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ゼァル・ロデア
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ゼァル・ロデアだ。
ロデア大公国で将軍をしている。
左の目が鋼の色、右の目が紫だ。
紫の目を持って生まれた瞬間、ロデア大公国の中枢を担い執務を行う可能性は0になった。
生まれたときから眼帯で目を隠されていたから、右目はほとんど見えない。……いや、眼帯を取ることがほとんどないので、よくわからないが、右目でものを見た記憶が、ほとんどない。
眼帯が外れれば、紫の目が見えてしまう。
自然と人を避けるようになり、気づけば孤立していた。
双子の弟がロデア大公に就任したおこぼれのように、お飾りの将軍の地位を与えられた。
『中枢から外れたところで、たまにやってくる魔物討伐でもしていてくれ。決して表に出るな』
ロデア大公国首脳部の言いたいことは理解した。
ほんとうは、静かに本を読むのがすきな、引っ込み思案な長子だった。
得意な頭脳労働で、外交の得意な弟の補佐ができたらと願っていたが、それすら許されなかった。
仕方なく鍛錬に励んでみたら、存外適性があったらしい。お飾りとはいえ、何とか魔物討伐をこなせるようになった。
晩餐会や舞踏会に呼ばれたことは、一度もない。
ロデア大公家の汚点とさえ、言えるのかもしれない。
紫の目。
ただ、それだけのために。
トリアーデ家に生まれた末子は、両目が紫なのだという。
痛ましく思った。
名家ならなおさら、生まれなかったことにされる。
殺されそうな弟を生かしたのは兄たちだったらしい。
早々と伴侶(予定)もできたようで、髪で目を隠しながら舞踏会に出ていると聞いた。
……伴侶(予定)か。
自分に、もし、そんな人がいたら。
すきな本を読んで、その人とともに笑う未来もあったのだろうか。
考えても、詮ないことだ。
紫の目を隠し、ほんとうの自分を隠し、剣を振るう。
生きている意味は、あるのだろうか。
考えると痛いから、目を閉じた。
生きることに期待していなかった。
紫の目を隠しても、魔王はやってくるかもしれない。この目を食べに。
そう思うと恐ろしい気もしたし、救われる気もした。
日々鍛錬し、魔物が出たら討伐に向かう。
幾歳、そうして過ごしただろう。
春に、魔物が湧いた。
滅多とない事態だ。
ロデア大公立学園の生徒たちが、討伐に参加してくれるという。実戦演習も兼ねているらしい。
弟のハゥザがやりそうなことだ。
ハゥザが推薦するなら間違いないだろうが、実力が不足していたら危険だ。学生も討伐隊も。
確認に向かったら、トリアーデ家のネィトが髪をあげていた。
両の紫の目で、笑っていた。
伴侶(予定)のキーアと。
……うらやましかった。
自分は片目、向こうは両目、ネィトのほうが不利なはずなのに、友にも伴侶(予定)にも恵まれ、紫の目を曝して笑っている。
──自分には、誰もいないのに。
弟たちは親しく会話してくれるが、こちらには壁があった。
紫の目。
ただそれだけで、眼帯を強い、鍛錬を強い、将軍という名の、ロデア大公国ではあってもなくてもいい地位に押しこめられた、やるせない恨みが、紫の目を持たない弟たちをうらやむ気もちが、ないといったら嘘になる。
ただひとりきりで生きてゆくのが、紫の目を持つ者の宿命だと思っていたのに。
ネィトは違った。
キーアの隣で、笑っていた。
うらやましかった。
ネィトが、キーアが、憎らしかった。
キーアはネィトだけでなく、ルゥイにもレォにも慕われているようだ。
弟たちまで、キーアに夢中だという。
大公立学園に入学したばかりの少年に?
まさかと思っていたが、ハゥザの反応を見ていると事実らしい。
ぱっと目をひくような、誰もが褒め称えるかんばせではないのかもしれない。けれど大きな青の目は空を映したようにきらめいて、くるくる表情がよく変わる。
りすみたいに愛らしいのに素早くて、りすみたいな外見に反して、強い。
次はどんなことをするのかと、目が離せなくなる。
赤い頬で、うるんだ瞳で、うっとりしたように見あげてくれるから、勘違いしそうになる。
伴侶(予定)がいるくせに、そんな顔をして俺を見るな。
思うくせに、キーアがネィトを見ていると、おもしろくない。
ルゥイやレォ、ハゥザに抱っこされているのを見るのも、むっとした。
皆とおなじように、キーアを目で追ってしまう自分が、くやしかった。
キーアは魔界への門を開き、魔物たちを魔界に帰し、魔王と会話し、紫の目の人間は魔王に心配してもらっていただけなのだと明らかにしてくれた。
弟の大公が布令を出し、紫の目に対する差別は、瞬殺された。
キーアのおかげで、あっという間に、世界が変わった。
眼帯を、外せるようになった。
紫の目で見る世界は、ぼんやりしている。
両目でものを見ることに慣れていない。ずっと覆われていたから、視力もほとんどないのだろう。
いびつな世界で輝くのは、キーアだ。
きみが、紫の目の人間を、救ってくれた。
きみが、俺を、解放してくれた。
想わないなんて、できない。
伴侶(予定)がいることはわかっている。
キーアを思う者が、たくさんいることも。
歳は離れているし、望みもないとおもう。
それでも、ずっとひとりだった世界に、まばゆい光のように舞いおりたきみを、思うことだけは、ゆるしてほしい。
きみの力になりたい。
きみを守りたい。
きみと、笑いたい。
いつも怖いと遠巻きにされてしまう俺の笑みを、かっこいいと笑ってくれたきみとなら。
一緒に、笑えるとおもうんだ。
この思いが届くことはなくても。
──俺は、きみの盾に。
きみを守る力を得るためだった、そう理由をつけたなら、あの鬱屈の日々さえもやさしく輝きはじめる。
きみの力になれることが、たまらなくうれしいと思うんだ。
もし、万一、俺を応援してくれる奇特な方がいるなら、ありがとう。
心から、感謝する。
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