23 / 48
22
しおりを挟む
22
「じゃあ領主様と辺境伯領へ行ってから、初めてここに来たの?」
「ああ」
「それであの熱烈歓迎なのね…」
夕食後にお茶を飲みながら、オリビアはチャンドラー家の領地屋敷に着いてからの使用人たちの様子を思い出す。
一斉に頭を下げて挨拶した後、ダグラスが「久しぶりだな。皆元気だったか?」と言えば、口々に「元気です」「いや最近腰が痛くて」「ぼく結婚したんですよー」「ダグラス様は元気でしたか?」と言い、またダグラスが「明日には出立する」と言えば「えええ~」と一斉に落胆し、「また帰りにも寄るから」と言えば「おおお~」と一斉に立ち直っていた。
「慕われてるのね、ダグラス」
オリビアが微笑んで言えば、ダグラスは頭を掻いた。
「王宮はやはり王宮だから、領地に来ている時が一番楽に息ができたからな。皆にとっては俺はまだやんちゃな子供なんだろう」
「お兄様とは仲は良いの?」
「ああ。兄とは十歳離れてるから、すごく面倒見てもらった。俺にとっては兄の方が父のような存在だ」
「お母様はどうされているの?」
「俺が学園を卒業する頃に父と和解して、今は意外と両親は仲良くしてるようだ」
「まあ。それは…良かった?うん。良かったわ」
複雑な表情のオリビアを見て、ダグラスはふっと笑った。
「…父は俺とどう接して良いか分からないんだと思う。勘当も、実は口だけで、籍を抜かれてはいないし」
「そう…」
オリビアの父も、オリビアに合わせる顔がないのだろうと母は言った。
「俺がパリヤに付くことで周りから色々噂もされる。今は、俺を勘当する事でチャンドラーの家を守ると共に、俺が憂いなくパリヤに着いて行けるようにしてくれたんだと思っている」
「そう。そうね」
そうだと良い。いつか、蟠りがなくなれば良い。そうオリビアは思った。
-----
「オリビア様はダグラス様の恋人なんですか?」
オリビアの髪を梳きながら、チャンドラー家の侍女が言う。ダグラスより歳上らしい。
チャンドラー家の使用人は皆フレンドリーだ。夕食の席でも、席に着いているのはダグラスとオリビアだけだが、給仕の者も控えた侍女やメイドも混じってわいわい話してとても楽しかった。
通常の使用人としては到底許されないが、小さなダグラスがこれ以上淋しい思いをしないように昔からそうしていたのだろう。
「いいえ、違うわ」
「そうなんですか?お似合いなのに」
「そうかしら?ただ、こちらに用があって一緒に来ただけよ」
「そうですか…残念ですわ。私共は皆、ダグラス様にはかわいい奥さまを迎えて幸せになって頂きたいと思っているんですよ」
かわいい奥さま。ダグラスの。オリビアの胸がズキンと痛む。
「…そうね」
「ですから旦那様には早くダグラス様の勘当を解いて頂きたいんです。今のままではダグラス様がご結婚されても私共には正式には紹介してもらえませんし」
「そうよね…」
侍女が退出し、オリビアは部屋に一人になる。
ドアや窓の鍵を確認し、ベッドに座った。
「眠れるかしら…?」
オリビアは呟く。
睡眠薬はまだある。しかしできれば飲みたくはない。
「ジルを呼ぶ…?ううん」
ダグラスの唯一息ができる場所。そこにジルを呼ぶのは何だか嫌だった。
「一晩くらい寝なくたって平気よ」
微睡んでは、目覚める。
何度目か、目が覚めたオリビアはベッドから起き上がり、窓から外を見た。
雪明かりで空が群青色に見える。
ダグラスの瞳の色みたい。
ダグラスがかわいい令嬢を伴ってこの屋敷に帰る所を想像する。皆に祝福され、皆が笑顔だ。
…私じゃ、そうはならないわ。
懲罰こそ与えられなかったけど、私は罪人だもの。しかも穢れている。…ダグラスだってこんな女と「お似合い」なんて言われてもきっと迷惑だわ。
オリビアの息で窓が曇る。曇りガラスの向こうが群青色に滲む。
「寒いけど、綺麗…」
オリビアは呟いた。
「じゃあ領主様と辺境伯領へ行ってから、初めてここに来たの?」
「ああ」
「それであの熱烈歓迎なのね…」
夕食後にお茶を飲みながら、オリビアはチャンドラー家の領地屋敷に着いてからの使用人たちの様子を思い出す。
