没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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 ダグラスはオリビアにガウンを羽織らせると、抱き上げ、パリスの屋敷の自分の部屋へと連れ帰った。
 オリビアをベッドに降ろすと、医者を呼ぶというダグラスに、オリビアは大丈夫だから要らないと言い、暫く言い争ったが、ダグラスが折れる。
「気分が悪くなったりしたらちゃんと言えよ」
 パリスに叩かれたオリビアの頬に、濡れたタオルを当てながらダグラスが言う。
「うん。わかった。…ねえ…ジルは?」
 オリビアはベッドの側に椅子を持って来て座ったダグラスに意を決して問うた。
「…まさか」
 オリビアが膝に掛けられた毛布をギュッと握ると
「少し怪我はしてるが、大丈夫だ」
 と、握った手の上にダグラスが手を重ねた。
「本当?」
「ああ。ジルがオリビアの危機を俺に知らせてくれたんだ」
「ジルが?」
「俺は早駆けで王都から戻っていたから、隣町で、知らせに来たジルと行き合った」
 ジルは腕を斬られて、流れる血をそのままに馬で駆けて来たそうだ。
「そのまま隣町の医者に押し込んで来たから、今頃迎えに来たルイに怒ってるだろうな」
 ダグラスが苦笑いする。
 オリビアもそれを聞いて本当にジルは大丈夫なんだと安堵した。
「…すまない。オリビア」
 オリビアの手に自分の手を重ねたまま、ダグラスは、俯いて言う。
「どうしてダグラスが謝るの?」
「あの男…ガイアがオリビアを諦めていないと聞いて、すぐに王都を立ったんだが…別行動しなければオリビアを恐ろしい目に合わせなくて済んだのに」
「ダグラスのせいじゃ…」
「しかし、俺はもう、オリビアに怖い思いをして欲しくなかったのに」
 ダグラスが重ねた手に額を着ける。
「…怖い思いなら今もしてるわ」
 オリビアが言うと、ダグラスはバッと顔を上げて、オリビアの手に重ねた自分の手を退けると顔の横へ上げた。
「違うの。ダグラスに避けられるのも怖いし、ダグラスがかわいい奥さまを迎えるのも怖いし、ダグラスともう二度と会えないのかと思うと…すごく怖くて…」
 オリビアの眼から涙が溢れた。
「オリビア?」
「私じゃ、駄目なの。わかってるの。犯罪者だし、穢れてるし…」
 ぽたぽたと涙が落ちる。
「…でも、ダグラスが好きなの…」
 オリビアが涙で濡れた瞳でダグラスを見る。
 ダグラスは手を伸ばすと、オリビアを抱きしめた。
「…すまない。思わず。…オリビア、怖い?」
 ダグラスはオリビアを抱きしめたまま言う。
「ううん」
 オリビアは小さく首を振ると、ダグラスの背中に手を回す。
「ダグラスは怖くない」
「…オリビア、キスしても?」
「……」
「嫌だと言っても怒ったりしない」
「…ガイア・ハモンドと間接キスになるわ」
 ダグラスは抱きしめる腕を緩めてオリビアの額に自分の額を合わせる。
「じゃあ尚更、上書きするさ」
 そう言うと、オリビアに口付けた。

-----

「そういえば、オリビア『私じゃ駄目』とは、何故だ?」
 ダグラスはオリビアを抱きしめたまま言う。
「…今聞くの、狡くない?」
「そうか?」
 オリビアはダグラスの肩に額を押し付ける。
「…私なんて、罰はなかったけど誘拐事件を起こした犯罪者だし…三年前、誘拐された時…穢されてるし…」
 オリビアが小さな声で言うと、ダグラスはますますぎゅうっとオリビアを抱きしめた。
「…俺だって人を殺めた事もある。それに清廉じゃない」
「え?」
「女性経験はある。何度か」
「何度か…」
「何度、か」
 オリビアはダグラスの背中に回した手で、ダグラスの背中を叩く。
「…嫌だ」
「ん?」
「ダグラスが他の女の人と…そういう事したの、嫌だ」
「でも過去の事だから変えられない」
「…うん」
「俺は、誘拐事件の事も、三年前の事もあった上で、傷付いて怯えているオリビアを好きになった。もう二度と怖い思いはさせたくないし、ずっと守ってやりたい」
 ダグラスの手がオリビアの頭を撫でる。
「それに、オリビアは穢れてなんかいないよ。もし今夜、あの男に…そうされていたとしたら、俺はあの男を生かしてはおかないが、だからと言ってオリビアが穢れたとは思わない」
「ダグラス…」
「うん?」
 オリビアはダグラスの背中に回した手に力を入れる。
「…上書き、して」
 消えそうな声でそう呟いた。

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