物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜

ネリムZ

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物理系魔法少女、思い出す

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 「それにしても、カゴの中身が⋯⋯」

 俺のカップ麺及びインスタント類に支配されたカゴの中身を凝視する神楽さん。

 美人のお姉さん(年下な可能性がある)に俺の食生活を知られてしまった。

 「仕事が忙しくて、結局楽かつ素早くできるんですよね。⋯⋯まぁ、今はそこをクビになりましたけど。料理の仕方なんて忘れたし、そんな道具ももう無いんですよ」

 何を言っているんだ。

 今日初めて会った人にこんなくだらない話をして、どうすんだよ。

 せっかくの出会いだってのに。

 タイプじゃなくても、こんな可愛い子と会話できるだけ良いのに。

 俺は何を自分語りを⋯⋯。

 「すみません。こんなくだらない話。それじゃ、俺はこれで」

 そう言って離れようとしたら、手を掴まれて引き寄せられた。

 「腕が細いです」

 「ずっとデスクワークでしたから」

 腹は少し太ってるよ。

 「目も少しだけ変です。ちゃんとした、食事を取ったのはいつですか?」

 「さ、さぁ?」

 覚えてない。

 すると、力強く腕を握られた。

 おっと大変だ。

 彼女中々の握力があり、俺少しだけ半泣きになりました。

 痛い。

 「安心したのが間違いだった。もっと、会った時から気づけていたら⋯⋯」

 ブツブツと小声で何かを言っている。

 「よ、良ければ⋯⋯いえ、是非とも今日の晩御飯は一緒にしましょう! 私が晩御飯を作るから」

 いきなりフレンドリーと言うか馴れ馴れしいと言うか、敬語はどうしたのよ?

 距離感は大切にしていこうよ。

 「いやいや。さすがに今日会ったばかりの人にそんな事はダメですよ。神楽さんは綺麗なんですから、もう少し身を大切に、ね? ありがたい話ですが、それではさようなら」

 再び逃げようとしたら、関節技を片手で、しかも背を向けたまま決められた。

 な、なんなの子?

 見た目に反して力が強いんですけど。

 「また神楽さん⋯⋯星夜さん。私がきちんとした料理を作るから、家に行こう」

 「ご、強引なのは嫌いじゃないけど、さすが申し訳ないかな~」

 「なら問題ないね」

 人の話を聞いてましたか?

 「話通じる?」

 「言葉は通じてます」

 言葉は、ね。

 神楽さんが底なしのお人好しと分かったところで、彼女を俺の家に案内して良いモノか。

 俺は大学時代から同じアパートに暮らしているのだが、そこそこボロいし部屋の中はごみ溜だ。

 だと言うのに⋯⋯そもそもなんで彼女は俺に料理を?

 そこまで栄養状態が心配なのか?

 はっ!

 それとも俺が優秀な探索者になる事を見越しての投資か?

 いやいや。

 こんな冴えないおっさんにそれは無い。

 つーか、なんで全くの警戒心がないんだよ。

 強いからかな?

 俺よりも強いよ、彼女は。

 だって、未だに腕の痛みがジンジンと響くから。

 前を歩く彼女はご機嫌だ。

 「鍵開けてよ」

 「へいへい⋯⋯は?」

 今、俺の家の前に居る。

 俺の部屋の前に居る。

 家に来ていたのだから、家の前に居るのは別に不思議じゃないのかもしれない。

 だが、思い返して欲しい。

 俺の前を彼女は歩いて、俺は一切の案内をしていないのだ。

 だと言うのに俺の部屋を当てやがった。

 ⋯⋯あ、住所を登録した時に見たのか。

 納得納得。

 できる訳ねぇええええ!

 あの一瞬で住所を見て暗記、それを調べてここまで来るってさすがに狂気を感じるぞ。

 「早く」

 「あ、うん」

 ドアを開けた。

 「けほっ。そ、掃除を全くしてないね」

 「す、すみません」

 「良いよ。次の休みに掃除するから。それじゃ、色々と作るから机周りは綺麗にしてね」

 「はい」

 ゴミを壁に退けて、適当に布でふきふき。

 あ、これ俺の中で一番最新の私服だ。

 買ってから一度も着た事のなかった服。

 布巾として使っただけでも、コイツの存在価値はあったのだろう。

 一瞬で黒くなった。

 南無阿弥陀仏。

 「できました」

 「料理道具無いのに、どうやって作ったんですか?」

 「⋯⋯敬語ばっか。押し入れから出しました。あそこの」

 「そこ⋯⋯」

 大学時代、お客さん様に用意していた場所だ。

 なんであの場所を知ってるんだ?

 ⋯⋯でも、なんか懐かしい感じがするな。

 大学の時に初恋の人が俺の家で作ってくれたんだ。

 そう、目の前にあるオムライスを。

 「美味そう。いただきます」

 もうここまで来たら遠慮は失礼だろう。

 感謝を込めて、いただきます。

 ⋯⋯。

 はっ!

 い、意識を失っていたのか?

 何!

 「目の前のオムライスとスープが消えている⋯⋯だと」

 「自分で食べておいてその反応? ふふ。でも、それだけ夢中で食べたって事だよね。嬉しい」

 ほのかな笑みがとても可愛らしく見えた。

 それが昔の彼女の姿と重なってしまう。

 「ねぇ星夜さん。美味しかった? 私、あれからずっと練習してるから、昔よりも何倍も美味しいでしょ」

 そうやって、綺麗な白い歯を少しだけ見せながら笑う神楽さん。

 あぁ、そうか。

 彼女は俺が大学時代の初恋相手、そして仕事が忙しくて疎遠になった子だ。

 携帯が壊れて、連絡先が分からずに疎遠になってしまった。

 長らく忘れていた。

 「紗奈ちゃん⋯⋯」

 「ッ! や、やっと思い出してくれた。星夜さん。さすがに遅いぞ、思い出すの」

 だって、昔と印象だいぶ違ったからね。

 昔は茶髪でキリッとした、今とは真反対の子だった。

 「だいぶ印象が違うから、思い出せなかった⋯⋯」

 「だって、こう言うのがタイプだって⋯⋯星夜さん!」

 「はい!」

 「今後、探索する時は絶対に私の受付を使う事、私が居ない時は一緒に休む事、夜は私が作りに来るからね! もう、今のような生活はさせないから、絶対にね」

 「は、はい」

 「よろしい。それじゃ、帰るね。バイバイ」

 「ば、バイバイ」

 俺は同時に思い出した事がある。

 とても重大な事を。

 だけど、彼女からその件が出なかったので忘れているのだろう。

 俺も忘れよう。
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