一斉に頭を下げて挨拶した後、ダグラスが「久しぶりだな。皆元気だったか?」と言えば、口々に「元気です」「いや最近腰が痛くて」「ぼく結婚したんですよー」「ダグラス様は元気でしたか?」と言い、またダグラスが「明日には出立する」と言えば「えええ~」と一斉に落胆し、「また帰りにも寄るから」と言えば「おおお~」と一斉に立ち直っていた。
「慕われてるのね、ダグラス」
オリビアが微笑んで言えば、ダグラスは頭を掻いた。
「王宮はやはり王宮だから、領地に来ている時が一番楽に息ができたからな。皆にとっては俺はまだやんちゃな子供なんだろう」
「お兄様とは仲は良いの?」
「ああ。兄とは十歳離れてるから、すごく面倒見てもらった。俺にとっては兄の方が父のような存在だ」
「お母様はどうされているの?」
「俺が学園を卒業する頃に父と和解して、今は意外と両親は仲良くしてるようだ」
「まあ。それは…良かった?うん。良かったわ」
複雑な表情のオリビアを見て、ダグラスはふっと笑った。
「…父は俺とどう接して良いか分からないんだと思う。勘当も、実は口だけで、籍を抜かれてはいないし」
「そう…」
オリビアの父も、オリビアに合わせる顔がないのだろうと母は言った。
「俺がパリヤに付くことで周りから色々噂もされる。今は、俺を勘当する事でチャンドラーの家を守ると共に、俺が憂いなくパリヤに着いて行けるようにしてくれたんだと思っている」
「そう。そうね」
そうだと良い。いつか、蟠りがなくなれば良い。そうオリビアは思った。
-----
「オリビア様はダグラス様の恋人なんですか?」
オリビアの髪を梳きながら、チャンドラー家の侍女が言う。ダグラスより歳上らしい。
チャンドラー家の使用人は皆フレンドリーだ。夕食の席でも、席に着いているのはダグラスとオリビアだけだが、給仕の者も控えた侍女やメイドも混じってわいわい話してとても楽しかった。
通常の使用人としては到底許されないが、小さなダグラスがこれ以上淋しい思いをしないように昔からそうしていたのだろう。
「いいえ、違うわ」
「そうなんですか?お似合いなのに」
「そうかしら?ただ、こちらに用があって一緒に来ただけよ」
「そうですか…残念ですわ。私共は皆、ダグラス様にはかわいい奥さまを迎えて幸せになって頂きたいと思っているんですよ」
かわいい奥さま。ダグラスの。オリビアの胸がズキンと痛む。
「…そうね」
「ですから旦那様には早くダグラス様の勘当を解いて頂きたいんです。今のままではダグラス様がご結婚されても私共には正式には紹介してもらえませんし」
「そうよね…」
侍女が退出し、オリビアは部屋に一人になる。
ドアや窓の鍵を確認し、ベッドに座った。
「眠れるかしら…?」
オリビアは呟く。
睡眠薬はまだある。しかしできれば飲みたくはない。
「ジルを呼ぶ…?ううん」
ダグラスの唯一息ができる場所。そこにジルを呼ぶのは何だか嫌だった。
「一晩くらい寝なくたって平気よ」
微睡んでは、目覚める。
何度目か、目が覚めたオリビアはベッドから起き上がり、窓から外を見た。
雪明かりで空が群青色に見える。
ダグラスの瞳の色みたい。
ダグラスがかわいい令嬢を伴ってこの屋敷に帰る所を想像する。皆に祝福され、皆が笑顔だ。
…私じゃ、そうはならないわ。
懲罰こそ与えられなかったけど、私は罪人だもの。しかも穢れている。…ダグラスだってこんな女と「お似合い」なんて言われてもきっと迷惑だわ。
オリビアの息で窓が曇る。曇りガラスの向こうが群青色に滲む。
「寒いけど、綺麗…」
オリビアは呟いた。
5
あなたにおすすめの小説
私が欲しいのはこの皇子!【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
トリスタン公国の第一公女は男勝りで女らしさが全くないラメイラ。
だが好きな男が居る。
その男が、伴侶探しをすると聞き、父にその男が居る国に留学をしたい、と半ば強引に、隣国レングストンにやって来た。
豪快で活発な公女が、その男を振り向かせる事がはたして出来るのか?
