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「マルセル公爵家の料理人は腕が良いですね」
「本当に普通のサンドイッチなのに凄く美味しいです」
第四分団詰所の分団長の執務室、そこに置かれたソファセットでクラリッサ嬢が近衛騎士様たちに囲まれている。
近衛騎士は貴族令息ばかり…とはいえ、詰所へ若い女性が来る事など滅多にない。しかも美女。婚約者のいない公爵令嬢に若い団員は浮き足立っても仕方がない。
イブ嬢はジョーンズがとっとと皆から隔離して副団長の席を占領し二人の世界に入っている。ちなみにジョーンズは副団長ではない。
「このパンは私が焼いたんです。中身は料理人ですけど」
ニコニコと団員に対応するクラリッサ嬢を分団長の執務机から眺めていた俺は、クラリッサ嬢の言葉に手に持っていたサンドイッチに視線を落とした。
パンを、焼いた?
「ええ!?クラリッサ嬢がパンを焼かれたんですか?」
「クラリッサ嬢がご自分で?このパンを?」
「はい」
「道理で美味しいと思いました!」
「プロみたいですよ!クラリッサ嬢はすごいですね!」
「クラリッサ嬢が焼いたパンを食べられるなんて感激です!」
……?
何かザラリとした物が胸の中に生まれた。気がする。
「ダンヴァーズ分団長、王太子妃殿下がお呼びです……って、どうしたんですか?コレ」
執務室に入って来た第三分団の騎士が、ソファに群がる団員たちを目にして驚いて言った。団員に囲まれすぎてクラリッサ嬢の姿は見えていないようだ。
「ああ…ちょっとな。妃殿下にすぐ行くと伝えておいてくれ」
「はい」
第三分団の騎士が出て行ったのを確認して、俺は立ち上がる。
「お前ら、許可なく令嬢を名前で呼ぶな。それに近いし、馴れ馴れしくしすぎだ。クラリッサ嬢は……」
言い掛けて、ハッとして言葉を止めた。
クラリッサ嬢が不思議そうに俺を見ている。
「…いや。俺は妃殿下の所へ行って来る。休憩が終われば各自持ち場に戻るように」
そう言い置いて執務室を出た。
廊下を歩きながら口元に手を当てる。
俺は、今何を言おうとした?「クラリッサ嬢は俺の婚約者候補だ」と言おうとしなかったか?
警護のための便宜上の婚約者候補だ。第四分団の者はそれを知っているから抑止になる訳がない。いや、そもそも団員たちがクラリッサ嬢に近付くのを俺が阻止する必要があるか?
……阻止したかったという事か?俺が。
-----
「お前ら」とか、助けに来てくださった時も「大丈夫か?」「遅くなってすまない」って、いつもの私に対する丁寧な言葉遣いとは違ってて。あれがネイト様の素なのね。
それに「俺」!「俺」って………か…格好良いぃ…
そんな事を考えながらネイト様が出て行った扉を眺めていた私の目の前で、隣に座っている第四分団員の騎士様が手を振った。
「クラリッサ嬢…いえマルセル嬢?」
「すみません。馴れ馴れしく名前で呼んでしまって」
「マルセル嬢にお近付きになれた気がして舞い上がってしまいました」
周りの騎士様たちが口々に謝ってくれる。
名前で呼ばれるの、別に嫌じゃないんだけど…でもネイト様が「呼ぶな」って仰ったし…何となく、何となくだけど……独占欲、みたいなの、を、感じたり……
いえ。もちろん気のせいなのはわかってる。でも敢えて「名前で呼んでもいい」とは言いたくない気分だわ。
「もしかして、マルセル嬢もダンヴァーズ分団長のファンですか?」
騎士様の一人が言った。
「え?ええ」
私が頷くと、騎士様は「あーあ」と天を仰ぐ。
「やっぱりなぁ。分団長、独身で見目も良いし、強いし、出世頭だし、人気あるよなあ」
「近衛の中でも一番人気だろ?」
「一番は騎士団長じゃないか?」
「いやいや、ファンという意味では団長や第一分団長も凄いけど、やっぱりダンヴァーズ分団長は独身なのが大きいよ。一部の令嬢は本気で結婚相手として狙ってるし」
「でもダンヴァーズ分団長は、アレだろ?王太子妃殿下」
「…ぇ」
ピクッと思わず反応してしまった。
騎士様たちは頓着せずに話し続ける。
「それは単なる噂だろ?」
「でも『ダンヴァーズ分団長と王太子妃殿下は幼なじみで恋仲だった』って噂、ずっと囁かれ続けてるって事は、実は真実なのかも」
「だから分団長は結婚しないのか?」
王太子妃殿下と、幼なじみで、恋仲?ネイト様が?
「妃殿下によく呼ばれるし、呼ばれたら最優先ですぐ行くし、妃殿下は今はただの幼なじみと思っていても、分団長の方が諦められない、とかありそうじゃん」
ネイト様が、王太子妃殿下を、好き?
「やめろよ。いい加減不敬だぞ!」
副分団長の席でイブと話していたジョーンズ様が立ち上がる。
「第四分団の分団長が王太子妃殿下に呼ばれたら最優先で駆け付けるのは当たり前の事だろ」
ジョーンズ様が言うと、騎士様たちは「それはそうだ」と、その話はそこで終わった。
「マルセル公爵家の料理人は腕が良いですね」
「本当に普通のサンドイッチなのに凄く美味しいです」
第四分団詰所の分団長の執務室、そこに置かれたソファセットでクラリッサ嬢が近衛騎士様たちに囲まれている。
近衛騎士は貴族令息ばかり…とはいえ、詰所へ若い女性が来る事など滅多にない。しかも美女。婚約者のいない公爵令嬢に若い団員は浮き足立っても仕方がない。
イブ嬢はジョーンズがとっとと皆から隔離して副団長の席を占領し二人の世界に入っている。ちなみにジョーンズは副団長ではない。
「このパンは私が焼いたんです。中身は料理人ですけど」
ニコニコと団員に対応するクラリッサ嬢を分団長の執務机から眺めていた俺は、クラリッサ嬢の言葉に手に持っていたサンドイッチに視線を落とした。
パンを、焼いた?
「ええ!?クラリッサ嬢がパンを焼かれたんですか?」
「クラリッサ嬢がご自分で?このパンを?」
「はい」
「道理で美味しいと思いました!」
「プロみたいですよ!クラリッサ嬢はすごいですね!」
「クラリッサ嬢が焼いたパンを食べられるなんて感激です!」
……?
何かザラリとした物が胸の中に生まれた。気がする。
「ダンヴァーズ分団長、王太子妃殿下がお呼びです……って、どうしたんですか?コレ」
執務室に入って来た第三分団の騎士が、ソファに群がる団員たちを目にして驚いて言った。団員に囲まれすぎてクラリッサ嬢の姿は見えていないようだ。
「ああ…ちょっとな。妃殿下にすぐ行くと伝えておいてくれ」
「はい」
第三分団の騎士が出て行ったのを確認して、俺は立ち上がる。
「お前ら、許可なく令嬢を名前で呼ぶな。それに近いし、馴れ馴れしくしすぎだ。クラリッサ嬢は……」
言い掛けて、ハッとして言葉を止めた。
クラリッサ嬢が不思議そうに俺を見ている。
「…いや。俺は妃殿下の所へ行って来る。休憩が終われば各自持ち場に戻るように」
そう言い置いて執務室を出た。
廊下を歩きながら口元に手を当てる。
俺は、今何を言おうとした?「クラリッサ嬢は俺の婚約者候補だ」と言おうとしなかったか?
警護のための便宜上の婚約者候補だ。第四分団の者はそれを知っているから抑止になる訳がない。いや、そもそも団員たちがクラリッサ嬢に近付くのを俺が阻止する必要があるか?
……阻止したかったという事か?俺が。
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「お前ら」とか、助けに来てくださった時も「大丈夫か?」「遅くなってすまない」って、いつもの私に対する丁寧な言葉遣いとは違ってて。あれがネイト様の素なのね。
それに「俺」!「俺」って………か…格好良いぃ…
そんな事を考えながらネイト様が出て行った扉を眺めていた私の目の前で、隣に座っている第四分団員の騎士様が手を振った。
「クラリッサ嬢…いえマルセル嬢?」
「すみません。馴れ馴れしく名前で呼んでしまって」
「マルセル嬢にお近付きになれた気がして舞い上がってしまいました」
周りの騎士様たちが口々に謝ってくれる。
名前で呼ばれるの、別に嫌じゃないんだけど…でもネイト様が「呼ぶな」って仰ったし…何となく、何となくだけど……独占欲、みたいなの、を、感じたり……
いえ。もちろん気のせいなのはわかってる。でも敢えて「名前で呼んでもいい」とは言いたくない気分だわ。
「もしかして、マルセル嬢もダンヴァーズ分団長のファンですか?」
騎士様の一人が言った。
「え?ええ」
私が頷くと、騎士様は「あーあ」と天を仰ぐ。
「やっぱりなぁ。分団長、独身で見目も良いし、強いし、出世頭だし、人気あるよなあ」
「近衛の中でも一番人気だろ?」
「一番は騎士団長じゃないか?」
「いやいや、ファンという意味では団長や第一分団長も凄いけど、やっぱりダンヴァーズ分団長は独身なのが大きいよ。一部の令嬢は本気で結婚相手として狙ってるし」
「でもダンヴァーズ分団長は、アレだろ?王太子妃殿下」
「…ぇ」
ピクッと思わず反応してしまった。
騎士様たちは頓着せずに話し続ける。
「それは単なる噂だろ?」
「でも『ダンヴァーズ分団長と王太子妃殿下は幼なじみで恋仲だった』って噂、ずっと囁かれ続けてるって事は、実は真実なのかも」
「だから分団長は結婚しないのか?」
王太子妃殿下と、幼なじみで、恋仲?ネイト様が?
「妃殿下によく呼ばれるし、呼ばれたら最優先ですぐ行くし、妃殿下は今はただの幼なじみと思っていても、分団長の方が諦められない、とかありそうじゃん」
ネイト様が、王太子妃殿下を、好き?
「やめろよ。いい加減不敬だぞ!」
副分団長の席でイブと話していたジョーンズ様が立ち上がる。
「第四分団の分団長が王太子妃殿下に呼ばれたら最優先で駆け付けるのは当たり前の事だろ」
ジョーンズ様が言うと、騎士様たちは「それはそうだ」と、その話はそこで終わった。
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