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ぴんく!
しおりを挟むキーアが最初に過去問を見たときは、衝撃だった。
設問の意味が解らなかったからだ。
日本語を聞いてる、読んでるのに、意味がわからない時って、あるよね?
確かに知ってる言葉の繋がりなんだけど、漢字とかカタカナが滑ってく感じ。
茫然としない?
あれでした!
でもキーアは一週間必死に、勉強を重ねた。
ドーナツも『あつあつー♡ うまうまー♡ うぷっ』ってなるくらい食べて、『はー♡ しゃくしゃくー♡』BLゲームの世界でも冬のみずみずしいお野菜の白菜もどきのピクルスを頬張り、せっかく筋肉をがんばってつけた身体がちょっと丸くなった気がして心配だけど、でも頑張った!
もう1週間前の、過去問を前に涙目だったキーアじゃない。
更なる進化を遂げたニューキーアだよ!
『俺はできる、てきる、できる、できる──!』
緊張にふるえる指で、息をとめて、手をのばす。
おそるおそる、めくった試験問題は、過去問に似ていた。
『これ、知ってる──!』
跳びあがって拍手したいのを、懸命にこらえるキーアの身体が、ぷるぷるしてる。
そう、ロデア大公立学園の魔法科の試験は、騎士科の試験と同じく、過去問を研究したら何とかなる系でした! やさしい!
たぶん『学習する気持ちがありますか?』っていうのを問われてるんだと思う。『頑張ってきたかな?』って。
ふるい落とすための試験じゃない。意欲を見て、合格させて、鍛えてあげようとしてくれているのだろう。
やさしい!
いっぺんに気が楽になったキーアは、歓喜の涙がにじむ目をぬぐい、にこにこしながら答案を埋めた。
いちおう前世で受験したような記憶があるので、引っかけ問題とか、いじわるな問題を見抜く目も持っている!
『水の魔法は、火の魔法と違い、大気や水蒸気や天候の影響を全く受けず、安定して発動できる。正か、誤か』
はい来ました!
『全く』受けないわけじゃないんだなー。
やっぱり、ちょこっとは大気の影響を受けるよ。参考書にも書いてあったよ。
『魔力の強い者ほど、大気や天候に関係なく魔法を発動できますが、影響を全く受けないわけではありません』って。
だって暴風が吹いてるなか、水の魔法をぶっ放したら、自分に『びしゃーっ!』てなっちゃうよ!
……たぶん。使ったことないけど。
魔法は、15歳を越えてから、ちゃんと習って使わないと、魔力が暴走したりして危険なんだって。
ロデア大公国で教えてくれる最高峰が、大公立学園だよ!
はー♡ 魔法、あこがれー♡
いつか、使えたらいいなあ!
じゃなかった、この問題の答えは、『誤』だ!
『ふふふん、引っかからないぜー!』
鼻歌さえこぼれそうな感じで、学術試験をどんどん進める。
『ていや!』
心のなかで、しっかり叫んで、ちゃんとつけペンも転がしてみたよ。
折角だからね。
『つけペンさまは、3番が正解って仰ってるけど、これは、1番だよね。火の魔法は大気の影響を受ける!』
ひっかからなかったよ!
選択問題は、かなりできたと思う。
論述問題も、過去問の模範解答が勝手に口からだばだばしたときみたいに『丸写しじゃないかこれ──!』叫ばれそうな出来な気がするけど、でも丸暗記した奮闘は評価してくれるんじゃないかなー? 希望! お願いします!
というわけで、進化を遂げたニューキーア、がんばりましたー!
大公立学園の皆さん、やさしい問題をありがとう!
リ──ン──ゴ──ン──!
鐘が鳴る。
「大公立学園、学術試験を終了する! 筆記具を即座に置くように!
持っている者は不正とみなす。すぐに筆記具を置き、回答用紙、問題用紙から手を離しなさい!」
「あばばばば!」
あわてて試験問題から手を離したよ。
「おー、ちゃんと手を離したなー、えらいぞー」
見回ってきた試験官が、ちょうどいいところにあるのだろうキーアの頭をぽふぽふしようとして
『キーアの頭を撫でたくなくなるように、してさしあげます』
何かを思い出したのか、真っ青になって、ぷるぷるしながら固まってる。
「では、回答用紙を回収する!」
ちょっと涙目の試験官が、そーっと解答用紙を持っていってくれました。
合格できていますように──!
お祈りした。
攻略対象に、もう一度逢えるか、推しに逢えるかどうかが、かかっている──!
お願いしますよ、真剣に──!
切実に祈りすぎて、ちょっと涙目になったよ。
「それではこれより半刻の間、昼休憩とする! 各自、解散!」
試験官の声が響いた途端、皆の歓声が弾けた。
「終わったぁあ──!」
「試験時間、なっが!」
「なんだよあの問題、呪文かよ」
「魔法科だからね」
「うけるー」
「おいおい、よだれついてんぞ」
寝てた人もいるみたいだよ。
ぜんっっぜんわからない時は寝るよね。わかる!
「できた?」
腰が砕けるような、あまい声が、隣から響いた。
はちみつの髪がふわふわ揺れて、微笑んでくれるルゥイに飛びあがる。
「先ほどは大変失礼いたしました! キピア家次期当主、キーア・キピアでございます、ルゥイ殿下」
うやうやしく敬礼するキーアに、ルゥイはかるく手を挙げてくれた。
敬礼を解いていいよっていう合図だよ。やさしい。
「逢ったことはないと思うけれど、よく僕の名を知っていたね」
『スリーサイズも知ってます!』
言えないので、えへへと熱い頬で笑う。
「ルゥイ殿下が大変麗しくていらっしゃると、蜜の髪に若葉の瞳とご高名でしたので。
街で売られていた姿絵を購入しました!」
アイドルさんに『いつも見てますー!』『楽曲購入しましたー!』『応援してますー!』『がんばってくださいー!』遠くからエールを送る感覚だよ。
目の前にいてくれるけど!