※『私は5歳で4人の許嫁になりました』の別編です。
主人公は変わりますが、登場人物は↑の話とほぼ一緒です。
※話が重なるシーンもありますので、ご了承下さい。
※タイムラグが無いように更新をするので、ごちゃごちゃになったらすいません(*ノ>ᴗ<)テヘッ
※中盤で【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】の主人公が出ますので、そちらもその時期に合わせて公開していきます。
※終盤で【流浪の花嫁】の主人公が出ますので、そちらもまたその時期に合わせて公開予定です。
※本編も100話程続きます。
※全ての話を公開後、番外編【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開を予定しています。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
愛しの My Buddy --イケメン准教授に知らぬ間に溺愛されてました--
せせらぎバッタ
恋愛
「俺なんか好きになっちゃいけないけないのになぁ」
大好きな倫理学のイケメン准教授に突撃した女子大生の菜穂。身体中を愛撫され夢見心地になるも、「引き返すなら今だよ。キミの考える普通の恋愛に俺は向かない。キミしだいで、ワンナイトラブに終わる」とすげなくされる。
憧れから恋へ、見守るだけから愛へ、惹かれあう二人の想いはあふれ、どうなる?どうする?
基本、土日更新で全部で12万字くらいになります。
よろしくお願いしますm(__)m
※完結保証
冷酷な王の過剰な純愛
魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、
離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。
マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。
そこへ王都から使者がやってくる。
使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。
王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。
マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。
・エブリスタでも掲載中です
・18禁シーンについては「※」をつけます
・作家になろう、エブリスタで連載しております
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
キズモノ令嬢絶賛発情中♡~乙女ゲームのモブ、ヒロイン・悪役令嬢を押しのけ主役になりあがる
青の雀
恋愛
侯爵令嬢ミッシェル・アインシュタインには、れっきとした婚約者がいるにもかかわらず、ある日、突然、婚約破棄されてしまう
そのショックで、発熱の上、寝込んでしまったのだが、その間に夢の中でこの世界は前世遊んでいた乙女ゲームの世界だときづいてしまう
ただ、残念ながら、乙女ゲームのヒロインでもなく、悪役令嬢でもないセリフもなければ、端役でもない記憶の片隅にもとどめ置かれない完全なるモブとして転生したことに気づいてしまう
婚約者だった相手は、ヒロインに恋をし、それも攻略対象者でもないのに、勝手にヒロインに恋をして、そのためにミッシェルが邪魔になり、捨てたのだ
悲しみのあまり、ミッシェルは神に祈る「どうか、神様、モブでも女の幸せを下さい」
ミッシェルのカラダが一瞬、光に包まれ、以来、いつでもどこでも発情しっぱなしになり攻略対象者はミッシェルのフェロモンにイチコロになるという話になる予定
番外編は、前世記憶持ちの悪役令嬢とコラボしました
覇王に執着される傾国の男装騎士〜忘却の接吻を、愛しき宿敵へ〜
甘塩ます☆
恋愛
男装騎士アーサーは、かつての宿敵・カイル王に捕らわれ、「専属メイド」として屈辱的な奉仕を命じられる。しかし、復讐のために自分を弄ぶはずのカイルが向けたのは、狂気にも似た深い愛だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる