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38.噂
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ルドヴィクのエメラルド色の瞳が、驚いたように見開かれた。
アリーチェはおかしなことでも口走ったのかと不安になる。
「………まさか、あなたからそのような言葉を聞けると思っていなかった………」
少し間を置いてからそう呟いたルドヴィクは、戸惑ったように口元に手を当てて、視線を逸らした。
まるで、恥ずかしがって照れているかのような仕草に、アリーチェは思わず笑みを零した。
「いけませんでしたか?」
「いや………。私はあなたに憎まれているのだから、そのような言葉をかけられるとは意外だっただけだ」
ルドヴィクは寂しげな表情を浮かべる。
憎めと言ったのは彼の筈なのに、どうしてそんな顔をするのだろう。
アリーチェは胸の奥がきゅっと切なくなるのを感じた。
「…………視察は、如何でしたか?」
曖昧な立場の自分が、内政的な事を訊ねて良いのかと躊躇いながら、アリーチェはルドヴィクに話しかけた。
「ああ………、大した成果は無かった」
意外な事に、ルドヴィクはあっさりと答えた。
秘密主義の彼らしくないとアリーチェは思ったが、そんなことを口にしたらまた彼は口を噤むだろう。
「アドニスでここのところ行方不明者が出ていると………。陛下はその件で動かれたのでしょうか?」
すると、ルドヴィクの表情が僅かに強張ったように見えた。
「………どこで、それを………?」
一瞬鋭さを増した深いエメラルド色の単眼が、アリーチェを射抜く。
「気分転換にと読んでいた新聞で、知りました。でも、アドニスの街は治安は悪くないとジネーヴラから聞いたのですが………」
本当は気分転換ではなく、外部の情報を得るためにジネーヴラに持ってきて貰ったのだが、敢えて真実を知らせる必要はないだろうと判断しての事だった。
「………そうか」
何故か怒ったように、ルドヴィク
は唸る。
「………今回は、別件だ。だが………」
一呼吸おいたルドヴィクは少し考えてから、重い口を開いた。
「カヴァニスの王女が、イザイアに監禁されているという噂が、アドニスに広がっている」
「え…………?」
アリーチェは思わぬルドヴィクの言葉に、驚きを隠せなかった。
旧カヴァニス王国の王女は、アリーチェただ一人のみだし、確かにイザイアの場内で軟禁されていると言っても過言ではない状況下に置かれている。
だが、アリーチェの存在を知るのは場内でも限られたルドヴィクが信頼している人物のみだ。
それが何故、しかも王都でもないアドニスの街で広がるのだろう。
アリーチェは不思議に思ったのだった。
アリーチェはおかしなことでも口走ったのかと不安になる。
「………まさか、あなたからそのような言葉を聞けると思っていなかった………」
少し間を置いてからそう呟いたルドヴィクは、戸惑ったように口元に手を当てて、視線を逸らした。
まるで、恥ずかしがって照れているかのような仕草に、アリーチェは思わず笑みを零した。
「いけませんでしたか?」
「いや………。私はあなたに憎まれているのだから、そのような言葉をかけられるとは意外だっただけだ」
ルドヴィクは寂しげな表情を浮かべる。
憎めと言ったのは彼の筈なのに、どうしてそんな顔をするのだろう。
アリーチェは胸の奥がきゅっと切なくなるのを感じた。
「…………視察は、如何でしたか?」
曖昧な立場の自分が、内政的な事を訊ねて良いのかと躊躇いながら、アリーチェはルドヴィクに話しかけた。
「ああ………、大した成果は無かった」
意外な事に、ルドヴィクはあっさりと答えた。
秘密主義の彼らしくないとアリーチェは思ったが、そんなことを口にしたらまた彼は口を噤むだろう。
「アドニスでここのところ行方不明者が出ていると………。陛下はその件で動かれたのでしょうか?」
すると、ルドヴィクの表情が僅かに強張ったように見えた。
「………どこで、それを………?」
一瞬鋭さを増した深いエメラルド色の単眼が、アリーチェを射抜く。
「気分転換にと読んでいた新聞で、知りました。でも、アドニスの街は治安は悪くないとジネーヴラから聞いたのですが………」
本当は気分転換ではなく、外部の情報を得るためにジネーヴラに持ってきて貰ったのだが、敢えて真実を知らせる必要はないだろうと判断しての事だった。
「………そうか」
何故か怒ったように、ルドヴィク
は唸る。
「………今回は、別件だ。だが………」
一呼吸おいたルドヴィクは少し考えてから、重い口を開いた。
「カヴァニスの王女が、イザイアに監禁されているという噂が、アドニスに広がっている」
「え…………?」
アリーチェは思わぬルドヴィクの言葉に、驚きを隠せなかった。
旧カヴァニス王国の王女は、アリーチェただ一人のみだし、確かにイザイアの場内で軟禁されていると言っても過言ではない状況下に置かれている。
だが、アリーチェの存在を知るのは場内でも限られたルドヴィクが信頼している人物のみだ。
それが何故、しかも王都でもないアドニスの街で広がるのだろう。
アリーチェは不思議に思ったのだった。
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