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おうえんするよー!
しおりを挟むルゥイの宮には、ルゥイのためだけにしつらえられた庭があって、噴水がやわらかな弧をえがき、しぶきをあげていた。
寒々しくなりそうな冬の噴水なのに、吹く風があたたかなことに気づいたキーアは、目を瞠る。
まるで春のようなあたたかさなのは、大公宮全体を包むように広がる魔法なのかもしれない。
真白な宮を背景に、みずみずしい緑の樹々と、あまい香りをくゆらせる真白な花々と、すべてをきらめかせる水の珠が、春を思わせる風に気持ちよさそうに揺れている。
庭園の中央にはまるく白い卓と白い椅子が並べられ、あるじの到着を待っていた。
執事ホヌが引いた椅子にルゥイが腰かけると、すぐに従僕たちがあたたかなお茶を淹れ、お菓子を運んできてくれる。
プロだ。
思わず拍手しそうになったキーアは、わたわた止まった。
止まったキーアに、ヨニとトマが『よくできましたね』微笑みを送ってくれる。やさしい。
ホヌに椅子を引いてもらったレォが腰かけるのを確認してから、トマが引いてくれた椅子に、キーアはちょこんと座る。
トマが引いてくれると、安心して座れるんだよ。
絶対、かっくんとかしないって信じてるから!
「ありがとう、トマ」
微笑んだトマが、うやうやしく腰を折ってくれる。
そんなのキーアにはしなくていいんだけど、ルゥイ殿下のお茶会に同席することになった従僕としては完璧だ。さすがトマ!
「どうぞ」
はちみつの笑顔で、ルゥイがお菓子をすすめてくれる。
まるい卓の中央にそびえるお菓子のタワーには、粉砂糖できらめくお菓子が鎮座していた。
「ありがとうございます!」
輝く笑顔でキーアが、いちごもどきのパイっぽいお菓子を見つめると、すぐに察したホヌがきれいに取り分けてくれる。
「ありがとう」
微笑んで、そうっとフォークで切り分けて、頬張った。
さくさくのパイ生地が、噛み締めるといちごもどきの甘酸っぱい香りと溶けてゆく。麦の香りといちごの香り、ほっぺたがゆるむ甘さが口いっぱいに広がってゆく。
『うまー!』
言えないから、とろける顔で笑う。
「とってもおいしいです、ルゥイ殿下」
「気に入ってくれた? よかった」
微笑んでくれるルゥイがやさしい。
「しょっぱいお菓子は?」
眉をさげるレォに、ルゥイが吐息した。
「予定外に来るからだよ。今、焼かせているから、もう少し待って」
「わかった」
お茶をすするレォと、レォのこのみを完璧に把握しているのだろうルゥイは、やっぱり仲良しみたいだ。
さっきのは幻覚だったんだな。よかった!
いや、喧嘩するほど仲がよい?
かわいいふたりのじゃれあいだったのかもしれない。
『もう、ルゥイったら、氷の山まで出して♡』
『だってレォの口答えがあんまりかわいいから♡』
これだよ、これ!
やっぱり、ルゥイ×レォ、もしくはレォ×ルゥイは外せないでしょう、王道だよ!
いや、どっちが王道かで、血で血を洗う争いがあるんだけど、そこはおいておいて、このふたりが並んでいるだけで、うっとりしちゃう。
ふたりで仲良くお茶してるスチルとか、BLゲームにはなかった。
攻略対象同士のからみが殆どなかったから、よけいに想像が爆発して2次創作が発展したんだけど、目の前で、その見ることさえ叶わなかった、公式の生スチルだよ──!
「はー♡ 尊い──♡」
拝みました。
当然です。
尊すぎて、くねくねしちゃう!
ルゥイとレォが瞬いて、ちいさく笑った。
やさしい瞳は、3歳のお子さまを見守る目になってる。
……ちょっと、はずかしい。
「あ、あの、ルゥイ殿下、入学試験の日は、ほんとうにお世話になって、ありがとうございました。貸してくださった布を洗ってお持ちしました。ささやかですが、御礼です」
きれいに包んだナプキンと、贈り物を差しだしたら、はちみつの髪が、ふわふわ揺れる。
「うれしい。ありがとう」
贈り物なんて、湖ができそうなほどもらっているだろうに、とろけるように、ほんとうにうれしそうに笑ってくれる。やさしい。
すぐに包みを開けてくれたルゥイは、現れたはちみつ色のペン軸に眉をさげた。
「……青じゃないんだ」
がっかりさせちゃった……!?
『……こっちのほうが、喜ぶと思うけど』
レォが教えてくれたのも、青だった。
「ご、ごめんなさい、あの、レォさまが、ルゥイ殿下のおすきな色を、ちゃんと教えてくれたんですけど、その……俺の目の色が青で、分不相応なので──!」
ロデア大公国では自分の目の色が入った品を送るのは、家族、恋人、伴侶くらいだ。
そうじゃないときは、告白になる。
『あなたをお慕いしています。もし、あなたも同じ気持ちなら、私の色を身につけてください』
という意味なんだよ!