夢みたいだよ!
照れ照れの頬で、ファンとして胸を張る。
やっぱり、課金してると、堂々と胸を張れるよね。
『見たことある』『知ってる』だけだと『ファンです』って言いにくい! 恥ずかしくて!
課金できたのは、やさしいトマのおかげだ。
スーパー従僕トマと一緒に、お野菜の苗を買いにいったら、燦然と輝くご尊顔に飛びあがったのを憶えてる。
『ルゥイ殿下だ! きゃ──!』
野菜の苗を5つ諦めて、ちっちゃなルゥイ殿下の肖像画を購入しました!
トマがちょっと遠い目になってた。家計は常にぴんちなのに、ごめんなさい。
だって、大すきな攻略対象のご尊顔は飾りたいよね?
スチルが保存できないとか泣いちゃうよ。姿絵しかないよ。魔道具で撮らせてくださいとか言えないよ!
レォの姿絵も売ってくれないかなー。皆の姿絵を飾りたい!
「……え……姿絵……?」
ルゥイが、『そんなのが勝手に売られてるのか!』っていう顔になってる。
あ、もしかして違法だった?
二次創作みたいな?
それって、ファンはよだれがあふれ出るけど、ご本人はびみょーになっちゃうのかな?
「す、すみません、あの、違法だって知らなくて、あの、あんまりかっこよくて、つい……!」
「……かっこよかった?」
「とっても!」
拳を握って叫んだ。
瞬いたルゥイが、ちいさく笑う。
よ、よかった、えっちい二次創作な姿絵じゃなくて、ちゃんとご本人に見せられる姿絵で──!
……いや、えっちい二次創作最高だけど……ルゥイ×レォか、レォ×ルゥイかで派閥がすごいんだよ!
もだもだして、きゃーきゃー♡ してしまう脳内を、キーアはあわあわ振り払った。
ご本人が目の前にいるんだよ!
脳内映像でもだもだするより、ご本人と会話したい!
まるきりファンな気持ちで、キーアはルゥイを見あげる。
「入学試験を受験なさるのですね、びっくりしました!」
「当然だよ、ロデア大公国は貴族は平民とそう変わらない。貴族という名もなくしてゆこうとしているのだから」
「ルゥイさまも、そうお考えに?」
「勿論。無能な貴族なんて、害にしかならないからね。優秀な人が国を治める、その機構を作りたいと、大公たる母上、父上や中枢を担う皆、民の皆とともに尽力してゆくつもりだ」
微笑むルゥイが、きらきらしてる──!
「尊い──!」
拝むキーアを押しのけるように、ぴんくの髪が揺れた。
「さすがルゥイ殿下、素晴らしいお考えです……! 僕、一生ついていきたい──!」
ドォン──!
突き飛ばされたキーアは、目を瞠る。
ふわふわなぴんくの髪に、きゅるきゅるしてる、ぴんくの瞳、ぷるぷるのぴんくの唇がつやっぽい、これぞBLゲームの主人公だ!
「おお!」
思わず拍手するキーアに、主人公はぴんくの眉をひそめた。
「な、なんですか? ぶつかってしまったのは、わざとじゃないです」
ふんと、鼻を掲げる主人公のぴんくの髪が、ほわほわ揺れる。
……ぶつかったふりで突き飛ばしてきたのは、絶対にわざとだけど、絶対に謝らない気だ。理解した!
「大公宮舞踏会でお見かけしたことないし、平民なんでしょう? ルゥイ殿下に話しかけるなんて、失礼じゃありませんか? ちょっと可愛いからって、あまり分不相応なふるまいはしない方がいいと思いますけど……!」
おお!
おとなしいふりして、あざとく攻撃してくる系主人公か!
むかちゅく主人公の王道だな!
しかしこれだけふわふわぴんくだと、なんか許せる。
ちっちゃいぴんくの子犬が、強がって吠えてるみたいな?
ほわほわ揺れるぴんくの髪も、おっきなぴんくの目も、ばさばさのぴんくのまつげも、ちっちゃな手足も、白とぴんくの可愛い服も、なんかこう、ぽめらにあん? あの、ちっちゃくて白くて可愛くて、目がきゅるんとしてて、甲高い声できゃんきゃんしてる、あの犬がぴんくになったみたいだよ!
自分のこと、ものすごく強いと思ってる、ちっちゃな、ふわふわぴんく!
かわいい。
うむうむするキーアの隣で、ルゥイが凛々しい眉をひそめた。
「歓談の最中に割りこむのも失礼だけど、平民を見下すような発言は看過できないな。きみの名前は?」
ぴょこんと跳びあがった主人公のぴんくの髪が揺れる。
「ルゥイ殿下に対してあまりに不敬じゃないかなって思ったから、ついカッとなっちゃって、ごめんなさい……!」
叱られたらすぐに、殊勝に謝る、しかも自分はわるくないですよって、さり気なくアピール、でもやっぱり突き飛ばしたキーアには、絶対に謝らない、これぞ、あざとい主人公!
王道だ!
レースとフリルでふわふわの裾を揺らして、主人公がルゥイ殿下を見あげる。
おお!
主人公の上目遣い光線が、攻略対象に向かって発射されてる──!
「マェラ・マガーテと申します、ルゥイ殿下♡」
ほわほわぴんくの髪を揺らすマェラの、ぴんくの目が、ぴんくの唇が、きゅるきゅるしてる。
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