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「つんつるてんだな」
修道院から出て来たオリビアとジルを見て、馬車の前に立っていたダグラスが言った。
ジルは背が高いので、着せられた見習い修道女の制服の袖も裾も丈が短かったのだ。
「…着替えます。また、宿で」
不機嫌な表情のジルが姿を消すと、ダグラスは馬車の扉を開けてオリビアを乗せる。
「マリは、どうだった?」
「修道院ではマーサと名乗っているそうよ。領主様の手紙を渡してこれを預かったわ」
座席に座ったオリビアはマーサから預かったハンカチを取り出す。そこには「いつまでも」と一言書いてあった。
マリーナからパリヤへの「いつまでも待っている」「いつまでも愛している」というメッセージだ。
「そうか…」
ダグラスは安堵したように頷いた。
-----
「ダグラスやルイに怪我はなかった?」
マーサから預かったハンカチを自分のハンカチで包んでバッグへ仕舞い、オリビアは視線を上げてダグラスを見る。
「ああ、俺もルイも大丈夫だ」
「そう…良かった…」
オリビアはホッと息を吐いた。
そのまましばらく沈黙する。
「…あの男は…?」
オリビアが意を決して小さな声で問うと、ダグラスは
「…もうオリビアを狙う事はない」
と優しく微笑んで言う。
それはつまり、ジルが言っていたように「息の根を止めた」という事か。確信的にそう言うという事は、ダグラスはその場面を確認していたか、本人が手を下したか…そう考えたオリビアの目に涙が浮かぶ。
「…ごめんなさい」
「オリビア?」
「私のせいでダグラスに人を……」
相手は罪人とはいえ、そのような罪をダグラスに負わせるつもりはなかった。オリビアは俯いて両手で顔を覆う。
「オリビアのせいじゃない。そうだろう?」
ダグラスの優しい声に涙が溢れる。
「…でも」
オリビアが顔を手で覆ったまま首を横に振ると、ダグラスは
「オリビアのせいじゃない」
と繰り返す。
ダグラスは座席を立つと、オリビアの前で両膝を着く。
「オリビア…触るぞ」
そう言うと、オリビアの手を持ち顔から退かす。
オリビアの顔を下から覗き込む。優しく微笑むと、涙に濡れたオリビアの手の平へ口付けた。
「オリビアを脅かす奴を葬った事、俺は後悔はしない」
ダグラスはオリビアの頬を両手で包むと、唇へ軽く口付ける。
「…ダグラス?」
目を瞬かせるオリビアの頭を抱き寄せ、額を自分の肩へ押し付けた。
「…オリビア、好きだ」
その言葉を聞いて、オリビアの脳裏にチャンドラー家の侍女の言葉が浮かぶ。
「ダグラス様にはかわいいお嫁さんを迎えて幸せになっていただきたいのです」
…駄目。
ダグラスの肩に額を着けたまま、オリビアは強く横に首を振る。涙がパタパタとダグラスの腿へと落ちた。
「…俺では、駄目か?」
違うの、私では駄目なの。
言葉にならず、両手で顔を覆ってただ首を横に振った。
「…そうか」
ダグラスはオリビアの頭を軽くポンポンと叩くと、両手でオリビアの肩を押して起き上がらせる。
「困らせてごめんな」
眉を寄せて、苦し気に、それでも微笑んで見せるダグラスに、オリビアはようやく声を絞り出した。
「…ごめん…なさ…」
「謝る事はない」
ダグラスは自分のハンカチをオリビアの手に握らせ、向かいの座席に座った。
ダグラスは窓の外を眺める。
致命傷となる背中の傷を付けたのはダグラスだ。最期に実際手を下したのはルイだか、ダグラスがルイにそう命令し、その様子の一部始終を見、確実に息絶えるのを確認したのだ。自分が手を下したのと同義だとダグラスは考えている。
オリビアはダグラスが手を汚したのは自分のせいだと思っている。そんなオリビアに「好きだ」と告げた事をダグラスは後悔していた。贖罪で側に居て欲しい訳ではないのだ。
俯いてすすり泣くオリビアを視界の端に捉える。
贖罪でも…俺の気持ちは受け入れられない、という事か。
ダグラスは窓の外に視線を移した。
宿に馬車が着くと、ダグラスは馬車を降りて
「ジル」
と呼ぶ。ダグラスの前に騎士服のジルが音もなく現れる。
「…オリビアを頼む」
そう言うと、振り向く事なく宿へ入って行った。
ジルはため息を吐いて、馬車の座席で俯いてダグラスのハンカチに顔を押し付けているオリビアを見た。
「オリビア様、馬鹿ですね」
オリビアはハンカチから少し顔を上げると、真っ赤な眼でジルを睨む。
ジルは皮肉気に笑うとオリビアに手を差し出した。
「オリビア様もダグラス様を好きな癖に」
「つんつるてんだな」
修道院から出て来たオリビアとジルを見て、馬車の前に立っていたダグラスが言った。
ジルは背が高いので、着せられた見習い修道女の制服の袖も裾も丈が短かったのだ。
「…着替えます。また、宿で」
不機嫌な表情のジルが姿を消すと、ダグラスは馬車の扉を開けてオリビアを乗せる。
「マリは、どうだった?」
「修道院ではマーサと名乗っているそうよ。領主様の手紙を渡してこれを預かったわ」
座席に座ったオリビアはマーサから預かったハンカチを取り出す。そこには「いつまでも」と一言書いてあった。
マリーナからパリヤへの「いつまでも待っている」「いつまでも愛している」というメッセージだ。
「そうか…」
ダグラスは安堵したように頷いた。
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「ダグラスやルイに怪我はなかった?」
マーサから預かったハンカチを自分のハンカチで包んでバッグへ仕舞い、オリビアは視線を上げてダグラスを見る。
「ああ、俺もルイも大丈夫だ」
「そう…良かった…」
オリビアはホッと息を吐いた。
そのまましばらく沈黙する。
「…あの男は…?」
オリビアが意を決して小さな声で問うと、ダグラスは
「…もうオリビアを狙う事はない」
と優しく微笑んで言う。
それはつまり、ジルが言っていたように「息の根を止めた」という事か。確信的にそう言うという事は、ダグラスはその場面を確認していたか、本人が手を下したか…そう考えたオリビアの目に涙が浮かぶ。
「…ごめんなさい」
「オリビア?」
「私のせいでダグラスに人を……」
相手は罪人とはいえ、そのような罪をダグラスに負わせるつもりはなかった。オリビアは俯いて両手で顔を覆う。
「オリビアのせいじゃない。そうだろう?」
ダグラスの優しい声に涙が溢れる。
「…でも」
オリビアが顔を手で覆ったまま首を横に振ると、ダグラスは
「オリビアのせいじゃない」
と繰り返す。
ダグラスは座席を立つと、オリビアの前で両膝を着く。
「オリビア…触るぞ」
そう言うと、オリビアの手を持ち顔から退かす。
オリビアの顔を下から覗き込む。優しく微笑むと、涙に濡れたオリビアの手の平へ口付けた。
「オリビアを脅かす奴を葬った事、俺は後悔はしない」
ダグラスはオリビアの頬を両手で包むと、唇へ軽く口付ける。
「…ダグラス?」
目を瞬かせるオリビアの頭を抱き寄せ、額を自分の肩へ押し付けた。
「…オリビア、好きだ」
その言葉を聞いて、オリビアの脳裏にチャンドラー家の侍女の言葉が浮かぶ。
「ダグラス様にはかわいいお嫁さんを迎えて幸せになっていただきたいのです」
…駄目。
ダグラスの肩に額を着けたまま、オリビアは強く横に首を振る。涙がパタパタとダグラスの腿へと落ちた。
「…俺では、駄目か?」
違うの、私では駄目なの。
言葉にならず、両手で顔を覆ってただ首を横に振った。
「…そうか」
ダグラスはオリビアの頭を軽くポンポンと叩くと、両手でオリビアの肩を押して起き上がらせる。
「困らせてごめんな」
眉を寄せて、苦し気に、それでも微笑んで見せるダグラスに、オリビアはようやく声を絞り出した。
「…ごめん…なさ…」
「謝る事はない」
ダグラスは自分のハンカチをオリビアの手に握らせ、向かいの座席に座った。
ダグラスは窓の外を眺める。
致命傷となる背中の傷を付けたのはダグラスだ。最期に実際手を下したのはルイだか、ダグラスがルイにそう命令し、その様子の一部始終を見、確実に息絶えるのを確認したのだ。自分が手を下したのと同義だとダグラスは考えている。
オリビアはダグラスが手を汚したのは自分のせいだと思っている。そんなオリビアに「好きだ」と告げた事をダグラスは後悔していた。贖罪で側に居て欲しい訳ではないのだ。
俯いてすすり泣くオリビアを視界の端に捉える。
贖罪でも…俺の気持ちは受け入れられない、という事か。
ダグラスは窓の外に視線を移した。
宿に馬車が着くと、ダグラスは馬車を降りて
「ジル」
と呼ぶ。ダグラスの前に騎士服のジルが音もなく現れる。
「…オリビアを頼む」
そう言うと、振り向く事なく宿へ入って行った。
ジルはため息を吐いて、馬車の座席で俯いてダグラスのハンカチに顔を押し付けているオリビアを見た。
「オリビア様、馬鹿ですね」
オリビアはハンカチから少し顔を上げると、真っ赤な眼でジルを睨む。
ジルは皮肉気に笑うとオリビアに手を差し出した。
「オリビア様もダグラス様を好きな癖に」
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