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「じゃあ近衛を辞めて爵位を…と言い出したのはお父様の方?」
首を傾げると、ネイト様は口元に手を当てる。
「そうなんだが…爵位は別にして、近衛を辞めるというのは閣下が兄上の言外の意を汲んだのではないかな?」
「ネイト様のお兄様はネイト様に近衛騎士団を辞めて欲しいと思っておられる…?」
「ああ。さっきも言ったが、兄は俺がオーレリアに囚われ続けていると思っている。レオノーラを護るために俺が無茶をしないか心配しているんだ」
それは確かに心配だけど…
「俺はそれまで自分が近衛騎士でなくなる事を想像した事はなかったが、閣下にそう提案されてから、考えた」
ネイト様が手を伸ばして、テーブルに置いた私の手を取った。
「ネイト様?」
「クラリッサ、俺はクラリッサが好きだ」
「……え?」
薄緑色の瞳が私を真っ直ぐに捉える。
ネイト様がこんなにはっきりと好きだと言ってくださるなんて思ってなかった…
ドキドキしすぎて心臓が痛い。
「最初はクラリッサの瞳がオーレリアを思い出させて、偏執狂者に狙われているクラリッサを助けたいと思っただけで、婚約者候補を提案したのにも他意はなかった」
「瞳?」
「クラリッサと同じ、オーレリアも瞳が青かったんだ」
ああ…だから親身になってくださったのね。
納得して頷く。
するとネイト様が少し恥ずかしそうに片手で口元を覆い、私の手を握る手に力が入った。
え。なにこの表情。初めて見た。何て表現していいかわからないけど心臓が痛いぃぃ!
「クラリッサを好きになったきっかけは、パンかも知れない」
「パ…パン?」
「アルヴェル殿下が『クラリッサの焼いたパンが好きだ』と仰って」
「え!?アルヴェル殿下が!?いつ、どこでですか!?」
第二王子と王太子妃の護衛騎士とがパンの話をするような機会があるのか、と思って発した私の言葉を、ネイト様は違うニュアンスで受け取ったらしい。
ネイト様が私の手をギュッと握った。
「今でもアルヴェル殿下が気になるのか?」
「…え?」
「そういえば、卒業パーティーでクラリッサを見ていた伯爵令息が『慕う人がいる』と交際を断られたと言っていたな。あれはアルヴェル殿下の事だろう?クラリッサは俺を好きだと言ったが…やはりアルヴェル殿下は特別なのか…」
最後は独り言のように呟くネイト様。
手の力は抜けていなくて少し痛いくらいだ。
……これは、もしかして、嫉妬、なのでは?
「あの、今のは、ネイト様とアルヴェル殿下がパンの話をするような機会があるのかな、と思っただけで、今、私が好きなのはネイト様だけです」
ネイト様の手を握り返すと、気付いたネイト様がふっと笑う。
「そうか」
「そうです」
私の手を持ち上げると、口元へ持って行き、指先に柔らかな唇がほんの少し触れた。
……し、心臓が…止まりそう……
私の手をテーブルにそっと置くと、ネイト様の手が離れる。
「クラリッサの焼いたパンを食べた話をするアルヴェル殿下が何故か自慢気に見えて…何というか、こう…胸を掻きむしりたいような焦燥感を覚えた。つまり嫉妬したんだ。俺の知らないクラリッサを知るアルヴェル殿下に」
「ネイト様…」
「それで気付いた。俺はもうレオノーラを護る事に全身全霊を賭ける事ができないのではないか、と」
ネイト様はそう言いながら眉を寄せる。
「毎年、この時期に俺は休暇を取り、領地へ戻っている。オーレリアの命日に墓前に花を手向けるためだ。今年はレオノーラもたまたまこの時期に里下がりができたけど、例年は俺一人だ」
オーレリア様の命日…だから領地へ帰られるレオノーラ殿下の護衛を代わる事はできないと仰ったのね。
「その後、閣下からの申し出もあり、俺はオーレリアの墓前で結論を出そうと思った。そうすれば…オーレリアも許してくれる気がしたんだ」
眉を顰めるネイト様のテーブルの上で握られた手に、今度は私が触れた。
こちらを見たネイト様に、私は笑顔を向ける。
きっとオーレリア様はネイト様の結論がどんなものでも許してくれるはず。そう気持ちを込めた。
「王都を出てから、嫌な予感がずっとあって、クラリッサの側を離れた事を後悔していた。だからオーレリアに『第四分団の騎士たちを育て、レオノーラを後進に託し、近衛を辞める』と報告し、領地を立った」
「辞める…」
「もちろん今すぐにとはいかない。閣下も『いずれ』と仰ったし。しかし、そうと決めたら肩の荷が降りた気がするよ」
そう言って笑うネイト様の薄緑の瞳が柔らかく私を見る。
「クラリッサ」
「はい」
「来年は俺と一緒に領地へ行ってくれないか?」
「……え?」
「オーレリアにクラリッサを紹介したい」
私は胸がいっぱいになって言葉が出ず、涙を堪えながらコクコクと何度も頷いた。
「じゃあ近衛を辞めて爵位を…と言い出したのはお父様の方?」
首を傾げると、ネイト様は口元に手を当てる。
「そうなんだが…爵位は別にして、近衛を辞めるというのは閣下が兄上の言外の意を汲んだのではないかな?」
「ネイト様のお兄様はネイト様に近衛騎士団を辞めて欲しいと思っておられる…?」
「ああ。さっきも言ったが、兄は俺がオーレリアに囚われ続けていると思っている。レオノーラを護るために俺が無茶をしないか心配しているんだ」
それは確かに心配だけど…
「俺はそれまで自分が近衛騎士でなくなる事を想像した事はなかったが、閣下にそう提案されてから、考えた」
ネイト様が手を伸ばして、テーブルに置いた私の手を取った。
「ネイト様?」
「クラリッサ、俺はクラリッサが好きだ」
「……え?」
薄緑色の瞳が私を真っ直ぐに捉える。
ネイト様がこんなにはっきりと好きだと言ってくださるなんて思ってなかった…
ドキドキしすぎて心臓が痛い。
「最初はクラリッサの瞳がオーレリアを思い出させて、偏執狂者に狙われているクラリッサを助けたいと思っただけで、婚約者候補を提案したのにも他意はなかった」
「瞳?」
「クラリッサと同じ、オーレリアも瞳が青かったんだ」
ああ…だから親身になってくださったのね。
納得して頷く。
するとネイト様が少し恥ずかしそうに片手で口元を覆い、私の手を握る手に力が入った。
え。なにこの表情。初めて見た。何て表現していいかわからないけど心臓が痛いぃぃ!
「クラリッサを好きになったきっかけは、パンかも知れない」
「パ…パン?」
「アルヴェル殿下が『クラリッサの焼いたパンが好きだ』と仰って」
「え!?アルヴェル殿下が!?いつ、どこでですか!?」
第二王子と王太子妃の護衛騎士とがパンの話をするような機会があるのか、と思って発した私の言葉を、ネイト様は違うニュアンスで受け取ったらしい。
ネイト様が私の手をギュッと握った。
「今でもアルヴェル殿下が気になるのか?」
「…え?」
「そういえば、卒業パーティーでクラリッサを見ていた伯爵令息が『慕う人がいる』と交際を断られたと言っていたな。あれはアルヴェル殿下の事だろう?クラリッサは俺を好きだと言ったが…やはりアルヴェル殿下は特別なのか…」
最後は独り言のように呟くネイト様。
手の力は抜けていなくて少し痛いくらいだ。
……これは、もしかして、嫉妬、なのでは?
「あの、今のは、ネイト様とアルヴェル殿下がパンの話をするような機会があるのかな、と思っただけで、今、私が好きなのはネイト様だけです」
ネイト様の手を握り返すと、気付いたネイト様がふっと笑う。
「そうか」
「そうです」
私の手を持ち上げると、口元へ持って行き、指先に柔らかな唇がほんの少し触れた。
……し、心臓が…止まりそう……
私の手をテーブルにそっと置くと、ネイト様の手が離れる。
「クラリッサの焼いたパンを食べた話をするアルヴェル殿下が何故か自慢気に見えて…何というか、こう…胸を掻きむしりたいような焦燥感を覚えた。つまり嫉妬したんだ。俺の知らないクラリッサを知るアルヴェル殿下に」
「ネイト様…」
「それで気付いた。俺はもうレオノーラを護る事に全身全霊を賭ける事ができないのではないか、と」
ネイト様はそう言いながら眉を寄せる。
「毎年、この時期に俺は休暇を取り、領地へ戻っている。オーレリアの命日に墓前に花を手向けるためだ。今年はレオノーラもたまたまこの時期に里下がりができたけど、例年は俺一人だ」
オーレリア様の命日…だから領地へ帰られるレオノーラ殿下の護衛を代わる事はできないと仰ったのね。
「その後、閣下からの申し出もあり、俺はオーレリアの墓前で結論を出そうと思った。そうすれば…オーレリアも許してくれる気がしたんだ」
眉を顰めるネイト様のテーブルの上で握られた手に、今度は私が触れた。
こちらを見たネイト様に、私は笑顔を向ける。
きっとオーレリア様はネイト様の結論がどんなものでも許してくれるはず。そう気持ちを込めた。
「王都を出てから、嫌な予感がずっとあって、クラリッサの側を離れた事を後悔していた。だからオーレリアに『第四分団の騎士たちを育て、レオノーラを後進に託し、近衛を辞める』と報告し、領地を立った」
「辞める…」
「もちろん今すぐにとはいかない。閣下も『いずれ』と仰ったし。しかし、そうと決めたら肩の荷が降りた気がするよ」
そう言って笑うネイト様の薄緑の瞳が柔らかく私を見る。
「クラリッサ」
「はい」
「来年は俺と一緒に領地へ行ってくれないか?」
「……え?」
「オーレリアにクラリッサを紹介したい」
私は胸がいっぱいになって言葉が出ず、涙を堪えながらコクコクと何度も頷いた。
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