11 / 25
10
しおりを挟む
10
【教師と生徒、男爵令息と公爵令嬢の禁断愛!】
応接室のテーブルに置かれたそんなタイトルの新聞記事の原稿を、私がソファに座って眺めていると、向かい側に座っているネイト様がその原稿をサッと手に取り、折り畳むと上着の内ポケットへと入れる。
「この記事は無事に差し留めました」
「はい。ありがとうございます」
私が頭を下げると、ネイト様も私に頭を下げた。
「この誘拐事件については表沙汰にはしません。つきましては、私が関係者に事情聴取をし、あの男は内々に処罰する事になりましたのでご承知おきください」
「はい。わかりました」
ネイト様が私に事情を聞くために我が家を訪れるのに、騎士の制服では仕事中だとわかってしまうため、今日のネイト様は白いシャツに白灰色のベストと濃灰色のスラックスにテーラードジャケットという姿だ。
「二年生の時、ロンダム先生の授業は受けましたけど、それだけで。本当に私、先生に対して特別な対応なんてした事はないんです」
私が何か気を持たせるような事をしたんだろうか。あれから二日、ずっと考えてみたけど、何も心当たりはなかった。
「偏執狂者とはそういうものです。クラリッサ嬢は全く悪くありません」
ネイト様が強く言い切ってくださって、少し安心して息を吐く。
「寮を狙われたのは私の落ち度です。クラリッサ嬢に恐ろしい思いをさせてしまって申し訳ありません」
眉を顰めたネイト様が両膝に手を置いて頭を下げようとしたので、私は慌ててそれを止めた。
「違います!ネイト様は私を助けてくださいました。それで充分で、落ち度なんかありません」
「しかし…」
「ありません!」
キッパリと言うと、ネイト様が苦笑いを浮かべる。
…ああ、この方の精悍な顔が、笑うと少しかわいくなるの、好きだな。
「あの…ネイト様も偏執狂者に何かされた事があるんですか?」
私がそう言うと、ネイト様が少し目を見開いて私を見た。
「…何故ですか?」
「『偏執狂者が許せない』って仰ってましたし、近衛騎士様は人気がありますし、何かあったのかな?と思って…」
聞いちゃいけなかったかも。と声が段々小さくなってしまう。
「私が何かされた訳ではないです」
ネイト様はそれだけ言うとニコリと笑う。
それは愛想笑いだとわかる笑い方で。
それでも「やっぱり笑うとかわいい」と心の中で悶えつつ、これ以上は聞けないな、と私は思った。
-----
「クラリッサ!」
馬車を降りると、馬車止めの奥のベンチに座っていたイブが、大きな紙袋を片手に抱え直して立ち上がり、手を振りながら駆けて来る。
「イブ!走ったりして大丈夫なの!?」
「十日も経ったんだもの、もう平気よ」
イブは自分のお腹をポンと叩く。でもイブが今日着ているワンピースはエンパイアラインで、蹴られた所を締め付けないようにしてるのが見て取れた。
「私が無傷だったのにイブが痛い思いをするなんて…」
「クラリッサだって、物理的には無傷だったけど、心の傷は負ったでしょ?それより、それより、それ、サンドイッチ?沢山あるわね」
私が持っているバスケットをイブが指す。
「だって沢山食べて欲しいもの」
両手で下げていたバスケットを胸の辺りまで上げた。
「そうね」
イブが持っている紙袋にもイブが焼いたクッキーがギッシリ詰まっているはず。
今は、イブと一緒に近衛騎士団の第四分団へ私を探してくれたお礼の差し入れに来た処。
私が先生に攫われた事件は表向きはなかった事になっているので、大袈裟なお礼はできない。けど何かお礼をしたいと言ったらネイト様とジョーンズ様が差し入れを提案してくださったのだ。
「あのねクラリッサ、私、ジョーンズ様の制服姿に『一目惚れ』して婚約したって言ったじゃない?」
近衛騎士団の詰所へ向かって歩きながら、イブが言う。
「うん」
「ジョーンズ様は昔から知ってるし、私とジョーンズ様って結構仲が良いと思うの」
「そうね」
うん。確かに。
私が頷くと、イブは「でもね」と言って俯いた。
「昔から知ってる分…ジョーンズ様が私の事をちゃんと女性として好きでいてくれるのか、妹みたいなものなのか…よくわからなかったの。でもこの事件で私が怪我をしたと知って駆け付けてくださったジョーンズ様が『俺はイブが大好きだ』って……」
下を向いて話すイブの耳が赤い。
「そういえばあの時、ジョーンズ様は窓ガラスを割って入って来て『俺のイブに怪我させやがって!』ってロンダム先生を思い切り蹴り飛ばしてたわ」
顎に指を当てて思い出しながら言うと、イブが顔を上げて私を見る。
「『俺のイブ』?」
「『俺のイブ』」
繰り返すと、イブの頬が真っ赤に染まった。
【教師と生徒、男爵令息と公爵令嬢の禁断愛!】
応接室のテーブルに置かれたそんなタイトルの新聞記事の原稿を、私がソファに座って眺めていると、向かい側に座っているネイト様がその原稿をサッと手に取り、折り畳むと上着の内ポケットへと入れる。
「この記事は無事に差し留めました」
「はい。ありがとうございます」
私が頭を下げると、ネイト様も私に頭を下げた。
「この誘拐事件については表沙汰にはしません。つきましては、私が関係者に事情聴取をし、あの男は内々に処罰する事になりましたのでご承知おきください」
「はい。わかりました」
ネイト様が私に事情を聞くために我が家を訪れるのに、騎士の制服では仕事中だとわかってしまうため、今日のネイト様は白いシャツに白灰色のベストと濃灰色のスラックスにテーラードジャケットという姿だ。
「二年生の時、ロンダム先生の授業は受けましたけど、それだけで。本当に私、先生に対して特別な対応なんてした事はないんです」
私が何か気を持たせるような事をしたんだろうか。あれから二日、ずっと考えてみたけど、何も心当たりはなかった。
