重なるシーンもありますので、ご了承下さい。 ※タイムラグが無いように更新をするので、ごちゃごちゃになったらすいません(*ノ>ᴗ<)テヘッ ※中盤で【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】の主人公が出ますので、そちらもその時期に合わせて公開していきます。 ※終盤で【流浪の花嫁】の主人公が出ますので、そちらもまたその時期に合わせて公開予定です。 ※本編も100話程続きます。 ※全ての話を公開後、番外編【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開を予定しています。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する

獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」 〜 闇オク花嫁 〜 毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、 借金を得た母の言葉を聞き、 闇オークションへ売られる事になった。 どんな形にしろ借金は返済出来るし、 母の今後の生活面も確保出来る。 そう、彼女自身が生きていなくとも…。  生きる希望を無くし、 闇オークションに出品された彼女は 100億で落札された。 人食を好む大富豪か、 それとも肉体を求めてか…。 どちらにしろ、借金返済に、 安堵した彼女だが…。 いざ、落札した大富豪に引き渡されると、 その容姿端麗の美しい男は、 タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、 毎日30万のお小遣いですら渡し、 一流シェフによる三食デザート付きの食事、 なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。 何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……? 表紙 ニジジャーニーから作成 エブリスタ同時公開

愛しの My Buddy --イケメン准教授に知らぬ間に溺愛されてました--

せせらぎバッタ
恋愛
「俺なんか好きになっちゃいけないけないのになぁ」  大好きな倫理学のイケメン准教授に突撃した女子大生の菜穂。身体中を愛撫され夢見心地になるも、「引き返すなら今だよ。キミの考える普通の恋愛に俺は向かない。キミしだいで、ワンナイトラブに終わる」とすげなくされる。  憧れから恋へ、見守るだけから愛へ、惹かれあう二人の想いはあふれ、どうなる?どうする? 基本、土日更新で全部で12万字くらいになります。 よろしくお願いしますm(__)m ※完結保証

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

キズモノ令嬢絶賛発情中♡~乙女ゲームのモブ、ヒロイン・悪役令嬢を押しのけ主役になりあがる

青の雀
恋愛
侯爵令嬢ミッシェル・アインシュタインには、れっきとした婚約者がいるにもかかわらず、ある日、突然、婚約破棄されてしまう そのショックで、発熱の上、寝込んでしまったのだが、その間に夢の中でこの世界は前世遊んでいた乙女ゲームの世界だときづいてしまう ただ、残念ながら、乙女ゲームのヒロインでもなく、悪役令嬢でもないセリフもなければ、端役でもない記憶の片隅にもとどめ置かれない完全なるモブとして転生したことに気づいてしまう 婚約者だった相手は、ヒロインに恋をし、それも攻略対象者でもないのに、勝手にヒロインに恋をして、そのためにミッシェルが邪魔になり、捨てたのだ 悲しみのあまり、ミッシェルは神に祈る「どうか、神様、モブでも女の幸せを下さい」 ミッシェルのカラダが一瞬、光に包まれ、以来、いつでもどこでも発情しっぱなしになり攻略対象者はミッシェルのフェロモンにイチコロになるという話になる予定 番外編は、前世記憶持ちの悪役令嬢とコラボしました

覇王に執着される傾国の男装騎士〜忘却の接吻を、愛しき宿敵へ〜

甘塩ます☆
恋愛
男装騎士アーサーは、かつての宿敵・カイル王に捕らわれ、「専属メイド」として屈辱的な奉仕を命じられる。しかし、復讐のために自分を弄ぶはずのカイルが向けたのは、狂気にも似た深い愛だった。

処理中です...