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翌日、チャンドラー家の領地屋敷の前でオリビアの乗る馬車をダグラスが見送る。
「じゃあ気をつけて」と言ったダグラスは眼鏡を掛けていて、瞳の奥が見えなかった。
「良かったんですか?オリビア様」
昨日までダグラスが座っていた座席にはジルが居た。ダグラスと同じように足を組んでいる。
「だって…ダグラスは私と一緒に居たくないって、事でしょう?」
「まあある意味そうですかね」
窓の外を流れる景色が段々早くなって、それだけ離れて行っているんだ、とオリビアは思った。
それから、滞りなく日々は過ぎ、段々と積もった雪も少なくなり、あと一時間余りでパリスの屋敷に到着する。
「領主様のお屋敷から王都までってどのくらいの日数が掛かるの?」
馬車の窓から外を見ながらオリビアが言うと、ジルは肩を竦める。
「『王都から領主様のお屋敷まで』ですよね?」
オリビアはジルを軽く睨むと
「同じ事じゃない」
と頬を赤くしながら言う。
「意味は同じですけどね。馬車だと大体十日ですかね。馬だと三日は短縮できますが」
「そう」
「ちなみにダグラス様が王都を出たと、ルイから連絡を貰ったのは四日前ですね」
「え?ジル、ルイと連絡取ってるの?」
オリビアが驚いて振り向くと、ジルはしれっと「話してなかったですか?」と言う。
「『裏』には情報網が張り巡らされてて、色々な情報が駆け巡ってますからね」
四日前と言う事は、ダグラスが領主様の屋敷へは戻るにはまだ少なくとも三日はかかるんだわ。
オリビアは今日の夕方、パリスの屋敷へ到着し、明日、遅くとも明後日にはセヴァリー家に戻るべくパリスの屋敷を出発するだろう。
やっぱり、ダグラスに避けられているんだわ。
オリビアは胸の痛みを押し殺し、そっと目を閉じた。
-----
「オリビア、お帰り」
屋敷に着いたオリビアをパリスが迎えてくれる。まだ夕方で日があるからか、薄っすら色の着いた眼鏡を掛けていた。
「ただいま戻りました」
「長旅で疲れたろう?とりあえず、休んで。詳しい話は夕食の席にでもしよう」
すぐにでも報告を聞きたいだろうに。それともパリスも不安な気持ちで引き伸ばしたのかも知れない。
オリビアは部屋に案内してくれたパリスにお礼を言いながら、少しでも安心してくれると良いと思い、笑顔を向けた。
夕食の席に着くと、オリビアはバッグからハンカチを取り出す。ハンカチを開くと、中からもう一枚ハンカチが出て来る。
パリスはオリビアの手元をじっと見つめていた。
「領主様、これは、マリから預かった物です」
オリビアが両手でハンカチを持ち、パリスの前に差し出すと、パリスは小さく震える手でハンカチを取った。
「ありがとう…オリビア」
パリスはそこに書かれた文字を読んで、目を閉じる。
「…マリは、元気だったかい?」
「はい。修道院ではマーサと名乗っているそうです」
「そう。マーサもかわいい名前だね」
オリビアは「はい」と言って笑うと、
「マーサは、盛式請願はせずに、パリス様をお待ちすると、そう伝えて欲しいと言いました」
そう告げる。
「…ありがとう。オリビア」
「いえ、私は何も…」
「いや…オリビアが行ってくれて…良かった」
パリスの伏せた瞼から、涙が一筋流れた。
夜になり、寝支度を済ませたオリビアは、ドアと窓の鍵を確認し、ベッドに入る。
ところが、いつもならこのタイミングで現れるジルが姿を現さない。
「ジル…?」
名を呼んでも辺りは静まり返っている。
ジルが呼んでも来ないなんて…。
オリビアは不安に駆られて起き上がると、ガウンを羽織る。
嫌な予感がひしひしとした。
すると、音もなくオリビアの前に黒ずくめの男が現れた。
「ひっ」
オリビアが悲鳴を発する間もなく、男はオリビアの口を塞ぐと後ろに回り、腕でオリビアの首を圧迫した。
いや。ジル。
助けて…ダグラス…!
オリビアは意識を失い、足から力が抜ける。
男はオリビアの身体を小脇に抱えるようにして、部屋から姿を消した。
翌日、チャンドラー家の領地屋敷の前でオリビアの乗る馬車をダグラスが見送る。
「じゃあ気をつけて」と言ったダグラスは眼鏡を掛けていて、瞳の奥が見えなかった。
「良かったんですか?オリビア様」
昨日までダグラスが座っていた座席にはジルが居た。ダグラスと同じように足を組んでいる。
「だって…ダグラスは私と一緒に居たくないって、事でしょう?」
「まあある意味そうですかね」
窓の外を流れる景色が段々早くなって、それだけ離れて行っているんだ、とオリビアは思った。
それから、滞りなく日々は過ぎ、段々と積もった雪も少なくなり、あと一時間余りでパリスの屋敷に到着する。
「領主様のお屋敷から王都までってどのくらいの日数が掛かるの?」
馬車の窓から外を見ながらオリビアが言うと、ジルは肩を竦める。
「『王都から領主様のお屋敷まで』ですよね?」
オリビアはジルを軽く睨むと
「同じ事じゃない」
と頬を赤くしながら言う。
「意味は同じですけどね。馬車だと大体十日ですかね。馬だと三日は短縮できますが」
「そう」
「ちなみにダグラス様が王都を出たと、ルイから連絡を貰ったのは四日前ですね」
「え?ジル、ルイと連絡取ってるの?」
オリビアが驚いて振り向くと、ジルはしれっと「話してなかったですか?」と言う。
「『裏』には情報網が張り巡らされてて、色々な情報が駆け巡ってますからね」
四日前と言う事は、ダグラスが領主様の屋敷へは戻るにはまだ少なくとも三日はかかるんだわ。
オリビアは今日の夕方、パリスの屋敷へ到着し、明日、遅くとも明後日にはセヴァリー家に戻るべくパリスの屋敷を出発するだろう。
やっぱり、ダグラスに避けられているんだわ。
オリビアは胸の痛みを押し殺し、そっと目を閉じた。
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「オリビア、お帰り」
屋敷に着いたオリビアをパリスが迎えてくれる。まだ夕方で日があるからか、薄っすら色の着いた眼鏡を掛けていた。
「ただいま戻りました」
「長旅で疲れたろう?とりあえず、休んで。詳しい話は夕食の席にでもしよう」
すぐにでも報告を聞きたいだろうに。それともパリスも不安な気持ちで引き伸ばしたのかも知れない。
オリビアは部屋に案内してくれたパリスにお礼を言いながら、少しでも安心してくれると良いと思い、笑顔を向けた。
夕食の席に着くと、オリビアはバッグからハンカチを取り出す。ハンカチを開くと、中からもう一枚ハンカチが出て来る。
パリスはオリビアの手元をじっと見つめていた。
「領主様、これは、マリから預かった物です」
オリビアが両手でハンカチを持ち、パリスの前に差し出すと、パリスは小さく震える手でハンカチを取った。
「ありがとう…オリビア」
パリスはそこに書かれた文字を読んで、目を閉じる。
「…マリは、元気だったかい?」
「はい。修道院ではマーサと名乗っているそうです」
「そう。マーサもかわいい名前だね」
オリビアは「はい」と言って笑うと、
「マーサは、盛式請願はせずに、パリス様をお待ちすると、そう伝えて欲しいと言いました」
そう告げる。
「…ありがとう。オリビア」
「いえ、私は何も…」
「いや…オリビアが行ってくれて…良かった」
パリスの伏せた瞼から、涙が一筋流れた。
夜になり、寝支度を済ませたオリビアは、ドアと窓の鍵を確認し、ベッドに入る。
ところが、いつもならこのタイミングで現れるジルが姿を現さない。
「ジル…?」
名を呼んでも辺りは静まり返っている。
ジルが呼んでも来ないなんて…。
オリビアは不安に駆られて起き上がると、ガウンを羽織る。
嫌な予感がひしひしとした。
すると、音もなくオリビアの前に黒ずくめの男が現れた。
「ひっ」
オリビアが悲鳴を発する間もなく、男はオリビアの口を塞ぐと後ろに回り、腕でオリビアの首を圧迫した。
いや。ジル。
助けて…ダグラス…!
オリビアは意識を失い、足から力が抜ける。
男はオリビアの身体を小脇に抱えるようにして、部屋から姿を消した。
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