「偏執狂者とはそういうものです。クラリッサ嬢は全く悪くありません」
ネイト様が強く言い切ってくださって、少し安心して息を吐く。
「寮を狙われたのは私の落ち度です。クラリッサ嬢に恐ろしい思いをさせてしまって申し訳ありません」
眉を顰めたネイト様が両膝に手を置いて頭を下げようとしたので、私は慌ててそれを止めた。
「違います!ネイト様は私を助けてくださいました。それで充分で、落ち度なんかありません」
「しかし…」
「ありません!」
キッパリと言うと、ネイト様が苦笑いを浮かべる。
…ああ、この方の精悍な顔が、笑うと少しかわいくなるの、好きだな。
「あの…ネイト様も偏執狂者に何かされた事があるんですか?」
私がそう言うと、ネイト様が少し目を見開いて私を見た。
「…何故ですか?」
「『偏執狂者が許せない』って仰ってましたし、近衛騎士様は人気がありますし、何かあったのかな?と思って…」
聞いちゃいけなかったかも。と声が段々小さくなってしまう。
「私が何かされた訳ではないです」
ネイト様はそれだけ言うとニコリと笑う。
それは愛想笑いだとわかる笑い方で。
それでも「やっぱり笑うとかわいい」と心の中で悶えつつ、これ以上は聞けないな、と私は思った。
-----
「クラリッサ!」
馬車を降りると、馬車止めの奥のベンチに座っていたイブが、大きな紙袋を片手に抱え直して立ち上がり、手を振りながら駆けて来る。
「イブ!走ったりして大丈夫なの!?」
「十日も経ったんだもの、もう平気よ」
イブは自分のお腹をポンと叩く。でもイブが今日着ているワンピースはエンパイアラインで、蹴られた所を締め付けないようにしてるのが見て取れた。
「私が無傷だったのにイブが痛い思いをするなんて…」
「クラリッサだって、物理的には無傷だったけど、心の傷は負ったでしょ?それより、それより、それ、サンドイッチ?沢山あるわね」
私が持っているバスケットをイブが指す。
「だって沢山食べて欲しいもの」
両手で下げていたバスケットを胸の辺りまで上げた。
「そうね」
イブが持っている紙袋にもイブが焼いたクッキーがギッシリ詰まっているはず。
今は、イブと一緒に近衛騎士団の第四分団へ私を探してくれたお礼の差し入れに来た処。
私が先生に攫われた事件は表向きはなかった事になっているので、大袈裟なお礼はできない。けど何かお礼をしたいと言ったらネイト様とジョーンズ様が差し入れを提案してくださったのだ。
「あのねクラリッサ、私、ジョーンズ様の制服姿に『一目惚れ』して婚約したって言ったじゃない?」
近衛騎士団の詰所へ向かって歩きながら、イブが言う。
「うん」
「ジョーンズ様は昔から知ってるし、私とジョーンズ様って結構仲が良いと思うの」
「そうね」
うん。確かに。
私が頷くと、イブは「でもね」と言って俯いた。
「昔から知ってる分…ジョーンズ様が私の事をちゃんと女性として好きでいてくれるのか、妹みたいなものなのか…よくわからなかったの。でもこの事件で私が怪我をしたと知って駆け付けてくださったジョーンズ様が『俺はイブが大好きだ』って……」
下を向いて話すイブの耳が赤い。
「そういえばあの時、ジョーンズ様は窓ガラスを割って入って来て『俺のイブに怪我させやがって!』ってロンダム先生を思い切り蹴り飛ばしてたわ」
顎に指を当てて思い出しながら言うと、イブが顔を上げて私を見る。
「『俺のイブ』?」
「『俺のイブ』」
繰り返すと、イブの頬が真っ赤に染まった。
9
あなたにおすすめの小説
私が育てたのは駄犬か、それとも忠犬か 〜結婚を断ったのに麗しの騎士様に捕まっています〜
日室千種・ちぐ
恋愛
ランドリック・ゼンゲンは将来を約束された上級騎士であり、麗しの貴公子だ。かつて流した浮名は数知れず、だが真の恋の相手は従姉妹で、その結婚を邪魔しようとしたと噂されている。成人前からゼンゲン侯爵家預かりとなっている子爵家の娘ジョゼットは、とある事情でランドリックと親しんでおり、その噂が嘘だと知っている。彼は人の心に鈍感であることに悩みつつも向き合う、真の努力家であり、それでもなお自分に自信が持てないことも、知っていて、密かに心惹かれていた。だが、そのランドリックとの結婚の話を持ちかけられたジョゼットは、彼が自分を女性として見ていないことに、いずれ耐えられなくなるはずと、断る決断をしたのだが――。
(なろう版ではなく、やや大人向け版です)
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。
稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」
兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。
「取引……ですか?」
「ああ、私と結婚してほしい」
私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか……
ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。
* * * * * * * * * * * *
青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。
最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。
リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。
※ゆる〜い設定です。
※完結保証。
※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる