ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん

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【教師と生徒、男爵令息と公爵令嬢の禁断愛!】
 応接室のテーブルに置かれたそんなタイトルの新聞記事の原稿を、私がソファに座って眺めていると、向かい側に座っているネイト様がその原稿をサッと手に取り、折り畳むと上着の内ポケットへと入れる。
「この記事は無事に差し留めました」 
「はい。ありがとうございます」
 私が頭を下げると、ネイト様も私に頭を下げた。
「この誘拐事件については表沙汰にはしません。つきましては、私が関係者に事情聴取をし、あの男は内々に処罰する事になりましたのでご承知おきください」
「はい。わかりました」
 ネイト様が私に事情を聞くために我が家を訪れるのに、騎士の制服では仕事中だとわかってしまうため、今日のネイト様は白いシャツに白灰色のベストと濃灰色のスラックスにテーラードジャケットという姿だ。

「二年生の時、ロンダム先生の授業は受けましたけど、それだけで。本当に私、先生に対して特別な対応なんてした事はないんです」
 私が何か気を持たせるような事をしたんだろうか。あれから二日、ずっと考えてみたけど、何も心当たりはなかった。
「偏執狂者とはそういうものです。クラリッサ嬢は全く悪くありません」
 ネイト様が強く言い切ってくださって、少し安心して息を吐く。
「寮を狙われたのは私の落ち度です。クラリッサ嬢に恐ろしい思いをさせてしまって申し訳ありません」
 眉を顰めたネイト様が両膝に手を置いて頭を下げようとしたので、私は慌ててそれを止めた。
「違います!ネイト様は私を助けてくださいました。それで充分で、落ち度なんかありません」
「しかし…」
「ありません!」
 キッパリと言うと、ネイト様が苦笑いを浮かべる。
 …ああ、この方の精悍な顔が、笑うと少しかわいくなるの、好きだな。

「あの…ネイト様も偏執狂者に何かされた事があるんですか?」
 私がそう言うと、ネイト様が少し目を見開いて私を見た。
「…何故ですか?」
「『偏執狂者が許せない』って仰ってましたし、近衛騎士様は人気がありますし、何かあったのかな?と思って…」
 聞いちゃいけなかったかも。と声が段々小さくなってしまう。
「私が何かされた訳ではないです」
 ネイト様はそれだけ言うとニコリと笑う。
 それは愛想笑いだとわかる笑い方で。
 それでも「やっぱり笑うとかわいい」と心の中で悶えつつ、これ以上は聞けないな、と私は思った。

-----

「クラリッサ!」
 馬車を降りると、馬車止めの奥のベンチに座っていたイブが、大きな紙袋を片手に抱え直して立ち上がり、手を振りながら駆けて来る。
「イブ!走ったりして大丈夫なの!?」
「十日も経ったんだもの、もう平気よ」
 イブは自分のお腹をポンと叩く。でもイブが今日着ているワンピースはエンパイアラインで、蹴られた所を締め付けないようにしてるのが見て取れた。
「私が無傷だったのにイブが痛い思いをするなんて…」
「クラリッサだって、物理的には無傷だったけど、心の傷は負ったでしょ?それより、それより、それ、サンドイッチ?沢山あるわね」
 私が持っているバスケットをイブが指す。
「だって沢山食べて欲しいもの」
 両手で下げていたバスケットを胸の辺りまで上げた。
「そうね」
 イブが持っている紙袋にもイブが焼いたクッキーがギッシリ詰まっているはず。
 今は、イブと一緒に近衛騎士団の第四分団へ私を探してくれたお礼の差し入れに来た処。
 私が先生に攫われた事件は表向きはなかった事になっているので、大袈裟なお礼はできない。けど何かお礼をしたいと言ったらネイト様とジョーンズ様が差し入れを提案してくださったのだ。

「あのねクラリッサ、私、ジョーンズ様の制服姿に『一目惚れ』して婚約したって言ったじゃない?」
 近衛騎士団の詰所へ向かって歩きながら、イブが言う。
「うん」
「ジョーンズ様は昔から知ってるし、私とジョーンズ様って結構仲が良いと思うの」
「そうね」
 うん。確かに。
 私が頷くと、イブは「でもね」と言って俯いた。
「昔から知ってる分…ジョーンズ様が私の事をちゃんと女性として好きでいてくれるのか、妹みたいなものなのか…よくわからなかったの。でもこの事件で私が怪我をしたと知って駆け付けてくださったジョーンズ様が『俺はイブが大好きだ』って……」
 下を向いて話すイブの耳が赤い。
「そういえばあの時、ジョーンズ様は窓ガラスを割って入って来て『俺のイブに怪我させやがって!』ってロンダム先生を思い切り蹴り飛ばしてたわ」
 顎に指を当てて思い出しながら言うと、イブが顔を上げて私を見る。
「『俺のイブ』?」
「『俺のイブ』」
 繰り返すと、イブの頬が真っ赤に染まった。



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