ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん

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 騎士団へ差し入れをして家に戻ると、私は部屋にやって来たアンにネイト様と王太子妃殿下の噂を知っているかと聞いてみた。
「ああ…そういう噂はありますね」
 アンはあっさりと頷く。
「ダンヴァーズ分団長とレオノーラ殿下が幼なじみなのは本当ですし、恋仲だったかどうかは定かじゃありませんけど、『幼なじみ』と言うのは妄想が膨らむ設定ですから」
「妄想…」
 手際良く私の着替えをしながら、アンは楽しそうに話し始めた。
「そうですねぇ。例えば、想い合っていたのにレオノーラ殿下が王太子に見初められたので泣く泣く別れたとか、ご結婚と同時にダンヴァーズ分団長が第四分団に異動になったのはレオノーラ殿下が分団長をご自分の側に置きたがったからだとか、逆にダンヴァーズ分団長の方がレオノーラ殿下をお守りしたくて申し出たとか、色々噂はあります。まあどれも妄想の域を出ませんけどね」
 王太子妃のレオノーラ殿下はネイト様より一つ歳上の御歳二十九。ご実家は侯爵家で、その侯爵家の領地がダンヴァーズ伯爵家と隣り合わせ。両家は家族ぐるみで仲が良いらしいです、とアンは言う。

 レオノーラ殿下はミルクティーのような白茶色のふわふわの髪に青い瞳の美女。たおやかで儚げで、でも凛として……あの方がネイト様と恋仲だったとしたら、他の女性が見劣りするの、忘れられないのも…わかる。
「お嬢様?何てお表情かおをされてるんですか。妄想ですよ。あくまでも」
 アンが私の顔を覗き込んでいて、いつの間にか俯いてしまっていた事に気が付いた。
「え?私どんな顔してたの?」
 自分の頬を触る。
 アンが苦笑いしながら言った。
「泣きそうなお顔でした。お好きなんですね。ダンヴァーズ分団長の事」

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「僕はクラリッサの焼いたパンが好きですね」
 アルヴェル殿下の言葉に俺のこめかみがピクリと動く。
 アルヴェル殿下と婚約者のディナ様、それに王太子殿下と妃殿下とのお茶会の席で、何故かハード系のパンとソフト系のパンどちらが好みかという話題になり、アルヴェル殿下が発したのがこの言葉だ。
 俺は王太子妃レオノーラ殿下の護衛としてここに居るのでもちろん発言はしない。
「まあ。クラリッサ様がパンを?」
 レオノーラ殿下が目を見開いてアルヴェル殿下の方へ向かれる。
「公爵家のご令嬢が自らパンを焼くとは、なかなか珍しいのではないか?」
 王太子殿下が仰ると、ディナ様が遠慮がちに答えられた。
「…あの…数年前に学園の女生徒たちの間に『手作りブーム』が起きまして。クッキーやマドレーヌ、カップケーキなどのお菓子を自ら作って友達同士で交換したりプレゼントしたりするのが流行ったんです。その時から『趣味はお菓子作り』と言う令嬢も増えました。おそらくクラリッサ様もその時からパンを焼かれるんだと思います」
 王太子殿下とレオノーラ殿下がうんうんと頷かれる。
 ディナ様はまだ国王陛下、妃殿下や王太子殿下夫妻に対しては緊張されているようだし、打ち解けて欲しいのだろう。
「そのようです。何年か前からシルベストの家に行くと、クラリッサの焼いたマフィンやスコーンが出て来るようになりまして、それが美味いんですよ。ティンブレッドやコテージローフもなかなかですし」
 ほう。だからこの間クラリッサ嬢はサンドイッチ、イブ嬢はクッキーを焼いて差し入れしてくれたのか。
 …それにしても、クラリッサ嬢の事を話すアルヴェル殿下が何だか得意気なのが妙に気に障る。
 いや……俺がそんな事を思う方がおかしいのか。

「私はバナナのパウンドケーキが得意ですよ?」
 ディナ様が上目遣いでアルヴェル殿下を見つめる。
 ディナ様もクラリッサ嬢の事を何故か得意気に話すアルヴェル殿下に軽い嫉妬か、少し思うところがあったのだろう。
「お砂糖控えめバター不使用の貧乏…いえ、倹約ケーキですけど」
 てへっという感じで首を傾げるディナ様。
「ディナの作ったお菓子!?食べたい!作って!」
 アルヴェル殿下が両手でディナ様の手を握る。ディナ様はアルヴェル殿下の喰い付き具合に若干引き気味になりながらも
「じゃあ今度作って来ますね」
 と笑顔で答え、王太子殿下とレオノーラ殿下も二人を微笑ましく見ておられた。

 歓談が続いた後、アルヴェル殿下が俺を見る。
「ダンヴァーズ分団長」
「は!」
 胸に手を当てて簡易的な礼を取った。
「スコット・ロンダムを釈放する事になったらしいね」
「はい」
「…表沙汰にしないという事は大っぴらに裁けないという事だから仕方ないとはいえ…クラリッサが心配だな」
 アルヴェル殿下が顎に手を当てて言われ、ディナ様も王太子殿下も心配そうに頷かれた。
 するとレオノーラ殿下がハッとした様子で後方に立つ俺の方へ振り向く。
「ダンヴァーズ分団長、その男の釈放をもう少し伸ばす事はできないの?」
「…難しいです」
 俺は身体の横に下ろした手をグッと握った。



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