【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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 手を繋いでくれるのも、お昼のお誘いも、とても、とても! うれしいのですが!

 あわあわキーアは、背の高いルゥイを見あげる。

「あ、あの、ルゥイ殿下、俺、お弁当が」

 トマが作ってくれた、愛従僕弁当だよ!

 ドーナツを両手に持って食べ過ぎて、ちょっと丸くなったっぽいので、お野菜多め、油控えめ、たんぱく質多めにしてくれた。
 鶏モモのからあげじゃなくて、鶏むね肉を蒸したのだよ。
 さすがトマ! わかってくれてる。

 大すきになった白菜もどきのピクルスは、おつゆが零れないように、別パックだよ。
 かわいい小瓶に入れてくれて、この世界では冬も生るちっちゃなトマトもどきが入ってて彩りも可愛い。
 さすがトマ!

 食べないとか、真剣にありえないよね!?

 ごめんなさいを籠めて見あげたら、ルゥイはちっとも気分を害した風もなく、微笑んでくれた。

「一緒に食べよう。気持ちのいい庭があるんだ」

 ルゥイが手を引いてくれる先は、大公立学園の奥にひっそり佇む木立の奥だ。
 攻略対象といちゃいちゃするイベントが起きる中庭ですね!

 ……騎士科のときも行っちゃったけど……名前も顔もないモブなのに、いいのかな。
 モブが、こんなに攻略対象と接点あるとか、おかしいよね?

 ……もしかして……バグ……?

 いやまだBLゲームが始まっていない時期だからかも。
 それに主人公としか会話しない攻略対象って不自然だから、やっぱりモブとも会話するよね?
 そういうありふれた日常のシーンなんだと思うな。たぶん!

 でもBLゲームの世界だから、主人公も攻略対象も入学試験にはちゃんといて、主人公はルゥイ殿下狙いっぽかった。
 もしふたりが両想いなら、悪役令息の伴侶(予定)としては応援したほうがいいのかもしれない。

 いや、伴侶(予定)の正しい役割としては、やっぱり悪役令息を応援するほうがいいのかな……?
 ……あのネィトを……?

 びみょーな気持ちになったよ。

 いやいやいや、待て待て待て、いくらBLゲームの世界とはいえ、伴侶(予定)の浮気を応援するのは、なんか違うと思う──!

『がんばれ、ネィト! 主人公に負けるな! レォさまといちゃつくんだ!』っておかしいよね!?

 いやBLゲームのファンとしては正しいけど、伴侶(予定)としては違うんじゃないかなー?

 まあ、予定は未定だからね。
 前のキーアも、よくなかったからね。

 ネィトが応援してほしいなら、応援してあげてもいい。今までのお詫びも兼ねてね。
 主人公が応援してほしいなら、応援したいなー!

 ……両方を応援すればいいんじゃない?
 中立だよ!
 いいこと思いついたかも!

『……え、いや、ちがうんじゃ……』

 BLゲーム大すきな紀太に、キーアが控えめに抗議してる気がする。



 冷たい冬の風が吹きぬけて、首をすくめるキーアを、ルゥイが振り返る。

「さむい? だいじょうぶ?」

 風が吹いても心配してくれるルゥイ殿下、さすが人気投票第一位だ。やさしい!

「大丈夫です! 試験がんばったから、頭が熱くて。冷たい風が気持ちいいです」

 試験会場も火の魔石を使った暖房で、ぽかぽかだったよ。
 冷えのぼせ? 顔が赤くなって、ぽーってするよね。

 目の前のきらきらなルゥイ殿下にも、ぽーっとしてるけど!

 頭も頬もぽやぽやんだけど、火照った身体は冬の風に冷えてゆくのに、ルゥイと繋がる指だけは、あったかい。

「ルゥイ殿下は、寒くないですか?」

「だいじょうぶ」

 微笑んだルゥイが、キーアの手を握る指に力をこめる。

「……考え事してた?」

『悪役令息の伴侶(予定)としての役割について思いをはせていました!』

 とか言えない。

 あわあわしたキーアは、ひらめいた。

 顔も名前もないモブが、ルゥイ殿下にこんなに近づけることなんて、もうないに違いない。

 これこそ千載一遇のチャンスだ!

 今こそ、直接ルゥイ殿下に、主人公の印象を聞けるときかもしれない。
 というより、今しかない!

 BLゲーム前だから、親密度0かもしれないけど、今日の感じはどうだったか伺いたいです!
 

「あ、あの、ルゥイ殿下はマェラのこと、かわいーなってお思いになりました、か?」

 せっかくなので直球で聞いてみました!

 モブだから親密度とかパラメータとか、何にも関係ないからね。
『正しい選択肢を選ばないと親密度が下がっちゃう!』とか、何にも心配しなくていいよ。
 名前どころか、顔さえないぜ!

 モブぱわー全開で聞いてみたら、きょとんとしたルゥイが手を引いてくれる。

「……キーアは、ああいう子が、このみなの?」

『最愛の推しは、若さ弾ける凛々しい隻眼の将軍です!』

 言ったらだめな気がする。
 なんとなく。

 逢ったこともない将軍がすきとか、ちょっとおかしい気がする……!

 転生者っていうのは、主人公には勿論だけど、攻略対象にもあまりバレないほうがいいよね?
 ややこしいことになりそうだよ。

 BLゲームしてると、主人公は、すきというより、こう、自分の分身みたいな?
 自分の代わりに、攻略対象といちゃついてくれる、可愛い男の子だよ。
 だからゲームをしてるときは、全身全霊で応援しちゃう!


「えと、マェラ、かわいーなって思って……」

 ルゥイを見あげて、反応を伺った!

