隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

文字の大きさ
75 / 351

74.葛藤

しおりを挟む
ティルゲルが部屋を出ていくのを見送ると、アリーチェは小さく溜息をついた。
一度に様々なことがありすぎて、混乱しているというよりも夢を見ているような気持にすらなる。

「姫様。何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」

ぼんやりと視線を彷徨わせているクラリーチェを心配したらしいスザンナが、そっと声をかけてくれた。
それがジネーヴラと重なって、アリーチェは思わずはっとする。

「え、ええ………。お願いするわ」

返事を返しながら、アリーチェは俯いた。
ジネーヴラよりもスザンナとの付き合いのほうがずっと長いというのに、どうしてジネーヴラを思い浮かべてしまうのだろう。
献身的に世話をしてくれたから、情が移ったのだろうか。しかし、それならばスザンナとて同じはずだ。

暫くしてスザンナがお茶を持ってきてくれた。
ふわりと立ち昇る香りは、カヴァニス故郷でアリーチェが好んでいたものだったが、それを懐かしいとは感じても、心は満たされなかった。

その理由を考えながら、部屋の中を見回す。
きっとこの部屋は、ティルゲルたちがアリーチェの好みを反映して用意してくれたものに違いないのに、どうして虚無感がこみあげてくるのだろう。

(………わたくしは、イザイアの城に戻りたいのだわ)

暫く考えて、その答えに辿り着いたとき、アリーチェは強い罪悪感を覚えた。
皆が、父王をはじめ、あの日に「カヴァニス王国」とともに死んでいった者たちの無念を晴らし、イザイアに一矢報いるために決死の覚悟で自分を助けだしてくれたというのに、その思いを踏みにじるような気がしたからだ。

彼への想いはやはり、許されないものだと分かっていても、どんなに冷たく拒絶されても、諦めることは出来なかった。
それなのに、もしかしたら次に彼に逢う時は、彼とは敵同士として対峙しなければならないかもしれないし、場合によってはこの手で彼を、殺さなければならないかもしれないのだ。

「…………っ」
「姫様…………?」

気がつくと、アリーチェの頬を涙が伝っていった。

突然泣き出したアリーチェを、スザンナが驚いたように見つめ、それからゆっくりとアリーチェに歩み寄ると、優しくアリーチェの背中を撫でてくれた。

「姫様………」

スザンナが心底心配してくれているのは分かるが、それが余計にアリーチェの心を刺激している気分になる。

「………大丈夫よ。…………大丈夫」

アリーチェは心の葛藤を隠し、涙を流しながら無理矢理に微笑んでみせたのだった。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...