前のキーアも、そこはちゃんと覚えてた。えらい!
はじめて、ほめたと思う。
前のキーアが、照れ照れでうれしそうに、ぷよぷよんな胸を張ってる。
「……レォが?」
若葉の瞳が、まるくなる。
レォが、にこりと微笑んだ。
「キーアがルゥイのこと、どう思ってるのか、よくわかると思って」
「へぇえぇえ」
腰砕けのあまい声が、大地をえぐってます、ルゥイ殿下──!
「キーア、『あーん』は?」
ルゥイが、とろけるように笑う。
「俺がしてあげます。あーん」
レォが、突き刺した焼きたてのワッフルを、ルゥイの口にねじこんだ。
「ちょ、熱いから……! んん──!」
ちょっと涙目なルゥイがもごもごしてる。
「もっと喰う?」
レォの目がとても楽しそうにきらきらしてる、最高なレォ×ルゥイが目の前で展開されたり
「……キーア、ルゥイに『あーん』してあげたって……」
ぶっすりふくれるレォに、ルゥイが、はちみつの髪を揺らして笑う。
「僕がしてあげるよ、あーん」
はちみつたっぷりのワッフルを、ルゥイの指がレォの唇にねじこんだ。
「……あ、ま──!」
ちょっと涙目になったレォが、うらめしそうにルゥイを上目遣いで見あげてる。
「もっと食べさせてあげるよ、あーん、レォ♡」
「んぅ……! ちょ、やめ……ルゥイ──!」
はちみつワッフルをレォの口に次々投入しようとするルゥイという、最高なルゥイ×レォが目の前で展開されたりしたんですけど!
な、生スチルだよ……!?
公式だよ!?
全年齢対象のBLゲームだったはずなのに、攻略対象同士が、こんなにえろくていいの……!?
ちょっと、はあはあしていいかな!
よだれが、じゅるっじゅるなんですけど──!
「キーアおぼっちゃま」
さっとハンカチを差しだしてくれるヨニの生あたたかい目が、やさしい。
「きゃ──♡」
燃える頬で、くねくねしながら拝みました!
「………………え…………?」
顔を見あわせたルゥイとレォが、びみょーな顔になってる。
ごめんなさい。
ファンです。
課金してるから、嘘じゃないよ!
「ちゃんとトマとヨニと帰りますー! たまらなく色っぽいおふたりを、ごちそうさまでしたー!」
しゃっと後ろに立ってくれたトマとヨニと一緒に、貴族の敬礼をして、とろけて笑う。
「………………えぇ…………?」
ルゥイとレォが茫然としてる。
つい、愛がダダもれて恥ずかしかった? わかる!
つい、推しに対する愛があふれて拝んじゃうのも恥ずかしいよ!
「この後、たっぷり、おふたりで、いちゃいちゃなさってくださいねー!」
燃える頬で、応援の手を振った。
見せてほしいけど!
是非目の前で、生で! お願いしたいけど!
やっぱりそこは、ファンとしてはお邪魔してはいけないところだと思うのです。
もう鼻血出そうだからね。
今日はおとなしく帰るよ。
はー♡ 至福スチルをありがとうございました──♡
「おふたりのこと、心から応援してます──♡」
じゅるじゅるの口元をぬぐって、熱い頬で笑う。
「………………えぇえ………………?」
茫然としてるふたりの呟きが、きらきらの水の珠に溶けてゆく。
そろそろ大公立学園の合格発表の時期だよ!
どきどきしながら、スーパー従僕トマと鍛錬したり、畑を耕したり、筋トレしたり、精霊語や魔法のお勉強をしたり、おじいちゃん執事ヨニにお茶の淹れ方を教えてもらったりしつつ郵便屋さんをお待ちしています。
「はー! どきどきする……!」
まあ、これで落ちても、大公立学園は3年制なので、あと2回受験して合格できたら、何とか攻略対象を遠くから拝める!
でもできるなら同級生で、なるべく近くで拝みたいよ!
お願いします!
祈りの踊りをはじめるキーアに、トマもおじいちゃん執事ヨニも、生あたたかい目になってる。やさしい。
「郵便でーす!」
「来たぁあアア──!」
郵便の来る予定が合格発表以外ないという、さみしいキピア家の歓待に、郵便屋さんが、びくっとしてる。
白い封筒の裏には『大公立学園』差出人の名前が輝いていた。
「はー、来たよ、トマ、ヨニ!」
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「だいじょうぶですよ、落ちつきましょう、キーアおぼっちゃま」
「魔法科はきっと大丈夫ですよ! 騎士科に受かってるといいですねえ!」
にこにこトマが励ましてくれる。
「よ、よし、開けます──!」
ぶるぶるふるえる手で、そうっと開いた手紙に書かれた文字を読みあげる。
はー! どきどきする……!
ええと
『キーア・キピア
騎士科 次席合格
魔法科 次席合格
騎士科と魔法科、両方の講義を受講されたし』
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