 …………………………。


『……えー、そう?』みたいな感じなんだけど……!

 無言ですよ、無言!

 あ、あれ?
 そっか、BLゲームがまだ始まっていないから、親密度が上がらない仕様なのかも。
 強制力、みたいな?
 だって、最初から親密度100とか、ずるい! ってなっちゃうもんね。納得。


『マェラが可愛いとかいう前に、言うことあるんじゃないの?
 このみの話をしたよね?』

 みたいな圧を感じます、ルゥイ殿下──!

 無言で、圧力だけで会話できるルゥイがすごい。

 最愛の推しは将軍だけど、でもでも勿論!

「ルゥイ殿下は、お噂や姿絵以上に、ずっとずっと、かっこいーです」

 さすが攻略対象人気第一位!

 動いて笑ってくれたりする、あったかい、めちゃくちゃいー匂いする、3次元だよ!? すごくない!?

 はちみつの髪が、ほわほわしてる!

 あのスチルの絵の『髪の部分だけを、左右に振ってみました』みたいな『いちおう動いてるけど、なんか違う……』っていうエコな動き方じゃないんだよ!

 しかも、ほんとにさわれるんだよ!

 いや、さわれないけど……! 畏れ多くて!


「遠くから拝見できるだけで、しあわせです♡」

 BLゲームファンとして、しあわせを語ってみました!

 緑の瞳を瞬いたルゥイの頬が、ふうわり朱くなる。


「……近くで見て」

 ぽそりと零れた、とろけるように甘い声に、仰け反った。


「畏れ多い!」

 ぶんぶん首を振るキーアの髪が、冬の風と一緒に揺れる。


「もう手を繋いでる」

 ぎゅ。

 手を引いてくれるルゥイの耳が、ほんのり赤い。


 絶対スチルだぁあ──!


『か──わ──い──い──♡』

 もだもだしちゃう。


 ほわほわ揺れる、はちみつの髪を、追いかける。

 とくとく鳴る鼓動も、火照る頬も、つながるままの指も、あったかい。





 冬の中庭なのに、大公殿下のご子息が昼食を召しあがるからと従僕たちが準備万端で整えていたのだろう、魔法で春のはじめみたいな、うららかな暖かさになっている。
 ぴかぴかに磨かれた白い椅子とテーブルクロスをかけられた机がルゥイを待っていた。

「午前の学術試験、お疲れさまでございました、ルゥイ殿下」

 うやうやしく頭をさげた執事っぽい人に続いて、従僕たちが湯気をたてるお皿を運んでくる。

「一緒に食べよう」

 微笑んでくれるルゥイに、キーアは申しわけなく眉をさげた。

「あ、あの、大切な従僕が作ってくれたお弁当があるので、それを食べてもいいですか?」

「勿論。彼に席を用意して」

「かしこまりました」

 うやうやしくお辞儀した執事さんが、ぴかぴかの椅子を用意して、キーアのために引いてくれる。

「ひゃー」

 上位貴族のキーアとしての記憶はちゃんとあるのだけれど、日本の男子高校生な紀太の記憶のほうが強いニューキーアには『ありがとう』微笑んで優雅に着席とか、むずかしい!

 おっかなびっくり腰かけたら、ルゥイが笑ってる。

「緊張しなくていいのに」

 ちょっとした微笑みとか、笑い声とか、さらさらゆれる蜂蜜の髪とか、腰砕けになりそうな声とか、もう毎瞬がスチルなんですが──!
 なんだこのイケメン──!

 拝みたい!

 思うより先に拝んでた。
 ルゥイがきょとんとして、びっくりしたらしい執事さんの肩が、笑うのをこらえるみたいに揺れている。

 しかしテーブルセッティングされた席に、お弁当を広げるのは勇気がいる……!

 もぞもぞするキーアをわかってくれたみたいに、ルゥイが微笑んだ。

「どうぞ食べて。同席を願ったのは僕なんだから」

「そんな畏れ多い!」

 あわあわするキーアの前のグラスに水を注いでくれた執事さんも、微笑んでくれる。

「どうぞお広げください」

「あ、ありがとうございます」

 ちょっと恥ずかしくなったけど、恥ずかしくなるほうが間違っていることに気がついた!

 大すきな従僕のトマが作ってくれたお弁当だよ!
 堂々と開かないでどうする!

 むん!

 胸を張ったキーアは、お弁当を開いた。

「わあ、かわいいお弁当だね」

 ルゥイが褒めてくれるのが、トマを褒めてくれたみたいで、たまらなくうれしい。

「えへへ。愛従僕弁当なんです」


「………………愛…………?」

 めちゃくちゃ声が低くなってます、ルゥイ殿下!

 ルゥイ殿下、突然、おこのスイッチ入るよね。
 BLゲームでは、いつもやさしかった気がする、けど……叱るときも、ちょっと眉をさげて『もう、だめだよ』って、いつもよりちょっと低い、でも、やさしい甘い声で、頭をなでなでしてくれるから、『ルゥイ殿下に叱られたい──!』っていう人が続出してたんだけど……

 いや、今のルゥイ殿下も、圧と凍気がすごくて、『叱られたい!』って思う人はたくさんいそうだけど──!


 どきどきするキーアをわかってくれたのか、さっと執事さんがルゥイに近づいた。

「ルゥイお坊ちゃま」

 諭すように名を囁かれたルゥイが、こほんと咳払いしてる。


 おお! ルゥイ殿下も『お坊ちゃま』なんだ! 

 か──わ──い──い──!

 もだもだしたら


「言いたいことは分かるけど、言わないで」

 ほんのり赤いまなじりで呟くルゥイが、めちゃくちゃ! かわいー! です!


 きゃ──!





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